先週のブログでは活性酸素は健康に好ましくない。防衛としてポリフェノール化合物を摂るとして酸化防止のメカニズムを記載した。今週は活性酸素の名誉回復編を紹介する。
身近にある活性酸素が利用された商品では漂白剤(ブリーチ)、消毒・殺菌、脱臭などが、工業的では半導体の表面洗浄、印刷前処理などがあげられる。原料は過酸化水素であったり、空気をコロナ放電させて活性なオゾンを発生させる方法がある。カラフルな印刷がほどこしてあるショッピングバッグのポリ袋。材料はポリエチレンが多いが、このポリエチレンの分子は炭素と水素からなり、極性のあるインキとは水と油の関係にある(相溶化能力が低い)。従って、極性のないポリエチレンの表面を活性酸素でカルボニル基、水酸基、カルボキシル基などを生成させて極性化することで印刷インキがポリエチレン表面に濡れて硬化することで印刷が可能となる。一般的にエネルギーが低い装置としてはコロナ処理が、強いエネルギーを与える場合には紫外線や電子線照射、さらに強くはガンマ線照射などが利用される。ショッピングバッグ程度の印刷ではコスト・パフォーマンスからコロナ処理がなされる。過剰に電圧をかけると返って濡れが悪くなる。近い極性のところで合わせるのがポイント。
化学式からおおよその相溶化(濡れ性)を予想することができる。
便利な「溶解パラメータ」である。
SP(Solubility Parameter)
右の表に簡単にまとめた。テフロンは溶剤や樹脂とは容易に混合しない。水は特別な溶剤であることがわかる。光重合で適用するポリメタクリルアクリレートやエポキシは9~10台にあり、後重合の前に予備洗浄する溶剤がイソプロピルアルコールである理由も納得。
少し脱線するが、樹脂と水は全くSP値は離れている。なので、川や海で樹脂が溶解することはない。溶解するより河川の出口などで歯止めをすることが可能であれば海で問題になっているマイクロプラスチックス問題は解消される可能性がある。むしろ、悩ましいのは生物分解樹脂。完全分解までの途中経過は本当に環境に問題がないのか、これからの課題である。
ポリエチレンは水溶性インクとはSP値が離れている。そこで酸素ラジカルを反応させて水溶性インクとなじむようにしている。 大手フイルムメーカーの工場ではフイルムを成形しながら表面にコロナ処理を施し、グラビア印刷を行う工程を見ることができる。紫外線は3Dプリンターの光重合に用いられている。電子線照射はポリエチレンに他の化合物をラジカル・グラフト反応する場合に利用される。ガンマ線はグラフト反応よりは殺菌に利用することがあり、医療用器具は利用されている。殺菌には120℃の高温殺菌、エチレンオキサイド処理があるが、短時間にドライ処理できる展はガンマ線処理が利用されている。
さて、活性酸素は文字通り、酸素から生成される。酸素は肉体にとって安全である。ここで癌を含有している細胞の内側まで光増感剤を侵入させ、皮膚の上から紫外線を照射することで細胞内で活性酸素を発生させてがん細胞を死滅させることを考えた研究者がいる。
東工大・生命理工学院 湯浅教授が従来の光線力学治療法を発展させている。光増感剤をグルコースの輸送体と合体させ、癌がある細胞に入り口から内側に侵入させる。
外部から光を照射することで光増感剤により細胞内の酸素が安定基底状態(一重項エネルギー)からエネルギーの高い状態にシフトする(三重項状態)。三重項状態から基底状態に戻るときに活性酸素が分離される仕組みである。これが癌を死滅させる。
この考え方は従来から存在していたが、
①紫外線が到達する距離は皮膚の直下と限界があったことから、体内深部まで光線が通らない。
②光増感剤の分子が大きいので癌細胞まで到達する時間が長い。その間は遮光室の中に1週間ほど居住続ける必要があるなど患者にとっては不便極まりない
③従って使用済みの増感剤が排出されるにも時間がかかる。との問題があったとのこと。 ①に対しては近赤外線の利用 但し、低い紫外線の比較すると低エネルギーなので光増感剤の分子の研究をされている。 ②③については低分子で速く癌細胞まで到達するように工夫をされている。 動物実験の段階ではあるが、これの実用化される意味は非常に大きい。この研究はナノマシンを用いた画期的な画像診断と治療実用化を精鋭な研究者が実行している。期待しよう。