2017年 11月 の投稿一覧

シルクとPETボトル

横浜にはシルクにちなんだ博物館や倉庫があり八王子や関東を中心とする生糸生産地からこの地に運ばれ欧米に出荷されていた歴史的名残がある。シルクは蚕が口から蛋白質のフィブロインを糸状に吐き出し繭となり、それを解いて何本かを束ねた撚糸としている。材料屋として興味があるのは強度、しなやか、光沢及び吸湿性があり肌にも良いのは何故だろうか?である。蛋白質フィブロインは天然高分子だから蛋白質ユニットが幾つか連結した形になっているが、分子量はなんと37万と極めて高いのに驚く。合成高分子で我々お馴染みのあるのはスーパーに置いてある極薄ポリエチレンフィルムであるが、その分子量は50万である(測定法が異なるので一概に比較はできないので、大まかに見て)。とするとシルクが強度を発現するにはもう一つの要因がある。蚕が口から糸を吐き出すときに体を捻って口を振って糸を延伸しながら吐き出していることを見つけた人がいる。合成高分子の繊維製造でも延伸により強度を発現させているが、蚕は「延伸」「強度」などつゆ知らず押出―延伸―繭成形を自然に行っていることに驚く。繭から長さ1300mの糸切れなく連続繊維が取れることも驚きである。

現在は繊維に限らず包装材料の多くはPET、ポリプロピレン、ナイロンなどを延伸して薄肉・強度・透明・ガスバリヤー性能を満足させている。その一つがPETボトル成形にみることができる。原料はポリエチレンテレフタレート(略PET)で主用途は繊維。全体の1割程度がPETボトル。分子量(極限溶液粘度法:相対的にご判断下さい)は、0.550.7の繊維用に対してボトル用は1.2と非常に高い。以前は直接1.2まで重合することができないので0.6粘度品を連結(固相重合)して1.2としていたが、最近になり触媒や工程の改良で直接重合できるようになった。PETボトルの成形のスタートは試験管と類似のプリフォームを成形するところから始まる。

1)原料メーカープリフォーム成形→ボトル成形業者が購入し加熱成形→飲料メーカー

2)ボトル成形業者が内製でプリフォーム成形しボトル成形→飲料メーカー

3)飲料メーカーが一貫成形―殺菌―飲料充填

この工程の中で強度と透明性はプリフォームを延伸することがポイントである。

参考資料はボトル成形機メーカー(青木固研究所)の資料を抜粋した。

乾燥されたPETペレットを射出成形してプリフォームを成形(ボトルの底に射出したときの跡がある)、成形温度が冷えないうちにボトルの内部に延伸棒でプリフォームを垂直方向に延ばし、同時に空気圧力で横方向(円周方向)に延伸すると垂直・横方向の2方向に材料は延伸され強度と透明性が確保できる仕組みである。この装置では2)3)が可能。

PETボトルに高温注意とあるのは、延伸したときの温度以上のモノを詰めると(樹脂は延伸されていた記憶を思い出して)戻ろうとするからである。高温充填向けには耐熱材料との複合化がなされている。

最後に、繭から織物向け繊維を取るときに繭の毛羽をとる必要があるが、これが保湿効果や加齢臭対策になるとして今や引っ張りだこ状態。繭を原料とする用途はこれからも広がるだろうが、肝心の桑畑が課題。デジタルカメラ登場でネガフィルムカメラが完全衰退すると思いきやインスタグラムの急進で増産している現象など面白いこの頃である。

ガソリンタンクの樹脂化

ガソリンスタンドで久々の遠出のため満タンお願いしたところ、途中でスタンド店員が怪訝そうな顔で「このクルマ大丈夫ですか?漏れていませんか?」と聞いてくる。メーターは60リッターを超えている。そう言えば何十年前のドッキリTVで軽自動車のタンクを大型に改造してスタンド店員を驚かす番組があったことを瞬間思い出した。

最近のクルマはエンジンのダウンサイジングに伴う燃費向上やハイブリッド車の浸透もありCクラス車ではタンク容量は45リッター前後になっている。それでも普通はガソリン継ぎ足しなので、60リッター給油はこの店員からみると異常に映ったのであろう。

 

40年前まではタンクは金属製で給油の度にタンク内防錆剤はいかがですか?と迫られていたものである。今は樹脂製であるがその理由はもちろん防錆剤不要が原因ではない。クルマ内でのタンクの設置場所が金属製に比べて自由度があり、居住空間やラゲッジルームが広く取られるデザインメリットが大きい。その上、安全性も高いと書くと金属に比べて樹脂が安全??とそれこそ納得しない人がいてもおかしくはない。40数年前はその{常識}と格闘していたのだ。樹脂製にすると複雑な形状にできるので、座席、ラゲッジ内のスペアタイヤなどの隙間の空間に設置することもできる。ランドクルーザーではフロアに乗せるのではなく、路上からの石跳ねにも耐える強度があるので、フロアの一部としてタンク露出の設計をすることがある。

当初は樹脂製のタンクといえば灯油缶みたいなモノをクルマに搭載するのか?と言われたが、フォードが樹脂製タンクの開発を始めると情勢は徐々に変化して、金属製と樹脂製を冷静に比較し始めた。金属はガソリン透過性が小さいが樹脂は透過し易い、衝撃強度は樹脂製が高いことを樹脂専門家は理解していても、金属の「なんとなく安心感」を消費者がもっているだけに容易には受け入れられない。

そこで樹脂製タンクにするには第一にガソリン透過性を改善すること。第二にタンクとしての衝撃が高いことを証明することであった。米国では高密度ポリエチレン中空成形のタンク内面をフッ素処理やSO3など化学処理する実証試験が進んでいたが、日本勢は燃料透過性が低い材料をサンドイッチすることに注力した。当初はナイロンを検討し、現在はEVOH(エチレンビニルアルコール)に切り替えポリエチレンとの溶着性改良のための接着性材料をも開発し、合計3種5層~7層構造のタンクにした。現在はこれがグローバルスタンダードになっている。次に衝撃強度に対するタンクメーカーや消費者への安心感対策である。ガソリンの代わりにエチレングリコールを満タンにして極寒地の衝突を想定してー30℃に冷却して3階建物の屋上から鉄板を敷いた地表に落下したところ、破壊せず2階付近まで戻ってきたことで充分な強度があることで受け入れられた。昨日のことのように思い出す。そのガソリンタンク。今度はEV化の動向の中でまな板の鯉状態にある。トータルで見たLCA(素原料発掘―精練・精製―輸送―成形―組立ー使用時各工程での発生する炭酸ガストータルの環境負荷アセスメント)ではガソリン利用車は行き残る可能性が高いと考える。小型化かもしくは食品包装のようなフィルム状になってクルマのピラー(柱)内蔵になるかもしれないが商品発想は継承されるであろう。

尚、医療材料・製品についても機能別の多層化があるかもしれないとの期待を持っている。

 

写真は日本ポリエチレン資料ガソリンタンク(ポリアセタール製燃料ポンプ内蔵)

パワーデバイス

パソコン作業を中断するときスリープにするか終了するか悩ましい時がある。パソコンへの負担は立ち上げ回数によると漠然と思っているが、国の電力キャパとの関係まで正直考えなかった。今後益々増加する通信量の消費電力に対するソリューション例を考える

通信ネットワークの通信量は総務省20178月統計資料によれば対前年39%の増加と驚異的な数字が報告されている。今後通信動画の高細緻化が進めば通信ネットワーク容量も現在の1000倍必要となり、その時のルーター消費電力は2030年には総発電量11,000億KWを遙かに超えると予想されている。モバイル、パソコンなど個々の機器の消費電力は小さいと思っていただけに一般消費者としては意外である。

自動車自動走行レベル2でも相当コネクトが進んでおり、レベル3になると飛躍的に増加すると予想される。また遠隔地医療のための精緻画面電送システムの充実も要求されると予想される。

現在のネット利用の時間帯は21時~23時にピークがあり、土日に集中しているとの総務省資料がある。 一方でEV車の割合が高くなる機運にあるが、素直に読めばEV車に充電する時間・日と重なることから①発電所増設+休眠発電所再稼働 ②ネットワークアーキテクチャー抜本構築 ③パワーデバイス開発 などを実行しないと社会インフラに重大な危機をもたらす。ここでは③について電力変換や電力制御に利用される半導体について採り上げる。現在の半導体はSi(シリコン)であるが、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(ガリウムナイトライド)半導体の開発がなされ、コンバーターとして徐々に浸透してきた。これらはシリコンに比較してバンドギャップが2~3倍、絶縁破壊電界が6~10倍、放熱に関係する熱伝導率が1.5~3倍で高温環境下でも性能が発揮するのが特徴である

因みに、ある電子機器の電力損失のうちスイッチオン20%、オフ時32%のオン・オフだけで52%が損失となる(残りは稼働時の損失)が、SiC半導体ではスイッチオフ損失15%に、稼働損失を入れてもトータル47%は削減できるとの報告がある。(ローム社カタログ)

 

今後、例えば自動車の半自動走行レベル2でもピコ秒単位でのオン・オフ切り替えがなされると半導体の発熱による能力低下問題から耐熱・熱伝導性の良い新規半導体に切り替えが進むものと推定される。但し、ウエハーの加工問題や価格問題もあることから、商品の電圧によっては、安価なSi基板の上にGaNを複層するなど種々の組み合わせも提案されている。化学、加工技術、半導体部品製造が一体となった技術開発が求められ日本の底チカラが活かされる時期到来となった。デンソー、東芝も参入してきた。

ウイスキーは数滴の加水で美味しくなる?

今回は紳士淑女が愛してやまないウイスキー、ブランデーについて。ウイスキーに水を数滴加えるとすると味が美味しくなるのは経験された人は多いと思われる。アルコール(エタノール)と水は分子構造が似ているので良く混合する。なので数滴といえども加水すれば水っぽくなる筈であるが、逆に美味しくなる理由が分からない。凡人は何故?と考える前に酔いしれるが、世の中には分子動力学によるシミュレーションでアルコールと水がどのようにウイスキーの中で存在しているかをコンピューターで計算した研究者がいる。(オリジナル文献スウエーデン・リンネ大B.C.G.Karlsson,R.Friedma Sci.Rep.,7 6489(2017) 、引用文献 現代化学201711月号)

分子動力学シミュレーションはコンピューター上の仮想空間にエタノールと水の分子を配置し、原子に働く力及びポテンシャルエネルギーを仮定しニュートンの運動方程式に従って分子の運動の軌跡を計算する。ウイスキー醸造後のエタノール濃度は55~65%であるが、瓶詰めの段階で加水され40%に調整される。研究者は27%のエタノール濃度の時にエタノールと水は瞬間的に何処に存在するのか計算し統計的に処理した結果、表面層にエタノールが濃く存在し(平均の4倍)、表面から内部に向かうにつれ水の濃度が高い結果となった。かつエタノールはCH3-CH2 –OHと表現されるが、液面の最表面ではCH3-CH2が並んでおり-OHは内側に向いていることを算出した。これに数滴の水を加えるとこの傾向は更に強くなることが計算で求められた。尚、醸造後のアルコール濃度55~65%では全く均一であることと様相が異なる。

スコッチウイスキーにはエタノールだけで無く其の他成分(例えば香り成分)も存在している。醸造時に生成する香り成分とエタノール、水との3元系について、同様に動力学シミュレーションをしたところ、この香り成分の特定の箇所がエタノールに積層して存在するが、数滴の加水で表面層のエタノール濃度が高くなると、この香り成分はエタノールから分離揮発して我々が香しいと感ずるメカニズムを明らかにした。

左党にとってなるほどと関心を持って頂けるか、硬水と軟水ではどう違うのか?日本のワイン作りは水で苦労したと聞くが、どのように工夫したのかなど話題は尽きない。

それなら歯科関係のあの材料はどのようになるだろうかと想像を逞しくするのも良いのかも。酔い知れる前に。

東京モーターショー。パワードライブはEVで決まりか?

東京モーターショウが開幕したので早速見学。往年の大混雑と様変わりでゆっくり見ることができた。中高年と小中学生の団体が多く、中間層のクルマ離れ対策として小中学生にクルマへの関心を持たせる意図も工業会にはあるのだろう。展示はEV(電気自動車)に注目が集まるだろうとの予想は良い意味で裏切られた。EV化は折り込み済みで関心はEV代替パワートレインとコネクト技術であった。

EV化が現実的な当面のパワートレインであることは間違いがない。

理由の一つは米国カリフォリニア州のZEV規制(ゼロエミッションヴィークル:排気ガスゼロ)合格車の割合が決められており、合格しない場合にはクレジットを先行メーカーから購入する必要がある。ハイブリッドは対象外扱いになったのでトヨタは巨額のクレジットをテスラモーターから購入したとの情報があり、一方、三菱、日産は購入必要性が少ないとのこと。両社はEV車を製造しているからである。

理由の2つ目はフランス、英国、中国もエンジン車廃止の政策を打ち出していることも影響は大きい。

しかしながら、自動車に関して目の肥えた日本ユーザーはクルマのパワートレインがエンジン廃止→即EVになると単純には考えていない。技術立国だけに種々の選択肢があり究極のパワートレインはEVではなさそうだと見ているからである。

今回の展示で最も注目されていたのがマツダのHCCIエンジンである。黒山の人だかり。

通常のガソリンエンジンが点火プラグでガソリンを着火爆発させてピストンを押すのに対してディーゼルエンジンは軽油を高圧圧縮して軽油の着火温度に達した時に爆発してピストンを押し下げる。この両方のプロセスしかないとの常識に対して、ガソリンを燃料としてディーゼルエンジンのように高圧圧縮点火させる離れ業をやってのけた。従来のガソリンの半分の濃度で駆動する。

一般に発電所で燃料を燃焼させ電気を取り出す効率は55%である。それに対して通常のエンジンでは30~40%。トヨタのル・マンレーシング用ハイブリッドエンジンでは50%まで改良されマツダの今回エンジンは恐らく発電所並の効率で走行することになろう。送電ロスが約6%なので、EVよりはマツダ新エンジン、トヨタハイブリッド用エンジンがトータルでは適していることになる。

一方、トヨタとメルセデスベンツは究極のエコカーはFCV(水素燃料電池車)であると考えている。両社はコンセプトカーを展示している。EVは発電所で発電して蓄電池に電気を溜めるのでEV増加につれて発電所増設が必要であるが、FCVはミニ発電所を装備しているようなものなので社会インフラ負担は少ない。FCVも蓄電池は必要であるが、トヨタでは全固体電池の開発をしている。水分や空気に触れると爆発燃焼するジエチルカーボネート電解液利用のリチウム電池を代替する計画はリチウム電池廃棄処理を考えると固体電池が好ましい。その一方でリチウムに代わるマグネシウム利用二次電池の基礎研究も進んでいる(東京理化大)

今回の展示から話題はそれるが水素の原料問題に触れてみよう。

以前はメタノール、LPGからクルマ搭載の分解装置で水素をとる考えがあったが、現在はオーストラリアの褐炭中にある水素を-283℃で液化して輸送する方法を川崎重工がプロジェクトを推進しており、岩谷は化学コンビナートでの副生成ガス利用プロジェクトを推進している。アンモニアからプラズマ処理で水素と窒素に分解する手法を中小企業が開発しているなど頼もしい。最近、水に光を照射して水素を得る研究が大阪大学から発表された。真嶋教授グループが黒リン、金ナノ粒子、チタン酸ランタンの3つの材料からなる可視光・近赤外光応答型光触媒を開発、水から水素の高効率生成に成功するなど水素社会に向けて着々と前進していることは期待をもって注目される。

パワードライブEVで決まりか? その答えはガソリン、水素は侮れない。