2018年 5月 の投稿一覧

金平糖

ノーベル賞のパロディ版としてイグノーベル賞がある。思わず笑ってしまうが着眼点は凄いなぁと感心することがある。日本人の受賞者が多いことでも知られている。カラオケの効果や歯周病と経済は関係があるとの解析もあれば、兼六園の銅像には鳩の糞がつかないことからカラス避け合金の発明などがある。犬との会話ができるバウリンガルもあった。さしずめ小職が選ぶテーマとしては、スマホによる親指の長さの世代間変化か

文科省ナノテクノロジー分子・物質合成研究プラットフォームでは「オリジナルの着眼点に将来のビジョンを描く」として、この世の中には、一見役に立たないように思われることは沢山ある。しかし、ある瞬間、突如としてブレークスルーすることがある。今は役に立たずとも、必ずや未来に花を咲かせる研究シーズを紹介する「すぐには役に立たない研究講座」を開催している。日本は独創性に劣るとの批判もあるのであろう、本来は役に立つことを前提に科研費を大学に出す文科省が、直ぐには役立たないシーズ研究を許すことが有意義なことと思う。ある日突如ブレークスルーするには感性の違う聴衆に訴えることは有効である

そこで日頃は非常に難解専門用語や数式を駆使されている大学研究者が、異なる分野の聴衆に聞いてもらうために平易に説明する必要がある。専門仲間内の言葉では伝わらない。ここで講師の力量が試される。本当は超難解な内容を平易に説明してくれると「確かに役に立ちそうだ」とぼんやりながらでも脳みそに浸透する。開催者から講演指定された人の中には「役に立たない」からと指名され招待されたとしてやや抵抗気味に発表しているのは微笑ましい。517日のテーマは 「鏡の中のグルコースを食べる微生物」、「金平糖の形状に法則性があるか」、「本当に使い難い技術」、「電子の集団行動がもたらす不思議な現象」などである「鏡の中・・」はD体、L体のグルコースの一方を利用して創薬の可能性を。「本当に使いにくい・・」はマイクロ反応装置を利用した化学反応精密制御技術の開発、「電子の集団行動・・」は膨大な情報処理を電子の電荷とスピンに分離し媒体利用しようと、確かに今ではなくとも役に立ちそうと理解できる

ここで気になったのは「金平糖」。実は金平糖のような形状がある物質で可能なら面白いが。。。と考えていた時にこの講演会。これは天の配剤として会に参加した次第。ニーズがあり役立つシーズを探していた。弘前大学の宮永教授の発表は1)何故角が発生するのか2)角の数に法則性があるのか として、10年に及ぶ学生実験を纏めたものである。ご承知のように金平糖は大きな平鍋を略30度傾斜させ加熱・回転しながら核種の表面に糖蜜を掛け乾燥すると糖蜜を更に掛ける作業を続けると角が発生する現象を利用したお菓子。核種が1粒だけでは角が発生せず球に成長するだけだが、複数の核種では角が生え始める。当初の角は90数個の小さい凸が10時間後には20前後に落ち着くとのこと。教授は淡々と実験事実を発表していて、初めはこれが国立大学?と驚いたが、聴衆に答えを直ぐに言わずに各自の頭で考え創造性を高めるようにとの会の趣旨に合致していることが分かった。

糖蜜が回転する平鍋の界面で水分が蒸発することで粘度が高くなり摩擦によるカタストロフィーにより微小な凹凸ができるのだろうと思われる。微小な凹凸が隣の凹凸と衝突することで蜜が積層する角とそうでないところに分かれると推察した。これは空間を如何にして作り最適解の形状を設計する「トポロジー」の世界である。3Dプリンターと本質的に共通するものがあると思われる。コスモサイン合同会社では3Dプリンター装置販売と同時に専門誌・歯科技工からのご依頼により3Dプリンター記事を連載中である。妙なところでリンク。当初考えていた用途への適用には糖蜜代替物質を考慮することで実用化を計りたい。宮永教授は金平糖の角と雪道での凸凹を結びつけている。これもいずれ冬タイヤ溝形状などへの役立つことになると期待している。青森の厳冬のなかコンビニの前の道路をじーっと観察している学生さんは、自然現象の中に多くの役立ちシーズがあることを学んだのであろう。

海岸の流れの強い場所で二枚貝のイガイは足糸をつかって岩に付着している。これを見た研究者はテフロンであろうが付着するので研究をしたところ、ポリドーパミンが付着物質であることを見つけた。神経伝達物質であるドーパミンが酸化重合したものである。今は医療用コーティング材、導電膜、メッキなどへ応用されている。自然界にはまだまだベールに包まれた技術ネタがありそうだ。と書きながら自然界はオープンに公開している。観察眼のなさをベールと表現しているのは自然に対して不遜な態度なのであろう。

バイオプラスチック(2)生分解性プラスチック

生分解プラスチックは例えばポリ乳酸は澱粉などを発酵により乳酸とし重合によりプラスチックスになる。使用後は微生物により分解されて水とCOかメタンとCOに分解する。空中のCOを固定して利用し微生物により低温分解して元に戻す。COを増加しないプロセスとして優れている

欧州バイオプラスチック協会が公表している調査結果によると、2017年の世界の生産能力は205万トン。 生分解性プラスチックスはその内44%で85万トン。主たるプラスチックはポリ乳酸(PLA)と脂肪族ポリエステル(PHA)で今後も50%の成長速度が予想されている。世界のプラスチックス総生産量は約3億トンなのでバイオ全体でも0.7%未満。少ないとみるか、よくぞここまでの規模になった今後も期待できるのどちらか。

<少ないとみる人は>

 プラスチックは市場が必要とする物性にあわせて合成されてきた。一方微生物バイオプラスチックは天然由来成分だけに目的物性に合わせる幅が小さい。なので適性市場は少ないだろうと(現在の技術ベースで)考える。具体的にはポリ乳酸(PLA)が出現した時はPET代替が可能として期待はしたが、ガスバリアはPETに及ばず、溶融から固化するまでの時間が長く射出成形適性はない。このための添加剤は開発されたが、コスト問題の壁がある

<増加を期待する人は>

 ポリ乳酸(PLA)は短所が長所である成形法に巡り会えた。それが3Dプリンターである。溶融から固化までの時間が長いのは溶融フィラメントを積層して立体物を成形する(FDM方式)の材料としては優れていることが判明した。現在はフィラメントとして販売されている。FDM向け材料はABS、ナイロン12と並んでPLAが高温特性、耐薬品性などを特徴として伸びている。

 PLAが期待されている分野に発泡製品がある。一般に発泡は化学発泡剤及び低沸点有機溶剤、フッ素系化合物の物理発泡剤が利用されているが、ここでは環境を考慮して炭酸ガスによる発泡を検討している事例を紹介する。 PLAを押出機で溶融させ、途中から炭酸ガスを注入しPLAに溶解させる。溶解させるに都合のよい超臨界圧条件で炭酸ガス(超臨界状態では液体的性質)を混合し、ついでダイスから大気圧へ解放すると発泡する仕組みである。民間企業を中心に産総研(関西)、大阪市・滋賀県工業試験所が協力して開発を進めている。PLAにはd体L体があり、また分子量依存性もあることから発泡プロセスの開発と同時に材料開発も検討した。その結果を巻末にて紹介する。

このように今後の成形技術の開発如何によっては伸びることが予想されている。生分解プラスチックにはPLAの他にポリヒドロキシアルカン(PHA)ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリグリコール(PGA)がある。それぞれ微生物分解を利用した農業用マルチフィルムに既に利用されており、後者はガスバリア特性を活かした冷凍輸送代替真空パック用包装フィルムなどに利用されることが期待される。

過去から身近で利用されてきた生分解材料にセルロースがあり、光学フィルムのTAC(トリアセチルセルロース)はリサイクル率が高いことも好感される。包装フィルムやテープの(セロファン)はPPやPETの2軸延伸フィルムに押され減少傾向にあったが、最近4~5%伸びで反転攻勢に出ている。セルロースフィルムの吸湿性をコーティングでカバーし家庭内で生分解できるネイチャーフィルム(英イノービアを買収したフタムラ)は菓子、コーヒーなどの食品包装を中心に動向が注目される。

 セルロースといえばセルロースナノファイバーが脚光を浴びているが、木材はセルロースを接着し、害敵からガードするためのリグニンからなっている。リグニンを除去しないで木材のまま成形体ができないかの研究も一方で行われている。京都大学はセルロースナノファイバーと平行して木材粉末やサトウキビ由来のスクロースにクエン酸を配合して熱プレスにより製品化できることを発表している。接着材に化石原料を全く使用しない特徴がある。クエン酸が相当量含有されているので、熱湯水で溶解しないのか懸念したが、セルロース、リグニンと反応していることが分かっている。東京都産業技術センターでは木材チップ・粉末に熱硬化性樹脂を極少量配合した複合材料を熱成形するプロセスを発表しており、一部食器など民間企業で生産されている。漆器と外観が似ている。 これらが射出成形可能まで開発されると面白い

さて、話を戻して制度面から見ると、すでに国内には日本バイオプラスチック協会などによる表示・認証制度が存在する。 主な対象は植物由来の製品や生分解性を有する製品などがバイオプラだということが分かりやすいマークを示すことで、低環境負荷を意識するメーカーや小売業者、消費者への訴求を狙っている。経済産業省が新たな表示や顕彰制度の創設で後押しの動きをしているが、国産バイオマスを原料とする製品に限定が有力候補の一つ。但し、欧米では生産過程でCO削減に貢献した製品もグリーンプラに含める概念をだしつつあり、経産省も再考の余地があるようだ。

だとすれば、化石原料由来のポリカーボネートの製造法には溶剤を使用する界面法と一切使用しない溶融法があるが、この欧米の解釈では溶融法ポリカーボネートがグリーンプラになる可能性になるか否かも注目される。現実的には消費者は市場性のあるプラスチックを購入する。 物性、価格など満足した上でグリーンであれば購入の動機となる。なので、物性、価格のマッチングの材料開発と独特の特徴を活用した成形技術の開発が必要となる

そんな中、既存のPETを分解する微生物が海外の研究者によって発見されたとのニュースがFacebookにあった。中国の廃プラ輸入禁止措置もあり関心を読んでいる。ただ、PET分解微生物の発見は日本が早く慶応/京都繊維工芸大の合同チームが2016年に発表している。

最後に生分解プラスチックは却ってマイクロプラスチックスを増加させ海洋汚染するのでは?と英国を中心に巻き起こっている懸念にどう向き合うか。生分解プラスチックにだけでなく非生分解プラも含めて全体での議論が当必要だろう。

PLA超臨界発泡プロセス   20倍発泡食品トレー   35倍発泡セルSEM写真

 

バイオプラスチック(1)

バイオプラスチックには次の2種類があることを始めに紹介します。

①    植物由来原料を重合したプラスチック(バイオマスプラスチック)

②    植物由来原料を重合したプラスチックスが微生物により分解し最終的に水と二酸化炭素に分解される プラスチック(生分解性プラスチック・グリーンプラスチック)

<はじめに>

近くのスーパーでエコバッグ持参の客には2円値引きサービスがあったが、。先日エコバッグ持参の割合が70%に達したので環境への理解を得られたとして値引きサービスは止め、ポリ袋が欲しい場合は1枚2円頂戴しますのビラ。 逞しい商魂にアッパレなのか渇!なのか皆さんのご判断にお任せします。何だか落語の壺算の逆パターン。

経産省などが推進しているバイオプラスチック。バイオ率100%のレジ袋では2円/枚より更に高価になり直接消費者に反映させるとバッグ持参が増加し、バイオプラスチックはレジ袋市場には浸透しなくなる。なのでバイオ率、価格をどうするか、それとも従来材料にない機能を発揮させて、価格に見合った市場を開拓するかがポイントとなる。

<バイオプラスチック>

企業がバイオプラスチックスの事業に着手するには地球愛だけでなく、利益を通じての社会貢献が動機である。数年前まではブラジルや米国ではサトウキビやトウモロコシ由来のアルコールが自動車ガソリン代替か混合用(ガソホールE10,E20)として原油価格暴騰の期間ブームになったが原油価格の低下、シェールガスが現実化すると沈静化した。米国のイラン核合意離脱により5月16日のWTI価格71ドルと高騰気味であるが、採算ラインになるかどうか注目される。ただ、高燃費車や脱ガソリン車の増加もあり、ガソホール復活可能性は少ないとみる。ブラジルBraskemではアルコールをエチレンに転換しバイオマス・ポリエチレンの生産をしている。日本でも2商社が取り扱い、包材メーカーも商品化に努力している。パッケージ展でみると歩みは当初の狙いより遅いが確実に浸透していることは分かる。原油(ナフサ)由来のポリエチレンと物性が略同じなので、材料設計、成形加工技術、製品設計は従来技術の範囲内で対応できる強みがある。しかしながら価格差はナフサ由来とはある。

バイオマス・ポリエチレンはイオングループが有料レジ袋に、東京ディズニーリゾートがお土産用袋に、またセブン-イレブンが一部店舗で無料レジ袋に、 今後バイオプラスチックス認定を見える化する経産省・環境省の動きを先取りしての企業活動だろうが、バイオマスの割合については価格見合いだろう。京都市はバイオマス・ポリエチレンを10%配合した家庭ゴミ袋を7月から有料指定袋として本格実施する。従来と同価格。これで年間500トンCO2が削減されるとのこと。京都議定書20年の節目のアクションとしては理解できる。たかが10%されど10%。従来通りだと単純に価格は上がる。物流コストの上昇環境もあり、インフレーションフィルム成形速度、シール速度、裁断刃寿命改善、パッケージ袋の印刷、検査方法、段ボール材質見直しなど細かいところまで合理化しないと採算に合わない。ご苦労された様子が想像できる。改善導入初期はポカミスが起こり易い。検品にコストが掛かる。なので導入期間は相当とる必要がある。

バイオマスプラスチックスの中でも注目を浴びているのがバイオポリカーボネートである。糖・グルコースから誘導されるイソソルバイドを成分とするポリカーボネート(補注参考)で既存のポリカーボネート樹脂の透明性、衝撃強度、寸法精度特性を有しておりながら、光学特性に優れ表面硬度が高い(鉛筆硬度は既存がBに対して1Hと高い)開発品の中には2Hとアクリルに迫る硬度がある。特徴は表面鮮鋭性である。自動車の内装材(インパネ)は傷が付きやすい。なので、傷がついても戻り易いウレタンかポリプロピレンの場合は種々の無機フィラーの種類、配合エラストマーなどを変えてグレード開発をして更に成形時にはエンボス加工(小さな凸凹)するのが一般的である。

自動車は単なる移動手段だけでなく個室的な意匠性が要求される。なのでインパネは軽自動車とは言え硬度と鮮鋭性を付与するために塗装がなされることがある。自動車に長く携わってきた開発者がバイオポリカーボネート樹脂のテストピースを見た瞬間、これを着色ペレットとして販売すれば塗装しなくても商品価値はあると直感。塗装費用に見合うとの計算もあり、しかも、塗装表面は硬化樹脂のコーティングにおける非平衡系の自己組織化散逸構造により表面は微少の凸凹パターンが発生する。これが光散乱の原因となる。一方、射出成形で表面が平滑なバイオポリカーボネートは鮮鋭性・深みのある意匠性が発揮できる。

軽自動車への採用を切っ掛けに乗用車まで拡大している。塗装は溶剤系が主流で溶剤回収など環境に課題が、水系塗装は乾燥が長くタクトタイムに課題がそれぞれあり、塗装レスは非常に意味がある。内装材で実績を出した材料は外装材にも適用されている。塗装レスがキイワードである。現在、三菱ケミカルがDurabioの商品名で製造販売をしている。製造プロセスは溶媒を使用しない溶融法を採用していることから材料及び製造法の両面で地球フレンドリーと言える。帝人も研究を進めており新聞発表をしている。

バイオプラスチックスではその他、展示会・新聞報道によると次の各社が発表している。

*三菱ガス化学(セバシン酸原料)高弾性率・低吸水ナイロン(Lexter)を市場展開中。

*ユニチカ も同様に「ゼコット」を準備している。

いずれも高価格・高機能が許されるスーパーエンプラ分野への参入。

*東洋紡・三井物産・Synvina(ポリエチレンフラノエート)PEF(ガスバリア、透明性、耐熱)推進中。PET代替。ポリエチレングリコールと、2,5-ジフランカルボン酸の重縮合体

*米ジェノマティカ、伊アクアフィル(ナイロンメーカー)は原料のカプロラクタム(CPL)の商業化に乗り出す 。

*三菱ケミカル・東レ 三菱ケミカルはトウモロコシなどバイオマス原料由来のポリエステル(ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)や ポリエチレンテレフタレート(PET)に関する基本特許について 東レとライセンス契約を結んだと発表。 市場拡大の為の三菱ケミカルのKAITEKI戦略の一つだろう。

次週はバイオプラスチック(2)生分解プラスチックスを採り上げる予定

 

5S

多くの会社で5Sの標語を目にする。 整理・整頓・清掃・清潔・躾。大凡この順番である。シアワセのSを追加した会社もある。製造・物流への立ち入りは制限されていることが多い。その場合、応対者の躾を見て、残りの4Sを推測する。躾が良ければその会社に良い印象をもつ。なので5Sのマニュアルは完備していて、型から入る方式で充実を図る。これはこれで良い。型が徹底している見本はファーストフード店。でもローテーションできない立ち場の人が長時間勤務すると徐々に作り笑顔のメッキが剥がれる光景をみるときがある。型をキープするにも体力が必要だ。幼いときからの躾が身についていれば体力云々は関係なく自然にできるものだろう。幼少の頃からの躾に何かをプラスした事例を挙げる

事例① アラ古希の人が店頭販売で若い店員さんよりお客に人気があって売り上げトップの店がある。買うか買わないで迷っている人に「如何ですか?ご覧なって下さい!」のようなマニュアルの型だけでは対応しない。つかず離れず適当な距離をおき、客の心理の揺れの絶妙のタイミングで商品アドバイスをする。次の瞬間レジの流れ。巧である。若い店員さんにも当然良い影響を与えており、なんとか会得しようとしているのは気持ちが良いものだ。アラ古希の人数が100万人を越えたとのこと。なまじ会社で肩書きを背負ってきた人のプライドはマイナスに作用するので注意が必要だろう

事例② ある会社の社長になられた若い女性にお会いしたのは数年前。その時「そのおじぎの仕方はどこで習ったのか?」と思わず聞いてしまった。よい角度は60度とマニュアルには書いてある。彼女は直角のおじぎと笑顔。それだけで人を魅了するには十分だった。幼少のころから身についているからこそ自然と出来る所作であろう

事例③ 大平正芳という総理大臣がいた。あ~、う~、あ~で主語を言って一息、助動詞は再びあ~う~を必要とする。こんな調子の口調であったが、聞いていると、正直に話をしたいとのオーラが伝わってきたものだ。記者は記事を起こす時もっと驚く。話言葉がそのまま原稿になっていると驚いた逸話は多い。国税横浜中税務署長をされていた時に利用していた庶民派飲食店の経営者から税務署の人だが憎めないオーラがあったと聞いた。若いときから躾が身についておられ、それに教養がプラスされたオーラだと思う。 若い代議士に多いが頭が良いだろうと早口でため口も入れ舌鋒鋭いつもりの声高には、躾けがなっていないなぁと感ずると同時に底の浅い質疑に終始していると大丈夫か?と思う。少し躾や相手の心理を読み取る勉強をすべきかも知れない。 論理的攻め方にプラスして躾が滲みでると訴求に迫力を増すことをモリ問題で証人喚問をした葉梨議員が良い見本であろう

さて、偉そうなことを言いながら小生は整理・整頓が苦手である。 だが、劣等生でも五分の魂があるとして言い訳を少々。

ポリオレフィンの重合はスラリー法が長年採用されていたZiegler-Natta 触媒(チタン/アミン系)を溶剤に分散させてエチレンやプロピレンのガスを反応槽に供給すると、触媒中のチタンから対触媒のアミンに向かってエチレンやプロピレンが重合しながら成長する。極めて規則正しく分子が並んで重合が進むので結晶性が高くなる。その反面、重合鎖の末端に残っているチタンを除去する必要があり、触媒を除去するための洗浄後工程が必要であった。 その後、残存触媒が圧倒的に少ない(触媒活性が高く、触媒あたりの重合収率が高い)プロセスにより洗浄・後工程を省略することを狙って開発が進んでいた。ある金属塩に担持させた触媒は活性が高く洗浄工程を省略しても良いとの結論を得てスケールアップ試作で最終製品試験までこぎ着けた。 但し、製品を長期使用してみると製品がやや黄ばみを呈する問題が浮上してきた。 原因は樹脂が酸化劣化しないように酸化防止剤が極少量配合されているが、これが残存活性チタンの光増感反応により変化することが分かってきた

さあ、どうしたものか、各種の抑制作用のある添加剤を組み合わせする実験をしたが全滅状態。隣の研究室の倉庫には国内外の添加剤メーカーからの試供品や購入品が整理整頓とはほど遠い状態のギッシリ。今なら、棚卸しや5S活動で長期使用しない添加物は廃棄するが、小生と同類の人が廃棄しないで倉庫の奥にしまってあるのを見つけた。古色蒼然の瓶の蓋を空けると黄色から褐色に変色したペースト。黄変を改良するのに黄色・褐色の添加剤を加えることは基本しない。常識人であれば保存期限を10年もオーバーして変色していたら捨てる。

だが、ここで面白いことが起こった。これが黄変防止に有効と判明したのである。後は消えかけているラベルのメーカー名を尋ねて供給能力増加を依頼。ポリエチレンの製造はスラリー法から気相法に移行し脱触媒洗浄工程はない。合理的価格で製造できるとあって、あっという間に世界に広がった。その時の添加剤配合は10年ぶりに陽の目をみたこの黄変防止添加剤配合が世界標準となった。格好良く言えば廃棄整理の前に研究者の「サブでベンチにいれておくか」の勘が働いたのであろう

現在の日本の研究能力は20%低下していると言われている。短期間の成果主義も一因であろうが、研究現場、研究室、図書室などは多少整理整頓清潔感に問題があっても、昔の研究者は少ない情報や劣悪な環境の中で成果を出したのは何故だろうと考えることは意味があると思うが如何であろうか。各人が整理整頓とは言い難い糊しろ(その時には役立たないが考え続けることで醸成される拡張部分)を持っていて、相互の糊しろとリンケージすることで新技術を開発することがあった。シニア層が蓄積した財産は在庫が無くなってきている。若い研究者はネットなどで糊しろがなく、誰でも入手できる情報で対応しがちである。それでは骨太のソリューションは出ない。研究者を責めるのではなく、抜本的な制度組織を見直すべきだろう。

難燃剤

なにげにTVを点けたら葛飾立石商店街の再開発を採り上げていた。老朽化建物が狭い地域にひしめいているが人情味あふれる味のある風情。ただ風情などと部外者だから言えるが、住民の再開発を望む割合が高いとか。災害が発生したら財産を失うことを意識されていると推測される。東京には三軒茶屋などが、横浜には野毛地区など戦後名残りの地区があり同様な事情がある。

地域はそれなりに危険性を感じて予防意識があるだろうが、雑居ビルからの発災が多いのは消防署からの注意喚起があってもテナント同士の連結が薄く浸透しないからであろう。インスタ映えする店内風景を信用して知らないお店をネット予約すると危険性を見落とすことになる

大正の関東大震災では地震の後の火災が多くの人命を奪った。僅かに延焼を免れたのは神田地区だけ。最先端のご専門家(瀬尾東工大名誉教授:地震学)でも何故か分からないとのこと。インバウンドで外国旅行者は安全が確保されているホテルだけでなく、少々安全意識希薄な宿泊設備も利用する。訴訟社会からの客人では厄介なことも懸念されるだけに、地域全体で安全を確保することも考えられる。先の神田地区の謎も含め都市全体の再設計にはスパコンの長時間稼働が必要。理化研和光の「北斎」、神戸の「京」に続くインフラが必要ではなかろうか

火災で怖いのは燃焼ガス。一酸化炭素、塩化水素、シアン化合物など。パソコン、モバイルなど家電や自動車、車両、建築材、カーテン類内装材などは難燃基準に従って難燃処方がなされている。木造の家は燃えやすいというのは昔の話であり、今は製材後に巨大なオートクレーブに入れてホウ素化合物を高圧注入することで難燃性が確保されている。トーチで燃焼試験しても表面が炭化するだけで着火しない。この場合はホウ素が熱により相互ネットワークを形成するメカニズムである

プラスチックスで難燃剤を配合しなくても難燃である材料は塩ビ、PPS(ポリフェニレンサルファイド)や芳香族ポリイミド、フェノール樹脂などである。分子内にハロゲン元素か芳香族環(ベンゼン環)濃度の高いプラスチックスは基本的に難燃性がある。他のプラスチックスは必要により難燃剤を処方するが、難燃機構は幾つかある。

    炎でプラスチックスの温度が高くなると難燃剤が分解して表面に不燃ガスで被覆するメカニズム。ハロゲン(塩素、臭素など)系難燃剤であり、ポリスチレン、ABS樹脂、PBTなどの家電及び部品など広範囲商品に適用されている。

    炎で加熱されると難燃剤が分解して表面を被覆する機構は同じだがアンモニアを主成分とするガスでインツメッセント難燃剤と呼称されている。ポリプロピレン、ポリエチレンに採用されている。

    炎で加熱されると分子内にOHを多く含む無機化合物(アルミ、マグネシウムなど)から分解して結晶水を分離。これが冷却に働くことで燃焼を抑える。ポリエチレンの電線ケーブルは世田谷の火災事故から学習して、この無機化合物をケーブルに相当量配合してある。

    ~③まではプラスチックスが熱分解して発火温度に達する前に難燃剤がタイミング良く分離することがポイントで、ずれては効果がない。ここが技術者の腕のみせどころ

    これらとは別のメカニズムがある。燐を分子内に有するフォスフェート化合物である。これは加熱されるとプラスチックスから水素原子を引き抜き、引き抜かれた同士が結合することで、炭化ネットワーク(チャー)を形成し表面を被覆し、内部からの可燃性ガスをストップする。モバイル、パソコン、TV、プリンターなど家電の筐体や内部のシャーシー類に多く採用されている。少量で効果がありプラスチックスの物性への影響が小さいことも歓迎されている。プラスチックスの種類ではポリカーボネート、ポリカーボネート/ABSアロイ、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル類などである。ここで言うポリエステルはカツラ向けの人工毛である。(繊維のポリエステルは精練後に難燃剤を表面に塗布している

プラスチックスの工業用途の多くはガラス繊維、無機フィラーとの複合材料である。強度、寸法精度、耐熱、耐荷重長期変形防止などメリットが多い。だが一方、可燃性ガスがガラス繊維とプラスチックスの界面を伝って表面に出てくると燃焼し易くなる短所もある。所謂「ローソク効果」と称する。 当ブログ者の研究によると高含量ガラス繊維複合材料の難燃化に成功している。今後注目される技術であろう

難燃の評価も試験片の厚み、接炎時間、接炎回数、燃焼時間、燃え垂れの有無、発煙状態など製品別に詳細決められ実力に見合ったランク別にグレードを認可する仕組みで国際基準となっている。家電製品や航空機などは別の地域別の規格もあり、材料別、製品別にそれぞれの認定機関での承認を必要とする。また立ち入り検査もあるので品質管理は極めて重要。製造と管理を別組織にして相互監視をしている。電気自動車など新用途が出現すると、適性材料、適性難燃剤の競争が繰り広げられる。また原料の臭素など資源国政治事情も反映するだけに気が抜けない。 

無事であれば注目されない地味な研究ではある。難燃剤の選択、難燃剤と樹脂のコンパウンド、その分散、燃え垂れ防止剤、難燃評価サンプル成形、難燃評価、燃え残渣の形態・化学分析。。。気が遠くなる仕事。添加剤メーカー、材料メーカー、電線メーカーなどには入社以来難燃一筋の研究者が多く存在している。

難燃のプロでも手に負えないのは「♪あなたへの燃える火を断ち切れない、消せはしない」(大塚搏堂:めぐり逢い紡いで)