2018年 2月 の投稿一覧

CNF(セルロースナノファイバー)

数年前の統計だが国内年間使用材料の数量と容積比データーが手許にある。第1位は石・セメントで15億トン、第2位鉄1.2億トン 第3位が木材・紙の0.45億トンである。因みに4位はプラスチックス0.15億トン、アルミが0.025億トン。重量ではこの順位になるが、例えばプラスチックスの容積比を1とすると鉄は0.9と体積ではプラスチックスが鉄より比率は高い。比重が違うので当然この結果となる。自動車は内外装にはプラスチックス、鉄(鋼鈑)は強度が要求されるホワイトボディに採用され軽量化と車両としての骨格を分担する機能で成立している。今、鋼鈑はより比重の低いアルミから攻勢が掛けられ、鋼鈑・アルミは炭素繊維複合プラスチックスに攻勢を掛けられている。エンジンからEVへのパワートレインが変化すると更に軽量化が要求され、鋼鈑としては強度を表す高張力鋼板は15年前までは780GPa前後だったのが、現在は1700GPaまで改良され、薄肉・少量鋼鈑で対応している。アルミ、プラ、高張力鋼板のせめぎあいは見事である。共に切磋琢磨することで自動車以外の分野にも拡張している。

上記の材料の中で一人沈んでいるのが木材・紙である。重量比、体積比ではおよそプラスチックスの3倍の需要があるものの、人口減少に伴う建築軒数の削減、雑誌・新聞は紙媒体から通信機器に取って代わりつつある。医療関係では電子カルテになり、医療費支精算までラインで繋がり、紙が存在するのは患者番号切符と領収書のみ。さらに手術室等のリアル空間記録も紙では対応できない。そんな影響を直接受けるのが製紙メーカーである。

その製紙メーカーが切り札として開発を進めているのがCNF(セルロースナノファイバー)である。紙の原料であるパルプの繊維1本の太さは10~20ナノ前後で長さは測定できないくらい長い。繊維の長さ/太さ=アスペクト比と表現したとき、プラスチックスと混合した場合、アルペクト比が大きい程、引張り強度、曲げ強度、熱変形温度を改良することができる基本原則がある。炭素繊維複合樹脂材料、ガラス繊維複合樹脂材料、タルクなど無機充填剤複合樹脂材料などはこの原理原則を利用している。

さて、このCNF。アスペクト比はこれらの複合材料に比較すると圧倒して大きい。但し繊維1本、1本を解くことができること(解繊)が前提である。セルロースはご承知のように親水基を分子内に多数あり、相互に水素結合しているので解繊が困難である。そこで化学的修飾して解す(東大磯貝教授プロセス)、または高圧水や機械剪断利用して解す(京都プロセス)など工夫されてCNFとしている。

多くは水溶液として得られる。濃度は1~2%。水溶液の形で利用しているのは化粧品やボールペンのインク滑らかさ改良である。量的に大量消費が見込まれる樹脂に配合するには100%まで濃縮・乾燥する必要があるが、過程中に親水基が再凝集することもあり、かなり厄介である。可能となれば物性は期待できる。

例えば繊維の太さが人間視野波長より細いので透明樹脂に配合しても透明性を維持し、かつ繊維の数が多く、相互に絡みもあることから、樹脂の線膨張係数が小さく、機械的強度が向上する。製紙メーカーとしては樹脂複合材として自動車・航空機の材料になることを期待して中規模プラント建設をした会社がある。原料が針葉樹パルプ以外にも竹由来のCNFもあり、また鳥取県では蟹の殻のキチン・キトサンを原料したもの、愛媛県ではミカンの皮を原料にしたものなど地域特徴をだしたCNFの開発を進めている。蟹由来は医療用にミカン由来はジュース粒の沈降防止などが利用されている。ソフトクリームが夏場でも長時間維持できることを経験した人もあろう。

ここで本命のパルプ由来について果たして目的の自動車・航空機に利用できるか? 言うまでもなく木材は炭酸ガス固定として有為の存在であり、違う目的で再利用できることは大きな意味をもつ、単なる製紙メーカー救済策ではない。17年ほど前、前職時代にナタデココから採取したナノファイバーをアクリルに配合して透明で屈曲できるウエアラブル・ディスプレーを開発した仲間がいた。その途端、ガラスメーカーは薄く屈曲できるガラスを発表した。喰われる方のメーカーは容赦をしない。この時に深追いしなかった理由は価格。この経験から製紙メーカーには現在乾燥CNFが5万円とも言われている価格帯を500円前後まで合理化できることを期待している。是非頑張ってとエールを送る。

CNF説明資料:京都大学生存圏研究所HP http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/labm/cnf

蓄熱・蓄電

政治・経済の評論家は大変だ。数年後に正鵠を得たのは誰かと逆評論されることがある。それに比較すれば技術に関してリスクは低いと言えそうだが、さて本当か。意地悪だが手許に5年前にEV車の欠点として冬場の暖房に電気が消耗されるので、暖房には蓄熱剤搭載が必要だとのペーパーを日経テクノロジーに掲載した人がいる。偶々乗り合わせたタクシーがEV車で運転手からの愚痴をネタに蓄熱剤の利用を説いた。執筆者が文系か理系記者だか不明であるが、5年後の今はそうはならなかった。EVは徐々に浸透しているが、始動前充電させながらエアコンを掛けるか、座席ヒーターのみ通電することで対応しているのが現実である。もし蓄熱剤及び蓄熱タンクや付帯設備を搭載すると車重が重くなり、電気容量を食うことが容易に類推できる筈である。材料・設計・デザイナーは軽量化1g当たり価格を意識してミリミリ詰めているので蓄熱の発想はなかった。

しかしながら蓄熱は全く意味がないかと言えば、国家エネルギー政策上は極めて重要である。

即ちエネルギー供給源として石油、天然ガス、石炭、自然(太陽光・風力、地熱)エネルギー、原子力のトータルエネルギーを100とすると実際は35%しか利用されていない。残りの65%は発電所、大規模コンビナートでの熱エネルギーとして損失している。この65%を有効化するには蓄熱できる装置・材料があればと長年研究されている。しかしながら排熱の温度の82%は250℃以下と低いことが障害となっている。蓄熱材と熱交換する時間が長い場合、さらに温度が低下してしまう。そこで伝熱面を機械的制御により蓄熱を高速熱交換する技術開発を東北大が開発している。原理はシンプルで蓄熱している層(A)と熱を受け取る層(B)の界面の総括伝熱係数をコントロールする。東北大方式は(A)(B)からなる2層パイプとして(B)を回転させて界面の総括伝熱係数をコントロールし高速熱伝導性が確認されている。話を単純にすれば将来は発電所で発生する熱を蓄熱ローリーに充填してビルや工場に熱をデリバリーすることが可能である。実に面白いが、2層パイプの表面粗度・寸法精度など高度の成形加工技術を要する。日本の機械加工技術の底力を見せるケースである。

EV車はクルマ自体エコであるが、発電所の炭酸ガスと熱ロス問題は解決しないと完全にエコとは言えない。この高効率蓄電・熱移送方式が実現すればEVのエコに磨きがかかる

さて、カリフォルニアはEVを推進しているが、電源は自然エネルギーが好ましいとしている。ただし天候に左右され変動する。その補填として発電所及び家庭での蓄電池の設定を法制化した。現段階で蓄電池を選択するとなると、リチウムであるが、家庭設置は燃焼危険性があり、そもそもリチウム資源枯渇問題もある。EV車が全体の10%を占める時のリチウム必要量は約6万トンであるが、2013年当時のチリなど資源発掘量は37千トンでEV車使用分だけでも不足が予想されている。中国の中南米の鉱山資源獲得攻勢を強めているのも背景にあり、

リチウム代替の蓄電池がクローズアップされている。

結論を急ごう。リチウム代替候補はバナジウム(VSSB)である。蓄電池には鉛、ニッケル水素、NAS電池と種々あるが、比較表を添付する。バナジウムは資源量に問題なく、繰り返し充填疲労、高速充填の基本性能が確認されている。病院・歯科医等の無停電電源装置(UPS)としても有用。この研究も東北大でなされている。蓄熱・蓄電の両方を攻める東北大に是非とも頑張って実用化への橋渡しを期待するものである。

 (表出典 20181月東北大JST発表資料)

日本の研究・COM

日本の研究・COMは大学・公的研究機関が発表する最新の文献・情報発信のWEBである。

大雑把に我々の税金がどのような研究に投入されているのかリアルでみることもできる。

昨年の研究費及び論文数はピーク時の10%ダウンであり、巷間言われている日本の技術停滞を如実に表わしている。因みに研究費総額6,530億円 論文数81,403件。過去5年間トータルの研究費は3.4兆円。医歯薬関係は8,000億円(内歯関係435億円)となっている。この数字をどうみるか。ご専門の方々のご判断にお任せしたい。

究機関別 推定研究費TOP10

研究機関                                推定研究費          登録課題数

東京大学                                   762.01億円                                                5,231

大阪大学                                   553.24億円                                                3,909

京都大学                                   531.89億円                                                3,889

東北大学                                   303.49億円                                                3,167

慶應義塾大学                             286.92億円                                                1,906

九州大学                                   257.12億円                                                2,701

国立がん研究センター                  236.61億円                                                647

理化学研究所                             214.60億円                                                1,192

東京医科歯科大学                       190.30億円                                                1,710

名古屋大学                                167.00億円                                                2,119

ところで、論文についてアクセスランキングも随時行われており、2週間前までトップを維持していたのはなんと「八つ当たりする魚の発見」である。総合研究大学院大学の院生が同種固体サイズの異なる魚を水槽にいれLサイズがMサイズを攻撃するとMサイズは5秒以内にSサイズに八つ当たりする事例2800を観測、指導教官沓掛講師と共に纏めて発表した。霊長類以外に魚といえども高度な社会的情報処理と意思決定を行っていることを示していると説明している。 なるほど面白い。だが、発見である。社会・心理学分野での貢献が大であろうことを期待はするが、工業会に棲息している我が身としては、折角の科研費を有効に利用して発見から発明への展開できるのか否か興味がある。それともビックデーター、AIを駆使する人物もしくはコンピューターロボットがCDO(Chief Digital Officer)として的確な判断ができるボスとなり、疎い者がイジメの対象になるとでも想像させるのか・・・。

そんなもやもやしていたところ龍谷大と京都大学では舞鶴湾に棲息する15種類の魚について「海に生息する魚種間にはたらく複雑な関係性を捉えることに成功 ~緩い種間関係と種の多様性が生態系を安定化~」を発表。

ポイントとして(原文引用)

  • 非線形力学理論を利用して開発した新しい数理的データ解析手法により、舞鶴湾での過去12年間の生物個体数変動データを分析。
  • 15種の生物の間に働く複雑な関係性(目には見えない力)が刻々と時間変化する様子を捉えることに成功。
  • 生態系の安定化には、出現する生物種が多いことや、種間に及ぼし合う影響が緩やかになることが大きな役割を果たしていることを新たに発見。
  • 生態系観測によって「自然のバランス」の変化を捉える新技術の開発につながると期待

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1 本研究の対象となった舞鶴湾の15種の生物と、個体数変動データから明らかになった生物種間の14の関係性(種間相互作用)

·        矢印は影響を与える種から、影響を受ける種に向かって引かれている。色は影響の符号(正負)で、青色()は平均的には相手を増やす作用、赤色()は平均的には相手を減らす作用を表している。

 新い数理論的データ解析により「新技術開発のヒント」になれば発見から発明になる。尚発明の要件とは産業上の利用可能性*新規性*進歩性である。例えば鰻の稚魚がなぜ絶滅するのか、この論文では絶滅しないバランスがある筈だとすれば、何を制御すれば良いのか。この研究によれば絶滅種を回避して共存することが可能であるとして、上記のAI音痴の社員がイジメにあうのではなく、共存への裏方的価値があるとも示唆しており興味深い。

研究の最終ゴールが何を目指して実施しているのか、この「日本の研究.COM」は教えており、オオッと感心するテーマあり、日本も捨てたモノではないと感ずる時もあるが、地方国立大学の1講座予算平均60万円とあっては、この先が思いやられるのも事実。

配水用ポリエチレンパイプ

今年は地球自転速度が低下し赤道が収縮するとの報告がなされている。その結果、プレートの移動変動に伴う地震・噴火などが昨年より頻度が多くなるのではと言われている。そこで今回はライフラインで重要な耐震性水道パイプについて考えてみた

いつのころから水道の蛇口から赤さびが出なくなったのをご存知でしょうか。水道工事予定の回覧板には給水再開時に赤さびがでますとお知らせがあった。今はない。若い人はこんな時代があったなんて知らないだろうが、1970年前は頻繁にあった。水道管が鋳鉄管の表面にエポキシで被覆はされていたとは思うが剥離し、やがて錆が発生した。1970年以後は口径50mm以下の主として家庭用給水用パイプは低密度ポリエチレン性であり錆ないが、時々薄肉円筒状のフィルムが分岐管を閉塞する事故が発生した。パイプの内面が一皮むけしている事故が全国あちこちで発生するに至り、解析と対策が実施された。どうやら殺菌消毒液として僅かに配合されている次亜塩素酸が影響しているようだとして、短時間で結果がでるよう高濃度次亜塩素酸水にポリエチレンのサンプルシートを浸漬するとブリスター(泡)が発生した。ポリエチレンに耐候性改良剤として添加されているカーボンブラックが原因であることが判明した。そこで急遽内面にはカーボンブラックを配合しない内層と外面は耐候性改良のためのカーボンブラックを配合した2層パイプにて切り替えることとした。その後 事故は発生していない。

しかしながら、高濃度次亜塩素酸水に浸漬したポリエチレンシートにブリスター(泡)は発生したが、当初報告されたフィルム状剥離は再現できなかった。急遽の切り替えに勢力が割かれた。筆者は何故発生するのかカーボンブラックが起点だとすると何か理由があるはずだと考えカーボンブラック中の電子スピン濃度と関係することが分かった。この考えは其の他の用途でカーボンブラック配合が必要な樹脂製品に応用することができた。パイプ事故で躓いたがWhy?と考えたことで他に応用できたことは良かった。でも今でも何故剥離フィルムが生成したのか?は考えている。材料屋の直感としてはサイジングダイ通過時の内面剪断問題であろうと想像していた

この事案と前後してカリフォルニア大地震があり、ポリエチレン製のガス管は断層があっても切断事故はなかったことが報告された。ポリエチレンでも中密度リニアーポリエチレンで耐環境応力亀裂性、衝撃強度など優れた材料が選択されていることから国内でも同様材料開発が進み、かつパイプとパイプを接合する装置を開発した。この接合技術は次に大きな役割を果たすことになる。因みに地中埋設のパイプを後で他の土木工事で切断しないように黄色に識別されている

大口径(75~300mm)の配水管については道路埋設されたとき25トントラックの繰り返し荷重に耐えられるように材料は密度の高い高密度ポリエチレンが採用されている。色は青色。高密度化(結晶比率が高い)で剛性など機械的強度は得られる上,ガス管に用いられている中密度ポリエチレンのクリープ強度大きく改善させた.これは,結晶の一部の分子が隣接する結晶に入り込み結晶同士があたかも結合したように分子設計したことと,結晶の大きさ隣接距離のバラツキが無いようにパイプを製造することで欠点が改良されて現在に至っている。高密度ポリエチレンパイプの接続にはガス管接続方式が採用された。実際埋設された地域で東北地方太平洋沖地震があったが、事故率ゼロが報告されている。写真はパイプ敷設場所が垂直方向に断層した場合と水平方向に断層した場合のモデル実験であるが、(震度6程度)の地震では問題がないことが証明されている。現在、100年寿命パイプとして官民学協力して精度アップと標準化を進めている。テストシートの短期評価に加えパイプを敷設して長時間のフィールドテストにより変化をチェックする息の長い検討が山形大学栗山教授を筆頭に配水用ポリエチレンパイプシステム協会が推進している。開発途上国は水道が普及していないが、いずれ普及したときに地震大国で過酷テストに耐えたパイプが推奨されるようにISO標準化作業の中での活躍と企業の支援を期待している

(配水用ポリエチレンパイプシステム協会HPより抜粋;但し、この表7の宮城県・岩手の市町村逆に記載されています)