2018年 10月 の投稿一覧

活性酸素

先週のブログでは活性酸素は健康に好ましくない。防衛としてポリフェノール化合物を摂るとして酸化防止のメカニズムを記載した。今週は活性酸素の名誉回復編を紹介する。

身近にある活性酸素が利用された商品では漂白剤(ブリーチ)、消毒・殺菌、脱臭などが、工業的では半導体の表面洗浄、印刷前処理などがあげられる。原料は過酸化水素であったり、空気をコロナ放電させて活性なオゾンを発生させる方法がある。カラフルな印刷がほどこしてあるショッピングバッグのポリ袋。材料はポリエチレンが多いが、このポリエチレンの分子は炭素と水素からなり、極性のあるインキとは水と油の関係にある(相溶化能力が低い)。従って、極性のないポリエチレンの表面を活性酸素でカルボニル基、水酸基、カルボキシル基などを生成させて極性化することで印刷インキがポリエチレン表面に濡れて硬化することで印刷が可能となる。一般的にエネルギーが低い装置としてはコロナ処理が、強いエネルギーを与える場合には紫外線や電子線照射、さらに強くはガンマ線照射などが利用される。ショッピングバッグ程度の印刷ではコスト・パフォーマンスからコロナ処理がなされる。過剰に電圧をかけると返って濡れが悪くなる。近い極性のところで合わせるのがポイント。

化学式からおおよその相溶化(濡れ性)を予想することができる。

便利な「溶解パラメータ」である。

SP(Solubility Parameter

 右の表に簡単にまとめた。テフロンは溶剤や樹脂とは容易に混合しない。水は特別な溶剤であることがわかる。光重合で適用するポリメタクリルアクリレートやエポキシは910台にあり、後重合の前に予備洗浄する溶剤がイソプロピルアルコールである理由も納得。

 

少し脱線するが、樹脂と水は全くSP値は離れている。なので、川や海で樹脂が溶解することはない。溶解するより河川の出口などで歯止めをすることが可能であれば海で問題になっているマイクロプラスチックス問題は解消される可能性がある。むしろ、悩ましいのは生物分解樹脂。完全分解までの途中経過は本当に環境に問題がないのか、これからの課題である。

ポリエチレンは水溶性インクとはSP値が離れている。そこで酸素ラジカルを反応させて水溶性インクとなじむようにしている。 大手フイルムメーカーの工場ではフイルムを成形しながら表面にコロナ処理を施し、グラビア印刷を行う工程を見ることができる。紫外線は3Dプリンターの光重合に用いられている。電子線照射はポリエチレンに他の化合物をラジカル・グラフト反応する場合に利用される。ガンマ線はグラフト反応よりは殺菌に利用することがあり、医療用器具は利用されている。殺菌には120℃の高温殺菌、エチレンオキサイド処理があるが、短時間にドライ処理できる展はガンマ線処理が利用されている。

さて、活性酸素は文字通り、酸素から生成される。酸素は肉体にとって安全である。ここで癌を含有している細胞の内側まで光増感剤を侵入させ、皮膚の上から紫外線を照射することで細胞内で活性酸素を発生させてがん細胞を死滅させることを考えた研究者がいる。

東工大・生命理工学院 湯浅教授が従来の光線力学治療法を発展させている。光増感剤をグルコースの輸送体と合体させ、癌がある細胞に入り口から内側に侵入させる。

外部から光を照射することで光増感剤により細胞内の酸素が安定基底状態(一重項エネルギー)からエネルギーの高い状態にシフトする(三重項状態)。三重項状態から基底状態に戻るときに活性酸素が分離される仕組みである。これが癌を死滅させる。

 

この考え方は従来から存在していたが、

①紫外線が到達する距離は皮膚の直下と限界があったことから、体内深部まで光線が通らない。

②光増感剤の分子が大きいので癌細胞まで到達する時間が長い。その間は遮光室の中に1週間ほど居住続ける必要があるなど患者にとっては不便極まりない 

③従って使用済みの増感剤が排出されるにも時間がかかる。との問題があったとのこと。 ①に対しては近赤外線の利用 但し、低い紫外線の比較すると低エネルギーなので光増感剤の分子の研究をされている。 ②③については低分子で速く癌細胞まで到達するように工夫をされている。 動物実験の段階ではあるが、これの実用化される意味は非常に大きい。この研究はナノマシンを用いた画期的な画像診断と治療実用化を精鋭な研究者が実行している。期待しよう。

酸化と糖化

健康番組花盛りである。TV視聴者がシニア層かその予備軍の事情もあるのだろう。赤ワインにはポリフェノールが入っているから健康によろしい、大豆のイソフラボンもポリフェノールが、緑茶にもポリフェノールのカテキンが。。。その数4,0008,000だとするWEBある。きっと植物の種類の数だけポリフェノールの数があるのだろう。植物は根が生えたところから動くことができない。強い紫外線を浴びようが、酷暑であろうが身を守るべく紫外線吸収剤を体内で合成し、酸化防止剤を合成している。ポリフェノールは酸化防止剤である。我々がポリフェノール含有植物を食べることで、体内で発生している活性なラジカルをトラップする役目がある。実は食品、プラスチックス、化粧品には使用条件下で酸化により分子が劣化(味、匂い、強度低下など)しないように、フェノール系酸化防止剤が配合されている場合がある。ポリフェノールの「ポリ」は「多い」を意味するので、ここでは非常に単純な形をした酸化防止剤で酸化防止のメカニズムを紹介する。

 

35-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン

通称:BHT

フェノールOHをかさ高なターシャルブチル基が立体的に覆っている。

分子の大きさと位置を模型で示したのが右図。

酸素原子を赤で表示している。フェノールの反対側にあるCH3(メチル基)から電子をOHに向かって押していることからOHのH(水素)は外れて水素ラジカルとなり食品やプラスチックス内で劣化により生成したラジカルと反応する仕組み。一方、水素ラジカルを放出したフェノール化合物は以下のスキームで分子構造を変えて安定化していく。途中の酸素ラジカルは隣の嵩だかなターシャルブチル基で立体的に保護され他の分子への転移は免れる。

 

 

 

賢明な読者は、それなら保存・使用期間の劣化に対して多量の酸化防止剤を配合する必要があると考えるのは当然かと。しかしながら添加剤業界では自動修復するリン系添加剤を配合する。このリン系(フォスファイト系)添加剤との相乗反応(詳細割愛)により、ある程度は元のフェノール系酸化防止剤として作用することができる。総合すると少量の添加剤配合で性能が維持できる。プラスチックスに配合されるフェノール系酸化防止剤は用途により分子構造が異なる。電線など寿命が50年以上設定する場合にはフェノールの数が多く、雨などで抽出されない分子形状をしている酸化防止剤を利用する。使用中に発生する過酸化物を積極的にキラーするイオウ含有添加剤も併用することがある。計算機科学AIで何年後には添加剤分子設計および配合最適化ができることを期待する。

さて、糖化。10月18日NIKKEI STYLE 記事(老化を促進させる「糖化」 実は飲酒と密接な関係が)。 が気になって読んだ。飲酒で赤ら顔になる人が対象で、いくら飲酒しても顔色が変わらない人は飲酒と糖化は関係がない。しかしながら「糖化」とは何?。記事中の同志社大の八木教授の発言を引用すると

 「体の中で起こる糖化とは、体内の余分な糖がたんぱく質と結びつき、たんぱく質を変性、劣化させていくことです。たんぱく質は、臓器、皮膚、筋肉、血管などをはじめとする体を構成する重要な成分です。つまり、糖化により体を構成するさまざまな要素が劣化していくわけです」と述べられている。「糖化が進行していくプロセスでAGEs(糖化最終生成物)という物質が生成されます。AGEsはさまざまな経路を経てつくられ、一口にAGEsと言っても、論文に報告されているだけでも数10種類あり、実際のところ100種類以上あるともいわれています。このAGEsこそ、老化を促進させてしまう厄介な物質なのです」(八木教授)

  (筆者注:AGEs;Advanced Glycation Endproducts

 

 「AGEsの弊害の一つに、たんぱく質の硬化があります。AGEsはたんぱく質同士を結合させ、『悪玉架橋』と呼ばれる厄介者を体内につくってしまうのです。悪玉架橋ができると可動性やしなやかさが失われ、硬化してしまいます。さらに、体内には、AGEsをキャッチするレセプター(受容体)が存在し、そのレセプターがAGEsをキャッチしてしまうと炎症を起こすのです。このようにして、体内のさまざまな臓器の機能が低下していきます。これがいわゆる『老化』(八木教授)

 

飲酒との関係はアルコールの分解アルデヒドが存在するとこの反応が促進するとのこと。アルデヒドを酢酸まで分解仕切ってしまう酵素を有する人は関係がなさそうで、顔色が変わらない酒豪は安心して良さそうだが、元の糖の過剰摂取は避けた方がよさそうだ。

 ではAGEの測定はどうするのか? 先週、先端材料展、ロボット展がビックサイトにあり、別の企画展示ではデジタルヘルス展が開催されていた。 シャープ・ヒューレットパッカー協賛ブースにAGE測定器があった。 原理はAGEは微弱な蛍光を発するので受光の光量で評価する。経皮の数字と血中の濃度は相関関係があり、指の日焼けしていない部分に光をあてるだけで測定が可能。大まかに5分類。A:同年代では少ない。(全体の7%) B:やや少ない(全体の43%) C:やや多い(全体34%)、D多い(14%) E:非常に多い(2%)。 全体は加齢により数値は高くなるが、若くして高い数値は要注意のようです。年齢と数値の図を示す。

 

筆者も試してみた。その数値は0.36 

では対策としては同社のパンフレットに代表例が記載。引用しておきます。これをみると生活習慣に依存していることがわかります。

 

最後に

酸化のメカニズムは分析・解析で解明されている。添加剤メーカーの改良研究のための解析や、材料メーカーの利用根拠を追求するための解析が相当進んでいる。筆者も添加剤の炭素を重炭素原子に置き換えて合成し、添加剤が酸化劣化でたどるメカニズムを追ったことがあった。

一方、今回取り上げた糖化については、記事や装置メーカーのパンフを基に記載したが、糖とタンパクの架橋体の分析した結果やマーカーとしての蛍光物質が何かなどについてエビデンスを知りたい。更なる有効性と精度アップのため、なにより健康人生を送る人のために。

低温大気圧プラズマ

♪黄昏は むらさきに 風の流れも 染めていく ♫ 。。そのような気分がわかるような季節になった。いつの間にかである。そのいつの間にかに大気圧低温プラズマが凄く進歩している。 冒頭の「風の流れも染める」とは阿久悠の凄い感性。ひょっとしたら秋風のような低温領域でもプラズマ照射すると風の中にある微粒子の表面が親水官能化されて染めやすくなるのかも。。。と無粋な技術者の発想で申し訳ない。

一昔前までは真空・減圧・数千度温度条件でしかプラズマ照射できなかったが、今は大気圧下で肌に照射してもほんのり温かく感ずる程度になったことで、応用が広がっている。群馬大・黒田研究室、東工大・沖野研究室などが精力的に大気圧低温プラズマに取り組んでいる。

その前にプラズマって何? 

右図は固体→液体→気体→電離気体(プラズマ)移行を水を例に示している。プラズマ中ではイオン、電子、中性粒子、ラジカルが運動している

数千度の電離気体と聞いて“雷”を着想した人。正解です。 雷が多いと松茸が増えると言われているが、小生はプラズマによる水および松茸細胞が活性化するのでは・・・?と信用しないで頂きたいが食いしん坊の小生は妄想している。

しかしながら水にプラズマ照射して生成したバブル水は植物育成に効果があることを東工大が発表している。 

プラズマの種類としては、アルゴン、ヘリウム、空気、窒素、酸素、二酸化炭素、水素など拡大している。 低温大気圧プラズマの温度としては0℃以下から200℃までなので、親水化対象が樹脂、繊維、紙、ゴム、金属、半導体、更に生体などに応用できることができる。親水化により異種材料同志の接着が容易になる。フッ素樹脂でさえ接着することが可能など。

ここで代表的用途例を挙げると

半導体                   表面酸化物の高速還元

印刷                        回路印刷

接着                        イミドフィルム銅張り接炭素繊維/樹脂接着 

CFRPCFRTP 自動車、スポーツ用品 

殺菌・抗菌          食品 

医療                        内視鏡手術止血 (血液と傷口と反応させることで

           “かさぶた”を瞬間生成させる) これは歯科医にとって 

           参考になるだろう。

また肌表面付着の汚染物質やアレルゲンにプラズマを照射してガスクロで分析するなど皮膚科、化粧品関係にも展開が期待できる。

低温大気圧プラズマが可能になってのは、ガス種や照射装置自身の温度を低温に維持できる装置が必要である。これに3Dプリンターが活躍している。金型は冷却配管をニアネットシェイプに配置できることが重要であるが、3Dプリンターは可能にした。プラズマ装置の冷却構造や内視鏡極細ノズル化も3Dプリンターの進歩があってのこと。

小生は2003から3年間ポリカーボネートの成形品の表面にガラス化する化合物をコーティングしたあとで大気圧プラズマ処理することで耐傷付性かつ軽量のある自動車窓ガラスを開発したことがある。有機ガラスは実は戦時中の大型レンズ製造を目的に開発されている(産総研池田に展示)。これが大気圧低温プラズマと合体することで軽量車両に応用される。自動車窓ガラスの場合、3次元形状は苦手であったが、群馬大ではそれも可能にする技術を発表している。異業種の基礎がそれぞれ確立している日本だからこそできると自信を持ちたいものである

最後に食いしん坊が自信もてないのが食事による血糖値。都度の採血は避けたい。そんな要望に添いそうなデバイスが発表された。発表資料によれば

原理は北海道大学・清水孝一教授が研究していた、光を用いた生体の診断技術だ。液体に一方向から光を当ててのぞきこんだ際、その液体に含まれている物質の量や種類によって、光は散乱し、ぼやけて見える。同社の脂質計測器では、生体にLEDで光を当て、その散乱度合いをもとに脂質を計測する。メディカルフォトニクスが製品化。、手軽に食後高脂血症の測定ができるようになる。

それにしてもこの写真は迫力がある。

小生が開発するなら、食事中の高脂血症アルゴリズムから最高値を予想して、その前に満腹感を脳が感ずるようにするが、どうだろう。 それとも信号機のように青、黄色、赤で表示か。

文献) 群馬大・黒田教授 20188.月 大学技術展資料

    東工大・沖野教授 2018.10.13 未来産業技術研究所 講演、公式パンフおよびHP

看護、介護の自動化

駅前の人通りの多いところで、看護士、介護士の方々の署名活動をみることが多くなった。聞けば、夜間業務が大変で、そのための人を増加して欲しい。と本当に切実な訴え。介護施設の場合は更に過酷であり、現場での奉仕精神には全く頭が下がる思いがする。

歳をとるほど赤ちゃん返りとか、我儘やかまって欲しいだけで介護士を呼ぶベルを押す人もいるとか。大変だ。本当に。天職と熱い思いで職に就いたがストレスは溜まるだろう。

介護には2050年には35万人不足するとあって、厚労省は外国からの受け入れ計画があり一部実施されている。先月も拡大するとの発表があった。

しかしながら、人の充実を訴えても満足することは期待薄だろう。看護では本当に人材がいないか、それとも資格を有していても家庭に入ると、再度社会復帰することに何か障害があるのかどちらか。資格を有している人の家庭でも介護が必要であれば現実参加できない。高齢化社会になれば、この問題は加速度的に増える。外国人介護の場合は言葉の障害や資格取得できずに下働きでの給与面での不利がどうしてもつきまとい定着しがたい面がある。

一方、有難いことに電子機器の小型化と通信システムの進歩により看護の一部をアシストするようなデバイスの開発が進んでいる。例えば、お腹の上に置いたデバイスでは膀胱に尿がどの程度溜まっているかを超音波で診断してナースコーナーにてモニタリングすることができる。本当に排尿する必要の時だけ作業すれば良い。超音波の医療分野利用について熱い情熱を持って取り組んでいる若い人がいる。頼もしいかぎり。腕時計風にグリップに嵌めて、脈拍(これは指から取るのが現在でもあるが)や不整脈、血流、血糖値まで測定できるデバイスの開発が発表されている。今後このようなデバイスの種類が増加することは期待できる。便器からの尿や便の温度をセンサーとして情報をとることも進んでいるが、心情的にはやや抵抗感がある。そんな甘っちょろいことは言っていられないのかも知れない。

理化学研究所と東京大の研究グループは、太陽電池内蔵の超薄型センサーを開発し、肌に貼って心電図を取ることに成功したと発表した。ケーブルが不要なので応用範囲は広い。

なので、看護士、介護士の不足を訴える一方で、政府には装置開発企業への支援を要請する方が好ましい。開発品はコストがネックにはなるが、企業と蓄積データーを交換し運用実績を通じてコストカットに協力する方が現実的だと思うが、どうだろう。

手術をすると集中治療室でも3日、その後一般病棟に移されても暫くは体を動かすことができない。その時に脚は活動しないことから、リハビリが重要になる。特に足首は早めのリハビリが必要。3日動かさないと1週間は連続してのリハビリが、1週間動かさないと58日連続のリハビリが必要だと聞いたことがある。ここで問題はベテランの整体師が必要であるが、ここも人不足。整体師の方によると集中治療室の中でも整体できるならやりたいとも。

この課題に取り組んだ人がいる。富山大学の戸田准教授。「足首関節専用ストレッチ」。簡便な仕組みのメカであるが完成するまでに試行錯誤。老人ホームでトライしたら大歓迎であったとのこと。写真はプロタイプなので商品化には安全装置やカバーなどデザインが必要だが、それは企業の仕事。思うにこの先生は整体師のやり方を見て、試作機では患者が痛がるところをコツコツと改善している。川崎重工ロボットビジネスセンターではプログラミングでコントロールするロボットに加えて熟練工の微妙な動きなど熟練技術継承の「サクセサー」制御ロボットを開発している。一旦マスターすれば多数のロボットを稼働させることができる。この川重の技術を整体士ロボへの応用ができたらと妄想している。

 

 

上記は既に罹病した人向けのアシスト機器による看護、介護に対している。一方、予病対策で患者数を減らすことも重要である。 糖尿病予備群が今日はご飯の大盛サービスですと店員に言われても、逆に小盛で結構ですと言い、美味しい羊羹を目の前にしてもパスするなど自業自得だと言えばそうだが、これは本当に自分だけの責任であろうか。肥満、喫煙、酒依存性など自分では「分かっちゃいるが止められない」。肥満は生後間もない時期の食事に依存していることが分かっている。ジャンクフードでもありがたい経済事情の家庭では肥満の子供になりやすいと (例外はありますのでお断りしておきます)。健康の社会的決定要因によって、その後の健康格差が生じているとしたら、経済政策が実は予病に深く関係。医療設備がないか不十分な地域との先端医療設備との双方向の医療情報交換ができるインフラも同時に必要。慶応義塾の小池教授は長年にわたって当該分野の研究で先頭を走っている。さらなる利用に対して予算手当を政府として力を入れて欲しいものだ。

絹と染色 新しい息吹

シルクは高級衣料はもちろん、最近はシルクから抽出された成分による保湿化粧品やダイエット健康食品、医薬品原料としても注目されている。

横浜・山下公園の近くにシルクセンターがある。関東甲信越地区で生産されたシルク(絹)の貿易輸出港として大盛況だった時代のなごりであろう。センター内には海外向けお土産用に染色されたスカーフ、ハンカチなどが販売されている。当時の外国向けなので色柄は原色を強調しながら日本の風景も入れたデザイン。当時の外国の人には人気だったのだろう。

150年後の今は本物の日本を理解したいと思う傾向がある。いずれデザインはヨコハマを活かしつつも変わると予想する。その方向のエッジに今回紹介する染色家がいる。

 

絹は蚕が口からフィブロインタンパク質を糸状に出しながら繭を作る。この時に蚕は首を振ることで配向延伸させることで極細であるが強度のある繊維を製造している。繊維は2重構造になっていて、外側がセリシン、内側がフィブロイン。染色するには製糸時の糊及びセリシンを精練工程で除去する。このセリシンは長く利用されなかったが、精練会社が目をつけて化粧品に展開している。その会社は福井セーレン。日米貿易摩擦で没落した繊維地場産業を現在は自動車関連特殊繊維や化粧品、消臭下着などの高付加価値の生産。精練工程から旧鐘紡のナイロン事業を買収し上流から下流までカバーし体質を完全に変えてしまった。セーレン東証1部。

 その福井出身で京都西陣で活躍する絹一筋に染色工芸を極め絹製品のイメージを変えた人物がいる。和服、帯、帯留め、スカーフ、茶室道具、タペストリーと活動の幅は広い。大胆なデザインの一方で小紋などにベースと異なる色を配する場合、模様の淵を染料が混在しないように極細の絹糸でお土居(堤防的)をつくる。非常に気が遠くなるような作業に根気を必要とする。ベースの色合いが見事なグラデーションから構成されている。例えば「紺色」であれば染料を複数混合し、色彩、色の深み、光沢など異なる約20種類をまず作るところから作業は始まる。簡単に書いたが、絹の染料は酸性染料が利用される。染料の分子構造にスルホン酸、カルボン酸などがあり、絹のたんぱく質と反応させるメカニズムである。

酸性PHが3~6までが酸性染料であるが、染料にはそれぞれの最適な酸性がある。従って、化学の知識がなく適当に混合していては仕上がりで色ムラが生ずる。次に絹生地に刷毛で表からコーティングする。ただし同時に裏もコーティングするだけの塗布量をムラなくコーティングする技術が必要。知識、感性と可能ならしめる熟練度の折り合いである。

玉村咏作品展が南青山で行われていた。その一部を紹介する。

 話は第一次戦争時代にとぶ。当時のエネルギーは石炭。石炭を原料として化学は発達した。特にドイツは石炭化学の先進地であった。石炭には芳香族化合物を多く含む(亀の甲)。そこから有機化学が発達し、染料が次々に発明されていった。大学の工学部の化学コースは40年前はドイツ語が必須だった。英会話もおぼつかないのにドイツ語会話もテストがあった。第二外国の選択余地なし。フランス語を選択すればモテたかも知れないが??。

 染料になぜ芳香族化合物なのかは事例をみるとわかるが、芳香族の(亀の甲)を横からみると電子が上下に動きながら雲のようになっている。そこに他の官能基(スルホン基、カルボン酸、アミン基など)より電子が吸引されて、この雲と伸びると、化合物の色は無色から黄色へとシフトする。この電子雲の広がり、厚さの程度により黄色、青、緑、赤、黒にシフトする。

日本でも石炭化学は盛んであったが、石油化学の勃興に加え汎用繊維業界の海外シフトに伴いメーカー数は減少。日本化薬などが健闘している。欧州の本場でもヘキスト、バイエル、BASF、チバガイギーなどは染料も継続しながらも主力は有機化学を活用して医薬、添加剤に向かっており、そのための企業合従連合となっている。

医薬品は重要。一方、京都のはんなり(雅で映える)グラデーションを活かしたデザイン製品を観る、身に着けることは「心のお薬」として作用がある。超一流ホテルのタペストリーに採用されホスピタリティ効果を果たしている。宿泊したことはないが、わかるような気がする。

だが、染色デザイナーとしてみれば「わかるような気がする」では済まないのだろう、年齢を重ねても追い求める理想は遠くに逃げていくような気持ちだと想像する。それがあるかぎり我々は芸術家の作品を愉しむことができる。