2018年 3月 の投稿一覧

CD・DVDリサイクル

何年ぶりだろうか、CDショップを訪れた。30数年前に流行った曲が再燃しているとあって、当時のCDもしくはカバーCDがあるだろうかと。横浜でも最大のショップ。昔はビルの中心部を占めていたが、今は地下の一角に、日曜日だというのに訪れる人も疎らで中高年が目立つ。イマドキCDを買うのは時代遅れなのか、デジタル配信が中心になり、わざわざ出かけることもなく安価に手に入れることができる。モバイルに保存して通勤時に愉しんでいる。イヤホンコードがやがて無くなりBluetoothになるのも時間の問題かと思われる。著作権に疑問はあるが、You TubeからMP3に無料ソフトでダウンロードできる。DVDにも転送することができる。これら一連の操作を苦も無く若い人はサッサとできる。中高年はそうは行かないのが現実だ。

話は脱線するが最近のクルマ「コネクテッドカー」電話はBluetooth,ナビの行く先は音声入力、センターとのガイダンスを受けることも可能、Google機能搭載・・・・。昔のクルマ運転の腕のみせどころは坂道発進、スマートなコーナリング。なめらかな縦列駐車だったが、今はこれらの電子機器をスマートに使いこなせないとダサいと評価される。確実に時代は変わった。

話を戻す。CDは透明なポリカーボネートを基板として、その上に色素記録層や金属反射層、保護層、下塗層、塗膜層、ハードコート層、反射防止層などが設けられている。ご存知の方が多いと思うが、CD、DVD、ブルーレイは主としてケミカル会社が製造販売している。アルミなど金属反射材料以外は化学品であることと関係している。特に色素記録とは有機化合物に光が照射されると分子の形が変化する/変化しないをデジタル信号1,0,1,0.・・・として記録するもので機能性色素を開発した。

20年前はCD、DVDの生産量が増産につぐ増産状態で、製造に伴う工程内不合格品をどうするかが問題であった。「リサイクルをしよう!」かけ声はいいが、色素、金属反射、ハードコート層などを除去する必要がある。これらが少しでも異物として残留すると光を乱反射させ正確に10101を刻むことができない。ポリカーボネートをプラント製造する場合に最も気を遣うのは微粒のゴミである。製造プラントからローリーで輸送する場合も窒素ガスを封入して圧力を大気圧より高くして、外部からの混入を回避している。

そのCDからゴミのないポリカーボネートを回収することは1000%無理と判断する人が多いなか、社長からトライしてはどうかと背中を押されて検討し始めた。その頃、写真フィルムや偏光フィルムをリサイクルしている会社が南足柄にあることを知り、写真の感光剤が残留しない技術に驚き共同研究を開始。プラントも同社内に建設し営業生産を開始した。再生ポリカーボネートをDVDや自動車部品へ利用することができた。CDと自動車部品では要求品質が異なるので、再生品を原料とするコンパウンドでは分子設計に工夫をこらした。ご興味有る方は特許・特開2006-89509を参照願いたい。

この研究が切っ掛けでNEDOの3R諮問委員として活動した。30年後の3R政策にアドバイスするものであるが、めったにない良い経験をした。背中を押した社長のもう一つの思いを知ったのは後だった。

 

赤ワイン

前週ブログ俗説(1)でアルコール分解酵素について紹介したが、アルコールに強い人からは、それだけの蘊蓄?と次を催促する声がありましたので、化学材料屋的な蘊蓄をご紹介します。特に赤ワインを好きな人にお贈りします。ワインにはテイストが付きもの。ワイングラスをゆらせて香り成分を嗅ぎ、次に少量を舌の上にして味を分析する。その瞬間名人なら何処の農場で育成された葡萄で、熟成何年モノ・・・を見定めてゲストに愛飲を進める手順である。ここで、人間は実に化学的に大変なことをしていることに驚く

まず、(1)香り成分の分析であるが、通常の化学分析では熱分解ガスクロマトグラフを利用するが、これでは香り分析はできない。サンプルを加熱し、揮発する成分の分子量・構造を特定する装置であるが、成分が多い化合物を香りと勘違いすることがある。成分がガスクロマトクラムでは検出量が微量でも香り成分だと特定する必要がある。ここは従来の装置では無理。前職の研究所では「鼻ガスクロマトグラフ」を発明した男がいた。初めは「鼻」と嗤っていた社内も業界もやがてその効用を認めるに至った。それは熱分解ガスを装置に接続すると同時に途中で鼻でも検知する簡単な組み合わせからなっていて、チャートに記録されるピークに鼻で感ずる時にマーキングをする手法。これで装置での検知濃度は少なくても人間の鼻では強く検知していることが分かり、後は化学成分を特定する作業に入る。適用は安全性が確認されているサンプルに限定されるが、人間の鼻さえガスクロ以上の分析機能がある。犬ならその100万倍以上の能力がある

(2)赤ワインの味を人間はどうして検知しているのか? 

赤ワインを舌にのせた瞬間に葡萄外皮の多糖類を腸内細菌が加水分解して13種類の糖類を生成していることが判明している。味が異なるのは13種類の化合物の比率が違うからである。

味気ないかもしれないが、品種、農場、天候などが比率を変化させるのであるから、外皮の分析から特定糖類をブレンドすることで平準化することは可能。勿論マーケットの特徴を反映して特定糖類を強化したグレードを発売することは可能だろう。将来の蘊蓄としては「この赤ワインはL―アセリン酸が強いね。D―キシロースを増量したら更に美味しくなり、肉なら神戸牛に合うね・・・」なんて格好良くサラリと言うには紳士・淑女風格が必要であることは言うまでもない。それとも野暮?

以下、その化学的根拠についてポイントを記載する(詳細は現代化学3月号・竹中・坪井氏論文を参照願いたい。)

*赤葡萄の果実はセルロースと蛋白質で構成された硬い外皮で保護されている

*その内側に柔軟性のあるペクチン(複合多糖類)のネットワークがあり

*ペクチンにはラムノガラクツロナン(RGⅡ)のゲル状分岐糖類が弱く結合している

RGⅡには腸内細菌の一種(Bacteroides thetaiotaomicron)が反応し自己ゲノムに含まれる酵素群で単糖に分解する。

竹中・坪井氏はハイテクワインが製造できるかもと記述している。一方で脚を棒にして折角客人のために探し求めたビンテージ。簡単にブレンドで「もどき」ができてたまるか!ご馳走の意味を分かっているか!と主張するご仁にも理解はできる。でも腸内細菌が元気でいることがワインを愉しむ条件であれば、健康体で明るくワインを愉しみましょう

最後に、ワイングラスの形は胴部より上部の径が小さい曲面形状。ワイン中のアルコールは手の温度で蒸発し、上部で冷却されて元に戻る。このとき、ツツーッと液滴が落ちる列の間隔は等間隔。通常「ワインの涙」と言うが、131日付けブログで非平衡系の自己組織化・散逸構造の一例である(慶応義塾 朝倉教授)。蘊蓄の一つに加えては如何でしょうか

(図13種類の糖分子と4種類の修飾糖基)

俗説への挑戦 新技術の芽

俗説の代表格「酒は飲む訓練をすれば飲めるようになる」であるが、東大医学部の中川氏が「赤ら顔となる深酒は食道がん、咽頭がん、肝臓がん、乳がん、大腸がんなど、多くのがんの発症リスクを高める」と警鐘。27日付日経夕刊)。 現在では俗説は間違いとようやく浸透してきた。ノンアルコールでも会食時の違和感は薄れてきた感がある。エタノールが脱水素酵素と酸化酵素の作用によりアルデヒドに変化し、アセトアルデヒド分解酸化酵素で酢酸・炭酸ガス・水へと変化する工程で、アルデヒドはDNAの二重螺旋構造を傷付け修復不可能になることが判明している。分解酵素をつくる遺伝子にはD型が元々あり、中国南部でD型がN型に転換。日本では縄文時代ではD型、弥生時代はN型。その後は両親の遺伝子組み合わせからDD50% DN45% NN5%となっている。DD型は九州・四国・関東・東北・北海道に多く、中部・近畿はDN型、NN型が比較的多い。N型からみると何故Dから中国南部で転換したのか知りたいところである。

俗説(2)食物アレルギー発症回避のため、高アレルゲン性食品を妊娠中や授乳中に母親が食べないようにしたり、離乳食を始めるのを遅らせてきた。しかしながら、この予防法が却って食物アレルギーを増加させていることが判明している。2006M.Karamerらがメタ解析により解明しており専門家は熟知、でも母親の心理面からは受け入れられていないのが実態であろう。離乳食を早め体内での免疫寛容を形成させ、その後の皮膚を通じてのアレルゲン経皮感作を抑制する方が好ましいのではないかとの仮説を動物実験で検証している。 (現代化学20182月号)

俗説(3)ポリカーボネート製ほ乳瓶は危険。重合成分であるビスフェノールAが超微量存在するとオスの魚がメスに変化する。カナダの小説家が「失われし未来」として出版。超微量とは当時の分析機器でも検出限界程度であり、それより高い濃度であれば影響がない。・・・まか不思議な理屈? 企業は言い訳を後回しにして即刻当該用途・類似用途への販売は中止した。今も販売はしていない。問題はここからが肝心なところで、サイエンス的解明を確実に実行して根拠のない妙な小説と区別することである。

ビスフェノールAはエストロゲンの一種であるが、人類・動物が排泄する量が圧倒的に多いと言いつつも口に出さずに、グローバル企業が相互協力して莫大な資金で研究解明を地道に積み上げ「完全シロ」を得た。もう一つ得たものがある。それは超微量成分分析技術。小生も本件に係わったが、欧米巨大化学メーカーのトップのサイエンスへの真摯でサイエンスに対する姿勢を見たことは有益だった。

俗説(4)特異性質を有する高分子ABを混合して両方の高分子の長所のみ有する材料とする技術はポリマーアロイとして発展してきた。マトリックスをA、ドメインをBとする海/島構造の場合Bのドメインサイズを微細化する程、長所を引き出すことができるとあって、技術者は10ミクロン→5ミクロン→3ミクロンと平均ドメインサイズを微細化することを競っていた。一体どこまで微細化すると良いのか分からずにである。理論的理想値を発表する大学教授が東京地区におられた。業界では著名人だけに有りがたく信用した。1ミクロン以下になると性能は発揮できないと言うモノ。1ミクロン以下のドメインを製造することは困難なので、多分1ミクロン以下は価値がない、工業用途には2~5ミクロンで十分だとして微細化競争は終了。小職も別の形態へ挑戦し2種類のアロイ形態を開発し特許化した。企業として微細化技術開発に突進していては新規形態開発を出来なかったが、あの時の某教授の話に少し疑問が残った。この教授も当方もミクロン単位での制御技術しかなかったのが本音である。恥かしながら小生も俗説化していた。

<新技術への挑戦と芽とは>

今はナノを通り越して分子レベルでの制御が可能となっている。京都大学の中條教授(高分子学会長)は原子ブロックハイブリッド高分子の分子設計と製造法を開発した。また同じく京都大学の植村准教授は多孔性金属錯体(MOF)内に高分子の素であるモノマーを孔に閉じ込めて重合させることで、従来のポリマーアロイでは得られない異種組み合わせからなる新規高分子アロイを開発した。ハイブリッド高分子は工業用途のみならず創薬・医療向けに発展が期待できる。次世代歯科材料の有力候補になると予想できる。MOF利用ポリマーアロイは光学用途・人工DNA・蛋白質など新分野開拓するのではと小生は予想する。何れも俗説を見事に払拭して高分子の新時代を開いて頂いたと高分子に長年携わってきた小生は感謝している。

植村准教授(京大テック発表資料からMOFとは)

5Why

自動車完成検査問題に端を発して続々の首脳記者会見。日本のもの作りは大丈夫か?と疑問を多くの人は持ったことは確かだろう。でも極論を言えば完成自動車検査問題は罪が軽い。大凡10万ものパーツからなる自動車を最終的に人が検査できない。法律が現実に置いてきぼりされているようでもあるがソクラテスが言う法は法。

もの作りは上流の素材・加工・組立て・モジュール・組み込みなどの工程を経ている。例えば樹脂素材を例に挙げれば、ナフサ中の硫黄など不純物含有量チェック、ポリオレフィン製造の場合はエチレン、プロピレン中の異性分の分析、触媒組成チェック、触媒保管チェック、重合反応装置材質変化、不活性化ガス成分チェック、重合条件モニタリング、溶融樹脂粘度・発熱状態のチェック、押出機内の圧力・温度モニタリング、ペレット粒サイズ別分級、髭・粉分析、分子量、分子量分布、添加剤配合量チェックの上流工程で製造されて最終の出荷検定項目で合否を判定される。出荷検定数より遙かに多くの工程分析からフィードバックされてスペック幅に入れる製造能力があれば、自動的と言っても良いほどスペックに合格する。自動車部品の多くはこれと類似した工程で製造されている。 

罪が深いのはデーター改ざん。上流からの工程管理精度を向上する努力・投資をせずに競争力が高いと装うことは信頼が基本の仕事の流儀から逸脱している

新幹線N700台座問題。記者会見では設計が粗く、他パーツを取り付ける際に肉厚8mmを1mm研削して肉厚7mmとするまでは許容するとの品質基準があるものの、実際は現場に委任されていて最大3.9mmまで研削した事例もあるとのこと。強度は厚みの3乗に比例するので、この箇所は設計の1/8.7しか強度がないことになる。この会社は新幹線300系の時代から代々担っただけにエッ?と思ったのも事実。当時の現場には設計者と対等に渡り合う叩き上げの熟練技能者が存在し、設計と実際の成形上の不具合調整を議論したであろうが、今はいないのであろうか?と考えてはいけない

「トラブル原因を人のセイにするとトラブルは再現する」前職時代トヨタとの付き合いで学んだポイントである。最終的に研削して寸法合わせしたのは現場。でも合わせざるを得なかったのは何故か?超高張力鋼鈑をコの字形状にプレスし溶接により中空体を製造。その上にパーツを接合する。その間隙調整に研削や肉盛りをしたことが直接原因。しかしその前に、設計者は鋼鈑が超高張力になればなるほどプレス後にバネのように戻るスプリングバックして最終寸法にならないことを計算に入れていただろうか?プレス現場で学習したのであろうか、現場研修させるシステムがあったのだろうか。それをCADの中でどのように設計基準に入れ、肉盛残留応力問題をどのように処理したのか。。。。。組織の問題に置き換えて深く掘り下げる必要があろう。苦しい作業になるがこれを乗り越えると脱皮した企業体になることが期待される。是非トライして欲しい。川崎重工の世の中での役目は誰もが認識している。無くてはならない企業である

15年ほど前、東京で明日のプレゼンの用意をしていた19時頃にトヨタ関連企業から電話。「今から逢えませんか?何時になっても良いから待っている。」 公用に自家用車使用は認められていないが、東名を疾駆し駆けつけた。この企業とは某用途で開発を企画したが、最初の段階で想定クレームとそれに対する5Whyを整理するところから入った。まだ販売していない段階、それも開発をこれから着手する段階にて。これには正直驚いた。一次原因は***で、この更なる原因は****で・・・・の何故?何故を5回繰り返すことでコア部の問題点を明らかにする5Why。噂には聞いていたが、実際は大変な作業である。このとき感心したのは

「トラブル原因を人的要因もあるとした対策案はことごとく拒絶された」ことである。

トラブルを起こさざるを得なかった人的背景要因に組織はどう関係しているのか?を深掘りしない限り5Whyまでは到達しなかった。5Whyまでに到達するまでに何度も脚を運び都度勉強することが続いた。先の東名疾駆は何回目だったか忘れたが、先方との信頼感が5Whyを通じて強化されていくことを実感した。帰路の裾野付近から箱根越えのダラダラ登り坂はアクセル踏む脚力には厳しいなかにも、5Whyの効用を味わえたのは貴重な経験だった

現在の働き方改革云々では威張れる話ではないが、どこかでは必要なんだろうと思う。