2019年 6月 の投稿一覧

協調ロボット・近接近センサー

このブログがアップされる頃には旧聞になるが、横浜地下鉄ブルーライン(湘南台―あざみ野)の始発電車(6両編成)の5両が脱線し復旧まで4日を要した。線路保守の為の装置を線路上に置いたまま始発電車を迎えた。完全なポカミス人災であるが、単独作業ならあり得る。チーム作業なので全員がポカをするとは考えられない。多分、誰かが、いつものようにしている筈だ。との思い込みが始発電車を通すまでの限られた時間では、奇妙な空白ができたのだろう。複数による指差呼称により「ヨシ!」とするのが普通。同じ横浜のシーサイドライン無人車両逆走事案が重なり、より安全を求める声が高くなった。

 対策はそれぞれ原因が違うので異なるが、地下鉄の場合は、JRのように検査軌道車を走行させるなどのチェックも必要だろう。地下鉄は車両とトンネルの間が狭いので線路に車両を持ち上げる作業が困難を極めたとのことで、東急、JRの応援でやっと回復。JRの経験が大きく貢献した。

 化学プラントは危険物・可燃物を高圧・高温の条件下製造。24時間連続運転している。2年に1回プラントを止めて定期修理を1~2ヶ月実施する。それまでのチェックandメンテナンスが徹底しているので大規模事故は発生していない。生産性は産業の中で最も高いのは徹底した制御装置と綿密な現場チェックである。デジタルとマニュアルの複合システム。ピストンや攪拌モーターなどは集中制御室でモニタリングできるが、それだけではダメとして例えば長さ1.5mの細い鉄の棒を耳と装置にあてて異常音を検知する。それもあって定期修理を3年に1回にすることができ、生産性が更に向上する。生産性と安全性は一体なのである。

化学プラントに限らず工場・事業所を訪問するとき横断歩道では右ヨシ左ヨシと指差呼称を訪問客であってもする。時々街角でシニアの方が小さく指さしをしている風景に出会う。微笑ましい光景であるが、最近の交通事故を鑑みると効果的かも知れない。漫画家のはらたいら氏が横断歩道を渡りはじめは左側、終わるころは右側と冗談を話していたことがあった。確かに暴走車の被害を少なくする工夫というか本能的センサーが必要かも。

自動車メーカーの本社事業所を訪問した。この会社の中に工業高校が併設されており、実践的な教育がなされている。この校舎の前に幾つかのメッセージパネルがあり、その一つを紹介する。

 さわありながら、人とロボットが生産現場で一緒に働くことになってきた。協調ロボットが出てきて久しい。隣りあわせのロボットと一緒に作業する。今のロボットは極端なモノでは人にあたると停止する。なので人とロボットの間に仕切りを置いている。少しロボットが進化して、ある距離になると止まるようになってきた。これは先週のブログでも掲載さいたToF (Time of Flight)の採用により距離測定精度が向上したことによる。

 以前のお掃除ロボットは障害物にあたって方向を変えていた。それが今は障害物の距離を測定してあたらずに向きを変えることになっている。但し、対象物の色が黒であると障害物にあたる。なぜならばToFは赤外線を対象物に射て反射時間差で距離を測るが黒い物体は赤外線を吸収するので効果がない。そこでロボットとの仕切りをなくし、かつ作業衣が黒に近い色彩であってもロボットの動作が制御できる装置を開発した研究者がいる。福岡大学・辻聡史助教である。彼はToFセンサーと静電容量センサーを組み合わせ近接する距離によって、ロボットアームの速度を多段階に変化させ、あたる直前に寸止めする装置を提案し幾つかの事例でその効果を発表している。ToFセンサーがX軸、Y軸方向に対して静電容量センサはZ軸に対応することから全方向に利用できる。協調ロボット以外にヒューマノイドや無人搬送に、身近なモノでは車椅子など応用例を挙げておられる。課題もあるが、実用化に期待しましょう。でもヒューマノイドに適用したらそれこそ人当たりのよいロボットで本物の人間より重宝されるかも(笑)。人当たりの良い人は時にキレることがあるがヒューマノイドは電池が切れない限り大丈夫。なんだか手塚治虫・鉄腕アトムの世界に一歩近づいた。

国際センシング・精密加工展から

JR桜木町から、又は地下鉄みなとみらい駅から2色の流れがパシフィコを目指して歩く。スーツ・カバンの流れと中高年ご婦人の流れである。おや?画像センシング・精密加工展を開催しているはずなのに何故華やか?なご婦人ドメインがおられるのか? 画像センシング展では4K8Kの精密画像を競い、一方のご婦人方は深い皺・シミをいかにしてカバーするかのはずだが、、、と思いつつパシフィコに到着すると、やっと分かった。ご婦人向けにアンチエージング展が併設されていたのだ。化粧品やサプリも観察が開発の基本なの共通する。 

 さて、本題に戻って画像センシング・精密加工展からトピックス(筆者が知らないだけであるが)を拾ってみると。

    カメラ撮像向け半導体はCMOS。すでにCCDから切り替わって経過するが、昔はビデオカメラの横にはCCDのロゴが強調されており、初期のCMOSは駆逐されていた。それが最近は復活。ソニーOB名雲氏から勉強会を通じてCMOSは当初のDRAM工程で作成され、低電力・低コストで生産はできたが、低感度で劣悪品だった。スマホが登場するとCCDの感度技術をCMOSに応用し感度向上(東芝)。さらに読み出し速度改善もあり(ソニー)ついにCCDからCMOSに主役交代となったとのこと。3D積層構造などもあり、今どきの感度は0.00Lxでも撮れる理論限界まで来ているとのこと。量販店に暗黒ボックスがあり、その中に模型の家があり、それをボックスの孔からスマホで撮影する仕組みがあり、ほぼ真っ暗でも撮影できることをPRしている風景をみることができる。トライして驚いた。多少輪郭が甘いがカラーで識別できる。(人間の目では真っ暗でもレンズは赤外領域を利用)

 スマホのカメラの距離測定は昔は土木観測のように3点測定法だったが、今の世代は対象物への照射/反射速度差を精密瞬時に測定できる方式に切り替わる予定と3年前に聞いたが今回はほとんどの装置に採用されていた。(ToF. Time of Flight センサー 赤外線反射の時間測定差=距離換算)

     次に面白いなぁと思ったのはカメラが揺れてもカメラ内で処理して画像が安定して見える。例えば、スポーツではランニング併走しながら選手の顔を当方のランニングの上下動に関係なく撮像することができる。大谷がホームランを打つ。カメラマンが重いカメラを腰にあてかがみ込みながらホームやベンチまでの帰還を撮影している。カメラ触れしないのは流石にプロであるが、この揺れ自動修正カメラであればもっとダイナミックな画像が撮れるだろう。横浜ラグビーワールド大会に5Gがトライされる。競技場の多くの地点から、フィールド側から、多くの画像を遅滞なく同時送信される。多角的視点でスポーツを楽しむことが可能である。海上保安、防衛、公安などセキュリティ面でも活躍するだろう。歯科口腔内でのベテラン医師の処置を揺れなく観察できることはありがたい。使い方を考えるのも呆け防止にはなりそうだ。

    時代遅れの脳みそにおや?と刺激を与えてくれたのがリキッドレンズ。レンズの凸部を外部からの電圧・電流で変化させる。概ね各社のリキッドレンズは4段階は変化できる。いちいちレンズ交換しなくても良い利点がある。凸部を変えることは視野深度焦点を変えることができることを意味することから対象物を正確に撮像することが可能である。人間の目もレンズを囲む筋肉への電流値で変化させている訳で理屈は分かったが、それしても面白い。

    熱硬化樹脂の反応に伴い屈折率が変化する。その屈折率をモニタリングすることで重合度が判断できる(島根大学)原理を説明。これは光重合3Dプリンターの開発に応用できそうだ。光重合の場合、光増感剤を配合し、紫外線を照射による反応熱を評価する紫外線示差熱分析DSCが利用されているが、屈折率評価を加えることで、更に精密な材料開発ができるのではないかと想像した。 いつものことであるが異分野の方々との会話は刺激的である。

研究チーム規模と成果&京都企業の特徴

Nature 566, 330-332 (2019) に面白い論文があった。要旨を紹介する。

Small research teams ‘disrupt’ science more radically than large ones

The application of a new citation metric prompts a reassessment of the relationship between the size of scientific teams and research impact, and calls into question the trend to emphasize ‘big team’ science.

The application of a new citation metric prompts a reassess

科学技術の流れを乱して革新をもたらす「破壊度」を引用数指標として用いることで、研究チームの規模と研究の影響度との間に新たな関係性が見いだされ、「大きなチーム」の科学を賞賛する傾向に疑問が投げ掛けられた。

小さな研究チームは新しいコンセプトの提案や科学史上インパクトのある成果をだしている。一方、大きなチームは科学で大きな役割を果たしているとは言えないがコラボなど規模を活かし既存技術の強化において成功している。随分の意訳であるが概ねこのようなことであるが、紳士的でない表現が許されれば「大きな研究チームは過去開発した技術を拡張するか重箱の隅を突くようなことを研究成果としている」と言える。

過去の事例を超える文献、特許などについてWuらは引用指標を設け整理し図に示している。今回のWuらの論文はある発明がそれまでの技術開発の流れを乱すものなのか、それとも現状を強化するものなのかを評価するために最近開発された、特許引用に基づく指標を科学技術の領域へと拡張し「科学技術の破壊度」という指標を提案している。

論文だけでなく、特許、ソフトウエア開発にも適用でき、論文の場合は生物科学から物理科学、さらには社会科学まで当てはまることが示された。筆者の感想では会社組織などは参考になるのではと思う。

 

 

 

図-1 小さなチームは科学に対して大きなチームよりも破壊度の高い貢献をする

今回Wuらは、科学論文の被引用数の中央値(赤色の線)はチームの規模が大きくなるにつれ上昇するのに対し、引用に小渡尽く指標によって決まる、論文の破壊度の平均度(緑の線)はチームが大きくなるにつれ低下することを明らかにした。 研究論文2417万に基づいている。

当方はこの文献を見ながら、以前このブログで京都の企業は何故か元気と書いたことがある。オムロン、島津製作所、堀場製作所、日本電産、村田製作所、京セラ、任天堂、ワコール、ローム、第一工業製薬 などは京都本社であり続けている。大阪企業が東京に本社を移転しても、東京に行く気は全く無い。 江戸時代まで遡れば大倉酒造、福田金属箔、宝酒造、川島織物などがあり、これら老舗企業と先に挙げた企業の共通項は、一人のベンチャー創業者が特徴となっている。 京都といえば寺社仏閣、観光、文化がウリと思われているが意外にも京都7条から長岡京に至るゾーンは機械・電子・化学工業の街でもある。

では何故、京都なのかの解説については「京都企業が世界を変える ⁻企業価値創造と株式投資-」川北・奥野氏共著に記載されている。京都企業にお勤めの方が要旨を纏めておられる。ポイントと筆者の感想を記載する

背景として

①   文化・もの作りの1000年以上の伝承

②   オリジナリティの追求とグローバルな意識(良い意味でのプライドの高さ、気位の高さ)

③   技術志向クラスターの形成 西陣の伝統のように京都企業相互に情報交換し協力、今風で言えばクラスター)

④    ユニークな研究で突出している京大を始め大学の街であり、民間企業との交流が昔から京の街に根付いている。

⑤   京都銀行が創業期から融資に協力。 都銀にはできないフォロー

その結果

*海外での事業展開比率が高い。東証上場全企業比較では10ポイント以上高い。

*利益水準(ROA)が上場企業平均を上回っている。高付加価値の製品販売が多い。

経営者の資質

これだけ他地域とは違う企業は特徴のある創業者・継承者の発言にも見ることができる。例をあげると、一代で世界トップに駆け上った日本電産の永守さんは絶対に負けないという気概をもちつつ百年企業にはグローバル人材の育成が重要とあって

必要な能力は「突破力」「雑談力」「英語力」を挙げている。なんだ常識ではないか。でもそれがなかなかできない。

たとえば、「雑談力」 無駄なおしゃべりではない、気が利いて、気配りができ、洗練されたセンスの話題をポケットに蓄積しておいて、タイムリーに出しながら相手から本音を引き出す。相当の芸術的域の世界なのだ。電車のドア付近に立ち塞ぐ人々を筆者は見る度に「あぁ気が利かない人だなぁ。あの様な人には任せられないなぁ」と思っている。自分では意識していなくても、相手は反感を持つ。そんな人に雑談力は期待できない。人つくりは子供の時から始まっているとしたら地域の性格も反映するのだろう。

漁業の養殖シフト&未利用成分有効化

にわかには信じられないが、「漁獲量は肉を超えている」「漁獲量の半分は養殖である」と雑誌・現代化学5月号の記事である。論文でも抄録でも査読され編集されるので間違いはないだろうとは思う。子供は魚の骨を取り除くのが苦手。ハンバーグで育ったので肉が恋しい。。。と魚は敬遠されていると思っていた。大人でも綺麗に魚を食べる人をみるとなんと上品な人。躾が出来ている人と評価される。魚の頭を右向けに出されても、魚と距離をおいて育った人を責めるつもりはない。魚を家庭で出さなくなった。

お頭がついていないフライや刺身が魚だと思っているのだろう。そんな嫌味を言っていても鮎が出されると、さてマナーは知ってはいるものの、小生は箸使いが悪く、誠に恥ずかしい結果となる。会食している人の鋭い視線を感じて落ち着かない。

 小学校のころ遠洋漁業、近海漁業を習った。銚子、焼津、枕崎、下関など遠洋漁業基地は活気があった。ここ横浜は漁業基地ではないが下関との関係で大洋ホエールズ球団があった。現在のDeNAであるが、ホエールズは野毛地区飲み屋街名物の鯨料理に名をとどめている。

遠洋漁業は物流コスト、漁獲資源の減少、近海漁業はルール無視政治的要因による不安定操業もあって衰退傾向にある。一方、養殖の技術が向上し、海のない県でも水産は可能とあって高級魚の養殖が盛んになってきたことは分かる。深層水をタンクローリーで運搬する風景を見たことがある。また愛知万博の時に話題になったのは海水魚と淡水魚を同じ水槽にいれても両方が平気で泳いでいることを知って驚いた。ナノバブルで溶存酸素を高濃度に維持することで両方とも生存できる仕組みである。

しかしながら大規模養殖産業にするには根本的に必要なのは餌問題。餌はイワシの魚粉がメインである。イワシの漁獲量が減少している。なので代替材料を開発している。野菜などベジタリアン餌では魚は食べない。初めは興味と空腹もあって食いつくが、2口目から見向きもしない。現代化学の記事によれば、魚粉と植物原料を混合し、魚粉の割合が20%まで減らす事ができたとある。魚のお気に入りはタウリン。魚粉の量を減らした分だけタウリンを追加配合することで成功したとの事が掲載されている。

健康栄養ドリンクに配合されているのもタウリン。食物中のタウリン含有表を示す

 

 

 

なんだかんだ言ってもタウリンは魚介物に多い。だがボリュームと掛け合わせると豚、牛、鶏肉も有効利用できる。2週前のブログで食品廃棄物問題を取り上げた。廃棄物を分別することができれば、餌に利用できるのではないだろうか。これもリサイクルとして有用だと思う。実際ミートボールを配合することもテストされている。

健康ブームでDHA、EPA配合の製品が販売されている。それらは魚介類が原料である。需要は増加する。また、養殖であればプラスチックスなどは排除される。マイクロプラスチックスは水循環途中の濾過工程を入れるなど工夫すれば、需要家にとって安心な食材になることが期待される。魚粉の割合が20%に減少されたとして、そのイワシの中にマイクロプラスチックスが入っているではないか? と心配されるであろうがカバーする技術は存在する。

それでは、魚が料理に多く利用されたとして、未利用の鱗や骨やアラはどうするか? 鱗からコラーゲン取り出すことは既に工業化されており化粧品などに利用されている。骨の再生(歯の再生)には骨芽細胞はコラーゲン線維や非コラーゲン蛋白質を含み体内のリン酸カルシウムを呼び寄せ蓄積させてヒドロキシアパタイト(HA)を合成する。リン酸カルシウムには非晶性リン酸カルシウム(ACP)、リン酸第八カルシウム(OCP)がHAの前駆体になることが知られている。これらリン酸カルシウムは魚の骨に含まれているとして歯にも適用できると考えられる。既にOCPをコラーゲンやゼラチンに分散させた複合体が歯科業界で発表されている。