2018年 11月 の投稿一覧

大阪万博 イノベーションの実践

2025年の大阪万博が決定。「医療・健康が中心のテーマ」と聞く。競合した国・都市に比べてこのテーマでは数歩リードしていたこともあり、票田の多い国々では国境のない医師団をはじめボランティア皆様の日頃の活躍が功を奏したと思う。

思えば前回の万博では趣向をこらしたパビリオン前の長い行列、アポロ11号の「月の石」と明るい話題の中、山田洋次「家族」が九州炭鉱閉山に伴い北海道へ移住する途中で万博を見学する風景がおりこまれ、表裏の時代性を浮かびあがらせた。笠智衆さんの運命に流されていく演技は秀逸だった。石炭産業から石油にエネルギー転換していた1970年。その3年後に石油ショックや環境汚染問題など時間軸でズームアップしてみると当時の大阪万博が屈折点だったかも知れない。「人類の進歩と調和」 パビリオン間移動の小型バスはEV車だった。それが50年後では公道を走行している。技術は調和しつつ進歩した。政治面での人類に進歩をもたらしたかは疑問だが。

では今回はどうだろう。医療・健康はテーマとして悪くない。長寿社会を謳わなかったには開発国への配慮があったとのことではあるが人類共通のテーマである。

iPS細胞の範囲拡大、AIによるビッグデーターからの診断能力の向上、CT,MRI,PET、超音波診断に加えトモグラフCT(3次元動的CT)などが拡充されることが期待できる。量子コンピューターによる分子設計での創薬やコンピューター内での治験などを想像するだけでエキサイテイングになってくる。歯科についても口腔内施術のロボット化が予想され(一部着手している大学がある)。ナノテクが更に進化した機能を発現するだろう。

一方で、技術の進化と生命倫理問題は隣り合わせにある。 このブログがアップされるタイミングではWOWOWドラマ「パンドラ AI診断」は継続中なので結末は置くとして

毎日発表される膨大な論文から診断され手術したところ、失敗したとあって係争。診断は正しいのか、その診断に誰が責任を負うのか、果たして診断は正しいが手術の過程で見落としていたのかなど、今後あり得るケースを取り上げている。実に面白い。 一昨日政府はAIを利用する際の責任問題について7原則を近々まとめると発表した。AIの責任は利用する企業・利用者にあるとの案である。AIがブラックボックスでは社会の混乱が予想されるのだろう。 

前日まで健康に良いと言われていた食品が、ある文献では逆だとの報告があれば、論文査読者の資格、過去の実績なども含めてのAIに取り込んでの判断になる。言うは易く実行には気が遠くなる作業工程が必要だ。時間はかかる。でも現場の医者が毎日治療しながら膨大な論文に目を通すことはもはや無理。技術は初期の段階では受け入れられないのは過去累々。最近の事例ではホンダがジェットのエンジンを翼の上に乗せた。ほとんどの技術者は嘲笑した。でも実績を積むと認めた。AIは過去帳の整理には適しているだろうが、クリエイティブは苦手なのだろう。

 更に9月のHealth Day Reportには「つい先延ばしに関与する脳領域」が掲載されたいた。

なんでも扁桃体の領域と行動に移す脳領域の距離が離れていると行動を先延ばしになるらしい。この距離はMRIで測定することが可能。これが本当なら、生まれる前からの診断や入社試験でのMRI測定が別の名目で実施されるとしたら、人権はもとより本人の努力など無視することになりはしないか杞憂かも知れないが気になる。

今回の大阪万博誘致に関係者の足並みが揃わなかったとのこと。安部首相のGo!のかけ声で途端にやる気になったとある。勿論経済面が誘致問題の足かせにはなっていた。でも医療・健康の新技術・新社会イノベーションから得られる収益と何もしないで出血による大きな政府のままでいる経営とどちらが有利であるか計算ができなかったようだ。このブログでも記載したが機会損失は後からは「あとの祭り」

経営者集団でさえ、このようだから、SNSの反響をみると約70%が否定的で、相変わらずのハコ物行政、サンクコストが問題だ、、、、など過去の事例踏襲コメントが多い。バブル崩壊の足音が聞こえてきた東京万博構想は今思い出してもテーマが何だったか分からない。開催動機がお台場の土地活用副都心計画だったので反対の声には頷けるところがある。 

横浜は市政100年を記念してミニ万博をみなとみらい地区振興目的で開催した。動く歩道は今でも活躍しているが、リニア車両が実際に走行したことを知っている人はほとんどいない。都会での万博とあって盛況ではあったが、テーマ力がなかったので、その後の開港150年記念事業は惨敗した。開港記念の時に羽田空港とのアクセスなど都市デザインをしていればもっと世界のヨコハマになっていたと想像する。

 愛知万博のテーマは「デザイン」だった。このネーミングはダサい日本製品を洗練されたデザインに転換するための刺激策だと受け止める人が多かったと思う。しかしながら結果は単なる外観の形状、色彩にとどまらず、「機能設計=機能デザイン」として多くの工業製品が開発されたことは、あとあとになって気がつく。

 2025年がAI実践の年だとしたら、エネルギーの化石燃料依存は限りなくゼロに近くなり、従来型の貨幣は姿を消し、銀行は形を変え、右から左のモノや情報を取り扱う商社も姿を代えざるを得ない。そんな時代の「医療・健康とは」を考え、さすれば積極的に参加する姿勢を持つことが精神的には必要だろう。

ロボットが稼ぐベーシックインカムで生きる意味を問われるのは精神的に辛い。一方で別の文化が発達する可能性もある。それもイノベーション実践の副産物。それならそれも良いだろう。

レジ袋 床屋談義(庶民の視線)

床屋談義といえば江戸時代のノンビリした風景を想像する。江戸は地名に水道橋があるように上下水道あり、リサイクルも進んでおり環境に配慮していた巨大都市だったと聞く。 床屋が今は理容店か美容院。最近は環境問題がとかく話題になることがある。こんなことは日本だからだと思う。かの国とは大変な違いだ。環境省は海マイクロプラスチックス問題からレジ袋廃止か有料化を計画している。しかしいろんなお客様との床屋談義で情報をもっている理容師さんと客のやりとりは一般庶民の見方ではあるが傾聴に値することがある。

 

理容師

「ウミガメの鼻にストローが刺さった程度でレジ袋云々は大げさではないか?」

「レジ袋はゴミ袋としても利用しているし、レジ袋そのものを海洋投棄はしない」

「確かに、ストロー(ポリプロピレン)やレジ袋(ポリエチレン)の比重は0.9000.95 で水より軽く、海では浮くので目立つことはありますね」。 

 「レジ袋やゴミ袋はポリエチレンで焼却用の燃料として役立っている。水物が多い食品廃棄物では燃焼温度が上がらずダイオキシン発生の原因になる。なのでプラゴミを配合して燃焼温度を制御している。」 ダイオキシンの方がよほど問題。日本の焼却炉は技術レベルも管理能力も世界トップだからできるのだけど。

理容師

「でもレジ袋を止めたらどうなるのですか?」

「石油化学は原油を分解してナフサとガソリンを作る。ナフサは炭素数で2(エチレン)、3(プロピレン),4(ブタン),それ以上と芳香族、ピッチ残渣」に分類される。この割合は基本変えられない」 なので、炭素数2(エチレン)の量が少なくなると全体のナフサの生産量を削減することになる。」

理容師

「長い説明を聞いてもピンと来ないが、何か生活に困ることがありますか?」

「炭素数2はポリエチ以外に洗剤、容器、化粧品、パイプ、電線、通信ケーブルなどに、炭素数3は自動車内外装で軽量化に貢献、炭素数4はタイヤ原料、芳香族はポリエステル繊維や電子機器、基板、製薬の原料、ピッチ残渣は道路など、要するに身の回りからインフラまで深く関係しているので、ナフサ生産を抑えると、プラント稼働率が低下して製造価格が上昇する」

「女性活用に伴い食品もデリカテッサンの利用と食品包装も対応している。これとの折り合いはどうするのか、この視点も重要。それに農業・酪農への影響もある。」

「原油の量を削減しないとなると、ナフサと同じ成分のガソリン生産を上げ、EV車よりガソリン車を後押しすることになる。まして原油輸入大国の中国が輸出に回っていて石油化学は混沌とするだろうね」 

理容師

「それって大変な問題でないですか。環境省のお役人に教える省庁がないのですか?」

「経産省及び傘下のエネルギー庁、農水省及び民間の経団連や労組も声を上げるべきなんでしょうね。大学もこんな時は知能を集約しての提案があってもよいのかも」

理容師

「よ~く分かりました。なんとなくオカシイとは思っていた」

「でも民間は環境にシビアですよ。50年前まで船にへばりつくフジツボが船の燃費を悪化するとして鉛配合の塗料を使用していたが、貝毒の原因となるので鉛を含まないフジツボ付着防止塗料を開発した。またポリエチレンの袋も厚みが20~30ミクロンあったのを成形法を開発してレジ袋だと6ミクロンで重い品物にも耐えるようにした。気がつかないところで、頑張っている」

理容師

「それに日本人は廃棄問題の意識が高いですからね。輸出すべきは教育・マナーなど急がば回れでしょうかね。」

「なかなか良いこと言うね。ところで薄い頭髪ではカットする髪がないので、料金もカットできない?」

理容師

「それはマナー違反です!」(笑)

「この問題のきっかけになったストロー問題。紙製に切り替えたら、風味が紙っぽくなるのでサッサと飲むのがお勧めのようですよ。お店の回転率アップ狙いだとしたら大した知恵者だ」

理容師

「床屋談義だからといってテキトーなことを言っちゃダメですよ」

「でもボケーッと生きているんじゃねーヨ!とんでもないことになるぞ」とチコちゃんに怒られそうですね。

「その通り、昨日の延長が明日と思わない方が良さそうですね。レジ袋は以前は中国で生産していたが、人件費高騰もあり今はベトナムなどにシフト。レジ袋だけの集中生産している現地会社もある。レジ袋販売不振となると東南アジアは中国不景気+環境でのしわ寄せと大変なことになるね。日本にとっては小さなことも、影響を受ける国や人々がいることは忘れてはいけないね。チコちゃんに怒られないように。」

3Dプリンター、繊維興隆と今・アラカルト

あっ!3Dプリンターだ。これ学校にある! 和光市民まつりに3Dプリンター研究会が出展したときの子供の声。へぇ~知らなかったぁ これは親の声。新旧の声が今を象徴している。ダンベルの実物と3Dプリンター製品のどちらが本物?と触らないで当てさせるクイズでは的中率は50%。外観の凹凸や光沢では判断できない。持ってみて初めて分かるところまで精巧なレベルまでできていることに感心していた。先週ブログで紹介したパラパラ漫画の立体版(ゾーエトロープ:Zoetrope)も好評で、親御さんにはパラパラというと納得していました。

写真は回転させLEDを点滅させると上から下へ水が落ちるように見える。

 

FDM方式でピカチュウの成形実演や光重合での試作品を展示するなかで、こちらから、既に世界規模では12兆円まできました。今後の物作りの世界は変わる。それを担うのは興味を示してくれた子供の将来にかかっていますと語りかけると、理解を示してくれた。さすが和光市民はレベルが違いますね~と当方は本音で相づち。和光市商工会主催のまつり土日併せて約8万人と凄い熱気。地元企業のホンダもNSXを本日に限り大幅サービス200万円値引き!として展示していました。2750万円。惜しいかな、ガレージのサイズが合わないとの理由で辞退(笑)。1日5台の生産と聞いて、それこそ3Dプリンターでの自動車生産実績を積むには好適ではないかと我田引水。樹脂のみならず金属3Dプリンターや機構部品での高速精密5軸切削装置が応用されると期待した。

喧噪な会場で3Dプリンターのブースを静かに眺めている若い人物がいた。目に何か言いたいことが一杯ありそうな雰囲気が漂ってきたので、挨拶とショート会話。これが実に有益であった。若い技術には若い視点と情熱が相乗効果を生むと当方が興奮したことは言うまでも無い。

翌日は山形大学工学部を訪問。米沢高専が源流で繊維産業発祥の一つ。帝人(旧帝国人絹)はこの米沢出身者が設立した。現在は有機EL、高分子成形など世界に誇る設備と教授陣があり産官学の推進大学として有名である。最強の蜘蛛の糸を開発したのもこの大学(鶴岡分室)で源流からの流れは今でも息づいている。

 

天然繊維の源流はコットンとシルク。このブログでも幾度も登場したが、今回は米沢の帰路、官営富岡製糸工場を見学。世界遺産に指定され俄然注目を浴び観光客は今でも絶えない。養蚕は富岡に限らず、八王子など盛んであったはずがなぜ輸出港から相当の距離にある群馬県なのか知らなかった。でも現地の地形をみると分かった。直ぐ下に河川があり、となり町の高崎観音の下には亜炭が埋蔵とあってフランス製蒸気駆動ブリュナエンジンを利用して繭からの糸繰りなどに利用できる絶好の土地柄であることを理解した。

 養蚕から繭・シルク生産は明治3年に高崎で小さな産声をあげ、次いで明治5年富岡、長野の岡谷と拡大した歴史がある。現在は世界生産量17万トン/年。中国が世界シェア80%を占め、インド、シルクロードの国が生産拠点。価格は日本品の1/3と安価である。従って、国産のシルク生産は消滅したと思っていた。岡谷は機をみるに敏で、時計など精密機器産業にシフトしたが、富岡は機械の国産化が遅れたこともあり、その後も蚕に拘り技術保存・継承運動をしつつ、地道な研究の結果DNAが操作された蚕の育成までこぎ着けた。光るシルク糸をはじめ健康食品・医薬への足がかりを作っている。現在、この技術を大々的に熊本で実証が始まっている。長野県民と群馬県民の県民性、それをならしめている風土が強く関係しているのではないかとの感想を持った。

 Dプリンターの原理を発明したのは日本人。特許を出願しながら審査請求せずに留学。それには事情があるのだろう。アメリカの風土がアイデアを成功に導いた。知恵を絞ることが産業であるイスラエルも次々と新技術を発表している。ドイツは几帳面さを発揮して精巧な3Dプリンターを製作している。それでは日本はどうするか? 心配は無用。若い人物や目を輝かせて3Dプリンターをみてくれた生徒児童が任せてくれと。

機会損失(精緻と直感)

「ゾーエトロープ:Zoetrope」と聞いてピンとくる人は少ないでしょうが、パラパラ漫画の立体版といえば、なんとなく分かる。ノートや教科書の右隅に少しづつ人や模様を変えて、パラパラめくると、動いて見える。目の残像時間を利用している。英単語を覚えるつもりで買った綴り帳は特に便利だった。表と裏の両方に描いては楽しんだ。おかげで肝心の英単語記憶目的はパラパラとどこかへ飛んで行った。今は3Dプリンターのおかげで立体像を一コマづつ僅かに部分を変えて製作することができる。これを回転盤の円周上に時間軸の順番にワンピース欠けることなく置き、回転させる、かつ回転盤の上から回転速度と同調したサイクルでLEDの光源を点滅すると、立体像が動いている様に見せることができる。事例や作り方はWEBに紹介されているhttp://roomoor.net/entertainment/11254/2、https://www.youtube.com/watch?v=PDwal4PhZv4

尚、筆者が参加している3Dプリンター研究会(活動拠点和光市)では来る11月11日(日曜日)に和光市保健センターで開催される和光市民まつり会場に研究会活動の余興として作品を展示する予定。お時間があればお子様連れで遊びに来て下さい。どのような3D形状にするか、メンバーには凝り性の人がいるので小生も楽しみにしている。

さて、前置が長くなった。大学での研究成果が産業界に移転させる交流の場として科学技術振興機構(略JST)がほぼ毎週のように「新技術説明会」を実施している。日頃専門外の最先端の情報に触れることが少ない研究者や技術系管理者にとっては非常に有益なシステムである。特に業際を知ることは非常に重要である。筆者もよく利用している。これはと思った研究者には講演後の個別面談や大学訪問の上で情報の精度を上げることがある。こんなところが日本のサイエンスの強みを支えていると理解している。

企業が取り組んでいる現在のテーマに応用することで短期的収益が増大すると期待できる発表の後には名刺交換など長い行列ができる。成果主義の影響だろう「答え」が分かった案件はスピードが勝負である。講演参加者としてそれなりに社内説得できる立場の人が多いのでアクションが速い。

一方、講演の内容が最後の「答え」が開示されていないテーマについて中長期テーマとして自社で取り上げるには正直名刺交換の列は短い。社内のテーマとしては遠い位置づけか壁は高いのであろう。発表について特許出願したが、公開されるのが1.5年後なので、答えを待つ必要がある。 現在のイントロ開示段階では頭を回転させて欠けているワンピース(答え)を浮かび挙がらせる力量が求められ、それにより共同研究するか否かの判断が求められる。

企業で「戦略的企画」を作成するにあたり上層部のチェックは企画者の推察・想像・妄想は厳しく排除される「精緻な計画」になっているかどうか問われる。特に大企業に多い。 予算規模、人材再配置など大がかりなことになるから安全運転経営ではありうる。想定内の条件を前提にしての「精緻」ならいくらでも書けるが、想定内通りに市場・経済が推移することがないので「絵に描いた餅」に終わることがある。計画が精緻で自信があったのか、世の中が間違っていると言う人にも出会ったことがある。あれだけ調査に費用をかけ、優秀な人材を投入した企画なので間違いがないと。精度はないのが当たり前として斥候検討をさっさと始めた方がよほど効率的である。そうはしないで精緻・精緻を連発するような会社は来たるべき運命が待っている。 小野薬品工業も本庶教授からの提案を断った理由が分かる。米国企業に話しかけたところ乗ってきた。そこで小野はそれを見て受け入れたの情報がある。如何にも日本企業の典型的見本。では米国企業はどのように判断をしたのか、それは「大局的な直感」であろう。この提案に乗らないで他のテーマに会社の資源を投入して得られる利益と本テーマが成功した場合の利益を得る「機会損失」を計算したに違いない。精緻な積み上げより「直感」が勝ることはよくある。 おそらく想定内の範囲で利益を得るよりは、想定外の技術開発で想定を変えていくような企業が生き残るのであろう。アマゾン、アップル、グーグル、フェスブックなど、日本語がないのが残念だが、昔はホンダやソニーがあった。でも今の若い人は違う。精緻を連発していたシニアは去り、直感を磨いていたシニアは退職後も活躍している。その両者がタッグを組めば面白い展開ができると期待している。