2018年 1月 の投稿一覧

コスメの科学(2)塗る、刺す、そしてセカンド・スキンへ

<クリームなど塗るテクノロジー>

東京にも雪が降った。なかなか融雪しないうちに次の降雪が予報されている。寒いが化粧品業界は熱い戦いが行われている。そこに科学がどう関係しているかみてみよう。

雪の形については有名な北大中谷宇吉郎名誉教授の研究が有名である。不思議に思うのは何故あの多種多様な雪マークになるのだろうか、コップに水を入れると界面張力が作用して丸くなろうとする。それに反してギザギザ分岐の形にはどうしてなるのか長年分からなかった。1977年ノーベル賞を受賞したイリヤ・プリゴジン教授が非平衡系の自己組織化・散逸構造を提唱するまでは。その答えは身近なところにあることを共同研究者の慶応義塾朝倉教授が解き明かし化粧品分野の商品開発に結び付けている。紫外線防止クリームは塗布後と水浴後ではクリームの集合状態が変わる。従来は水浴後に疎らに凝集していたクリームを理論的解析により水泳後でも均一な商品を開発された。(写真はカネボウ・慶応共同研究成果)

この理論が虎やシマウマの縞模様発現と同じだと朝倉教授を話されるが、今でも小生には難解。でも面白い。

 

 

 

 

 

<ヒアルロン酸は塗るからニードルで刺すテクノロジーに>

124日から3日間、幕張メッセで化粧品テクノロジー展が開催された。異分野でのテクノロジー進展に興味がありチェックした。その結果は購買層を反映した、アンチエージング、美肌関連の展示が多く、従来の経験に基づく商品開発(土地特有の植物から抽出成分を配合)から発酵技術を駆使しての新規原料の開発などが目に付いた。特記すべきことは、ヒアルロン酸を皮膚に塗布しても効果がイマイチだとして、皮膚下まで針を差し込みヒアルロン酸やコラーゲンを注入する試みがなされていた。ここで針?とは金属製ではなく、実はヒアルロン酸の結晶体をフィルム面の上に生成させている。ヒアルロン酸の結晶は針になるほどの強度があることに実は知らなかった。この技術はナノインプリントと称する光学フィルムの製造において急成長したテクノロジーであり、液晶テレビ、モバイル、タッチパネルなどでは無反射防止フイルム、指紋が付きにくいフイルムで実用化している。食品ではヨーグルト容器の蓋にはこの技術が応用されている。以前は蓋にヨーグルトが付着していたが、いつの間にか蓋にはつかなくなっている。フイルム、アルミ箔の表面にナノサイズの突起が転写されている。

ナノと今回の化粧品ニードルとは寸法は違うものの、成形法については同類だろうと想像している。写真はコスメディ製薬のパンフから抜粋した。

 

 

<セカンド・スキン>117日の日経によると資生堂は以下の発表を行った。

米オリボ・ラボラトリーズ(マサチューセッツ州)が持つ「セカンド・スキン」と呼ばれる人工皮膚形成技術の特許と関連事業を買収した。買収価格は不明だが数十億円規模とみられる。オリボ社の数人の研究者も資生堂グループに取り込む。セカンド・スキンは肌に特殊な高分子化合物を配合したクリームと専用の乳液を重ねて塗る。すると、人工皮膚が瞬時に形成されて凹凸を補正しシワやたるみを隠せる。 直ぐ外出する用事があるときには便利な「化粧」だと思われる。

コスメの科学

昭和初期の歌手は直立不動。昭和中期では簡単な振り付けとバックダンサー。昭和後期から平成初期ではジャニーズを初めとしてダンスができないと歌手にはなれない。ついに平成30年になると歌手かダンサーのどちらが主役か分からなくなってきた。大阪府立登美丘高校ダンス部のキレッキレッ超ハードバブリーダンスが国内外の話題と高い評判をさらった感がある。あの高校生たちは母親の当時の服を纏い、ケバい化粧でメイクアップしてバブル時代(1986年から約5年間)を彷彿させていた。

でも化粧品は当時の物では無いとTVを観ながら気づいた。メイクアップとメイク落としは当時より大きく変化している。アイシャドウ、口紅、アイライン、ファウンデーションなどメイクアップは汗や飲み物でも落ちない新素材研究が進み、一方メイク落としは何がなんでも落とす機能が要求され研究されている。まるで盾と矛の関係である。最近のメイクアップには汗や水に対して親和性のない(疎水性・撥水性のある)シリコーンやフッ素系材料が配合されている。顔料はメイクアップ中のオイルに分散して光沢などを強化するために顔料表面を疎水性コーティングがなされている。なおさら従来のメイク落としでは取れない

小生はこの分野は素人だが面白いので文献を捜していたら山形大学の野々村美宗教授の分かり易いペーパーが見つかった(化学vol73.No.1 2018)。特にメイク落としの記載がなされている。結論から言えば界面活性剤の種類と形態の進歩で、シリコーンやフッ素系配合がなされていても拭き取ることができる。

身近な界面活性剤として食器洗剤、洗濯洗剤などがあるが、洗剤メーカーのCMでよく観るように界面活性剤が汚れの表面に付着して、やがて汚れを界面活性剤の内部(ミセル)に取り込むメカニズムになっている。(図-1)

 

最近のメイクアップを除去するには。まず界面活性剤成分中のオイル量を高めシリコーンやフッ素系成分が多く取り込まれるように形態にも工夫がなされている。その形態として界面活性剤が液晶のように揃っている(液晶型メイク落とし)か、オイル成分と親水成分の両成分が同時に存在する形態(バイコンティニュアス型メイク落とし)を利用している。そのため、少量の水、泡で拭き落とすことが可能となった。(図-2)

 

界面活性剤の世界に疎い小生にとって液晶型、バイコンティニュアス型があるとは知らなかった。しかしながら、高分子材料の高付加価値化手段としてはポリマーアロイがあり、通常利用される手法である。バイコンティニュアスとは言わずスピノーダル型と表現している。材料設計の考え方としては似ていると思われる――――――――――――――――――――――――――――――――――

(参考)界面活性剤 特徴を超要約すると以下の通り。

アニオン系          石鹸、合成洗剤 →植物由来原料へ転換

カチオン系          生体がマイナス帯電なのでプラス帯電のカチオンは毛髪リンスなどに利用                         抗菌性もあるので院内感染防止にも利用         

両性                  アニオンもカチオンにもなれる 広いpHで利用可能。洗顔、シャンプーなど

ノニオン              どんなタイプとも一緒に利用できる。化粧品、食品など

シリコーン系        サラサラ化粧品を支える

フッ素系              水にも油にも強い→歯の成分ヒドロキシアパタイトの表面に吸着するので

            撥水・撥油性を利用した歯科向けに展開

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                                     (日刊工業新聞 界面活性剤 抜粋)

モーターサイクル2 (ヘルメット)

年末の紅白では「欅坂」、年始の駅伝では「襷」が話題に。木偏に衣偏、右側が書けなくても意味は分かる。 買い物ついでに隣接するオートショップを覗いたところ、モーターツーリングに欠かせないヘルメットがずら~っと並んでいた。工事用ヘルメットと違い、ド派手でキレッキレッデザインは風を切って走行する風景との鮮やかなコントラストを描きだすことで似合うのだろうと想像した。ただ素人にとっては難解なワードVAS-V、XDF・・・オンパレード。日々進化するテクノロジーを表現しているとは思うが具体的に何だろう?と陳列台の前で考えてしまった。WEBで調べるとVASとは「新シールドシステム」だとか。漢字世代の当人は可変シールドシステムなんだろうなぁと解釈したが、それならそうと書いてはどうか?と瞬間思ったが、ヘルメットの日本製品は世界から信頼を得ており、海外需要が多い事情もあるのだろう

さて、ヘルメットにはPSCマーク(業者特定試験自主検査基準)やSGマーク(製品安全協会認定)などが添付されている。前提としてJIS規格に合格する必要がある。ヘルメット特有の規格としてSNELL規格もある。 どの規格が厳しいのかは専門家にお任せするが、小生の自動車部材開発時の苦い経験から言えるのは衝撃モードが違えば歪み速度が異なるので単純な比較はできない。高衝撃装置で高い数字を叩きだした材料が数値の低かった材料に実用テスト評価では逆転したことがあった。検証ではある想定事故での破壊衝撃モードが異なっていたのである。解析を通じた評価法の開発も重要である

ヘルメットの構造についてはYouTubeで新井製作所工場見学が公開されている。これによるとガラス繊維の不織布、ガラス繊維織物、ガラス繊維を特定方向に配列したシート、及び樹脂製ネットなど10~12種類を積層して型に入れ熱硬化性液体(2液混合)を注入する工程が紹介されている。歯科技工の方なら、注型時の泡の問題は?と気になるところだが、そこは公開されていないが脱泡工程があると想像。 人工衛星の太陽光パネルの成形では炭素繊維に熱硬化性樹脂液体を注入するがJAXAでは泡問題を解決するために製品サイズより大きめの樹脂フィルムで包装し真空ポンプで脱泡する工程を設けている。歯科技工における石膏の真空撹拌とバイブレーター処理と類似している。注型後は加熱重合により複合帽体ができあがる。いわゆるFRPFiber Reinforced Plastic)で小型船舶の製造に利用されている

ガラス繊維は種類によりけりで強度に違いはあるが、影響が大きいのは繊維径である。一般工業品での好適に利用するガラス繊維の直径は13~20ミクロンである。ガラス繊維の表面は樹脂との濡れ性を改良するためのカップリング剤処理がなされている。ガラス繊維を平織り、綾織りと衣類用生地と同じように織ることができる。ガラス繊維の径を4~6ミクロンの極細繊維で織ったものが東京ドームの天井に採用されているのは有名である。ドーム内の圧力変動があっても繊維が折れないほどしなやかである。一般工業品への適用を試みたことがあるが、極細ガラス繊維は非常に高いので断念した。

2040には自動車のボディが鋼鈑から熱可塑性炭素繊維複合体(CFRTP)に置き換わると予想されており、これにつれて炭素繊維の低価格化が進めばヘルメット帽体も軽量なCFRTPに置き換わる可能性はあるかも知れない。CFRP製ヘルメットは先のSAMPE(先端複合材料展)で発表があり一部で市販開始されたが、将来メイン材料になる可能性があるか、それとも製紙メーカーが必死で開発を進めているセルロースナノファイバー複合材料になるのか動向が注目される。

(写真はYou tubeより抜粋 各種部品、中間帽体、熱硬化樹脂注入効果後の帽体)