俗説への挑戦 新技術の芽

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俗説の代表格「酒は飲む訓練をすれば飲めるようになる」であるが、東大医学部の中川氏が「赤ら顔となる深酒は食道がん、咽頭がん、肝臓がん、乳がん、大腸がんなど、多くのがんの発症リスクを高める」と警鐘。27日付日経夕刊)。 現在では俗説は間違いとようやく浸透してきた。ノンアルコールでも会食時の違和感は薄れてきた感がある。エタノールが脱水素酵素と酸化酵素の作用によりアルデヒドに変化し、アセトアルデヒド分解酸化酵素で酢酸・炭酸ガス・水へと変化する工程で、アルデヒドはDNAの二重螺旋構造を傷付け修復不可能になることが判明している。分解酵素をつくる遺伝子にはD型が元々あり、中国南部でD型がN型に転換。日本では縄文時代ではD型、弥生時代はN型。その後は両親の遺伝子組み合わせからDD50% DN45% NN5%となっている。DD型は九州・四国・関東・東北・北海道に多く、中部・近畿はDN型、NN型が比較的多い。N型からみると何故Dから中国南部で転換したのか知りたいところである。

俗説(2)食物アレルギー発症回避のため、高アレルゲン性食品を妊娠中や授乳中に母親が食べないようにしたり、離乳食を始めるのを遅らせてきた。しかしながら、この予防法が却って食物アレルギーを増加させていることが判明している。2006M.Karamerらがメタ解析により解明しており専門家は熟知、でも母親の心理面からは受け入れられていないのが実態であろう。離乳食を早め体内での免疫寛容を形成させ、その後の皮膚を通じてのアレルゲン経皮感作を抑制する方が好ましいのではないかとの仮説を動物実験で検証している。 (現代化学20182月号)

俗説(3)ポリカーボネート製ほ乳瓶は危険。重合成分であるビスフェノールAが超微量存在するとオスの魚がメスに変化する。カナダの小説家が「失われし未来」として出版。超微量とは当時の分析機器でも検出限界程度であり、それより高い濃度であれば影響がない。・・・まか不思議な理屈? 企業は言い訳を後回しにして即刻当該用途・類似用途への販売は中止した。今も販売はしていない。問題はここからが肝心なところで、サイエンス的解明を確実に実行して根拠のない妙な小説と区別することである。

ビスフェノールAはエストロゲンの一種であるが、人類・動物が排泄する量が圧倒的に多いと言いつつも口に出さずに、グローバル企業が相互協力して莫大な資金で研究解明を地道に積み上げ「完全シロ」を得た。もう一つ得たものがある。それは超微量成分分析技術。小生も本件に係わったが、欧米巨大化学メーカーのトップのサイエンスへの真摯でサイエンスに対する姿勢を見たことは有益だった。

俗説(4)特異性質を有する高分子ABを混合して両方の高分子の長所のみ有する材料とする技術はポリマーアロイとして発展してきた。マトリックスをA、ドメインをBとする海/島構造の場合Bのドメインサイズを微細化する程、長所を引き出すことができるとあって、技術者は10ミクロン→5ミクロン→3ミクロンと平均ドメインサイズを微細化することを競っていた。一体どこまで微細化すると良いのか分からずにである。理論的理想値を発表する大学教授が東京地区におられた。業界では著名人だけに有りがたく信用した。1ミクロン以下になると性能は発揮できないと言うモノ。1ミクロン以下のドメインを製造することは困難なので、多分1ミクロン以下は価値がない、工業用途には2~5ミクロンで十分だとして微細化競争は終了。小職も別の形態へ挑戦し2種類のアロイ形態を開発し特許化した。企業として微細化技術開発に突進していては新規形態開発を出来なかったが、あの時の某教授の話に少し疑問が残った。この教授も当方もミクロン単位での制御技術しかなかったのが本音である。恥かしながら小生も俗説化していた。

<新技術への挑戦と芽とは>

今はナノを通り越して分子レベルでの制御が可能となっている。京都大学の中條教授(高分子学会長)は原子ブロックハイブリッド高分子の分子設計と製造法を開発した。また同じく京都大学の植村准教授は多孔性金属錯体(MOF)内に高分子の素であるモノマーを孔に閉じ込めて重合させることで、従来のポリマーアロイでは得られない異種組み合わせからなる新規高分子アロイを開発した。ハイブリッド高分子は工業用途のみならず創薬・医療向けに発展が期待できる。次世代歯科材料の有力候補になると予想できる。MOF利用ポリマーアロイは光学用途・人工DNA・蛋白質など新分野開拓するのではと小生は予想する。何れも俗説を見事に払拭して高分子の新時代を開いて頂いたと高分子に長年携わってきた小生は感謝している。

植村准教授(京大テック発表資料からMOFとは)

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