2025年 9月 の投稿一覧

糖新生と運動能力

糖新生と聞いて「空腹時に筋肉からブドウ糖を緊急取り出すもの」と流布されている説を信じていた。高血糖も怖いが低血糖も怖い。筋肉からブドウ糖の供給は低血糖対応だと思っていた。今回の以下の文献を見ると半分当たっているが、半分は間違いであることがわかった。それどころか肝臓が脂肪からグリセロールをブドウ糖に、筋肉内の乳酸からブドウ糖に新生するメカニズムと運動能力が明確に記載された文献に接して、ぜひ読者の方々と情報を共有したいと考えた。

肝臓の糖新生が運動能を決める!‐新たな運動持久力向上法、肥満・サルコペニア対処法へ‐東北大学 2025.09.19

  発表のポイントを転載すると

  • 肝臓でブドウ糖を産生する糖新生では、運動の強さごとに、ブドウ糖を作る材料を使い分けることで、運動中のエネルギー供給が維持されていることをマウスを用いた実験で明らかにしました。
  • 肝臓の酸化還元反応を促進させ糖新生の効率を上げると、運動の強さに関わらず持久力が上昇することが分かりました。
  • この仕組みは、運動能の向上法や肥満を改善し、サルコペニア(注 4)を予防する手法につながることが期待されます。

 

図 1. お腹が空いた時や運動中などに備えて、ブドウ糖を作り出すことで低血糖を防ぎ全身にエネルギーを届ける仕組みは糖新生と呼ばれ、主に肝臓で行われる。特に運動中は大量のブドウ糖を使うため、糖新生の働きが非常に高まる。

 

 

図 2. 運動の強さに合わせて、グリセロールや乳酸からの糖新生の流れを促進させることは、運動能向上や肥満やサルコペニアの予防・治療につながる。

 

 

 

ここで、乳酸や脂肪のグリセロールから肝臓でブドウ糖ができる反応が論文では詳細記述されている。 乳酸やグリセロールからブドウ糖への反応には興味があるので次の式で表現した。図3(間違いあればご容赦ください)

普通の化学プラントではこの反応は容易ではないが、肝臓は精密反応をしていることに驚く。乳酸やグリセロールの分子構造からブドウ糖の構造に身体からの信号を受けて生産するとは驚く。

と同時に、肝臓・腎臓は大事にしないといけないと思わざるをえない。また、ウオーキングにおいてダラダラ距離を歩くのではなく、インターバル走法が良いと言われるのも、今回の説明で理解をした。

自分の筋肉量を知りたくないですか?

筋肉ムキムキ・マッチョであるほどトレーニングやプロティンを獲る努力の結果、どれだけ筋肉量が増加したか知りたいだろう。いや高齢者は反対にフレイル・サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)、いずれ歩行困難・寝たきり介護状態にはなりたくない。そのような状態に至る前の予防には筋肉量・筋力・身体能力が必要だとは聞いている。筋力や身体能力は測定可能だが、筋肉量の測定はCTスキャンだろうと思っていた。

体脂肪率、BMI、シックスパック状態が目安にはなっていても、本当の筋肉量の指標ではない。シニアは筋肉量を知ったところで、何をトレーニングすれば筋肉量が回復するのか知りたいところ。

科学技術振興機構が9月4日に開催の新技術説明会において福井大学・学術研究院医学系部門の大西講師が発表された内容が当方には新鮮に映った。筋肉量を簡易に推測できるのである。また何をトレーニングすれば良いのかのヒントは東北大学が「武士の所作の中に脚力を強化できると」発表。これも非常に面白いので、2つを合わせて紹介する。

その前に、大西講師の資料からフレイル・サルコペニア症状の筋力・身体能力について記載があったので、まずはこれをチェックする。筋力を握力で判定。男28kg以下、女性18kg以下。身体能力は歩行速度1m/秒以下、腕組みして5回椅子立ち上がりテスト: 12秒以上を指す。 シニアの方、この段階で如何ですか?

ご存知だと思いますが、横断歩道の信号は歩行者が1m/秒で渡り切れるとしてセットしてあるので、1m/秒以下では横断仕切れない状態。よく街で見かけますね。筆者も腕組み椅子立ち上がりは椅子の高さが低いと自信がない。

さて筋肉量の簡易評価法について特許出願されている(特願2025-040043)現時点では未公開だが、発表資料では実際の開発された推定式の被験者実績との相関精度は0,944と非常に高い。 その式を抜粋する。

< 特願2025-040043 体組成推定プログラム及び情報処理装置 >

  • 除脂肪体量=α1 ×年齢+β1 ×体重+γ1 ×身長2 +δ1 ×性別+ε1

数式中係数: α1=-0.036、β1=0.261、γ1=10.361、δ1=5.845、ε1=-1.135 性別:男性=1、女性=0

  • 筋肉量=α2 ×年齢+β2 ×体重+γ2 ×身長2 +δ2 ×性別+ε2 数式中係数: α2=-0.033、β2=0.245、γ2=9.600、δ2=5.708、ε2=-1.548 性別: 男性=1、女性=0

< 特願2025-051139 体組成推定プログラム及び情報処理装置 >

  • 四肢骨格筋量=α1 ×年齢+β1 ×体重+γ1 ×身長2 +δ1 ×性別+ε1

数式中係数:α1=-0.037、β1=0.132、γ1=6.308、δ1=1.785、ε1=-3.782 性別:男性=1、女性=0

エクセルに年齢、体重、性別をインプットし算出することをお勧めします。

次に東北大発表の「武士の日々の所作で脚力が強化する 1日わずか5分で高齢期の筋力低下を防ぐ効果に期待」2025.09.01 の要旨を紹介する。

武士の礼法を基にした「反動をつけずにゆっくりとしゃがんで立つ動作」を 3 か月間続けることで、1 日わずか 5 分でも脚の筋力が大きく向上することを明らかにしました。 お茶の作法でも同様だと聞いたことがある。昔から日毎の所作の中で脚力がつくよう工夫されていることに改めて驚いた。今や欧米化で椅子生活になった。今回の文献が見直しの機会になれば良いと思うが如何でしょうか。

礼法トレーニングの動作 (a)礼法のしゃがむ・立ち上がり動作、(c)礼法の椅子への着座・立ち上がり動作

一般的な動作の例 (b)一般的なスクワットトレーニング動作の例、(d)一般的な椅子への着座・立ち上がり動作の例

 

 

 

 

 

 

 

PM2.5関連2つの文献から

PM2.5に関する文献を見たので紹介する。

1つは「PM2.5が日本の労働供給量を低下させていることを統計・観測データから実証 ~大気汚染削減が経済的便益をもたらす可能性~ 2025.07.28 広島大学、東京大学」

要旨は次のとおり

  • 微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染が、日本において労働供給量や出勤日数を低下させていることを統計データ分析することにより実証。
  • 仮に月間平均PM2.5濃度が1μg(マイクログラム)/m3上昇すれば、月間労働時間が一人当たり0.5時間減少(研究対象期間の日本の平均は13.5μg/m3)、これは全国年間あたりで7,600億円の損失に相当。
  • 先進国における比較的低水準の大気汚染であっても顕著な経済的損失が発生しており、さらなる大気汚染削減によって顕著な経済的便益が発生しうることを示唆。

なるほど経済面からのアプローチは斬新に映った。

だが、具体的な健康被害の内容を知りたくなった。一般的には長期、短期による曝露により疾病は変わるようだ。

・長期曝露による影響: 死亡率、特に呼吸器系や循環器系の疾患による死亡率が増加

・短期曝露による影響: PM2.5濃度の急激な上昇が、喘息の発作、心臓発作、脳卒中のリスクを高めることも確認されている。

労働者及びこれらの疾病をもつ介護は労働時間を短縮せざるを得ない。それが労働供給量として評価される時、PM2.5濃度と統計的実証されたとのこと。

  • WHOの2021年のガイドライン: 年平均5µg/m³、24時間平均15µg/m³。 閾値はなく低ければ低いほど良いとのこと。
  • 各国のPM2.5実績。カナダ: 約6 日本: 約9 アメリカ: 約7 イギリス: 約9 フランス: 約10 ドイツ: 約10 イタリア: 約14 G7でもWHOガイドラインを超えている。BRICS諸国は、中国: 約38(近年大幅に改善) インド: 約50 ロシア: 約9 南アフリカ: 約20 ブラジル: 約11である。
  • 最近便利な衛星観測では次の通り。

これらの数値は平均であり、工業地域、都市部、農村などにより異なり、かつ都市部匂いても自動車走行量の多い道路に面した居住では高いだろうと推察できる。因みに自室を測定したところ1〜2μg/m3  でAQI(大気質指数)では良好なので安心していた。

ところが、PM2.5の数値だけでは健康被害は整理されないとの文献が出た。この文献は最初の文献を見た時から具体的に何が作用しているのか知りたかった内容でもある。

PM2.5の構成成分であるブラックカーボンが 急性心筋梗塞のリスクを高める可能性 ~全国7都道府県・4万件超を対象とした疫学研究の成果~ 2025.09.05 東邦大学、国立環境研究所、熊本大学

PM2.5を構成するブラックカーボン、水溶性有機化合物、硫酸イオン、硝酸イオンの濃度を 7 都道府県(北海道、新潟、東京、愛知、大阪、兵庫、福岡)を対象とし、2017 年 4 月から 2019年 12 月までに急性心筋梗塞と診断された 44,232 例 を解析。(構成成分ごとの平均濃度と全体に占める割合は、ブラックカーボン 0.2μg/m³(3.1%)、水溶性有機化合物 0.7μg/m³(6.6%)、硝酸イオン 1.0μg/m³(8.9%)、硫酸イオン2.9μg/m³(23.7%)

  その結果

総 PM2.5 濃度の上昇に伴い急性心筋梗塞による入院件数が有意に増加することを明らかにしました。さらに、PM2.5 の主要構成成分の一つであるブラックカーボン(黒色炭素)(※1)についても同様の関連が認められ、心筋梗塞発症の新たな環境リスク因子となる可能性を初めて示しました。

(図 1:総 PM2.5 および構成成分の IQR 濃度上昇と急性心筋梗塞リスクの関連)

 

 

(図 2:ブラックカーボン濃度の IQR 上昇と急性心筋梗塞リスクの関連)

 

 

 

 

 

著者らは

「ブラックカーボンが心筋梗塞に関与する可能性のある仕組みとして、肺での炎症や酸化ストレスの誘発、血液中への微粒子移行の促進、腸内細菌叢(さいきんそう:細菌の集合体)の乱れ、自律神経や副腎機能の不均衡など、複数の経路が推測されています。」 と述べている。

この図は非常に示唆に富んでいると思う。

 高齢より若い人の方が。 性別では男子が、体格指数は低い方が、糖尿病を併発しているほど、脂質異常性(中性脂肪や悪玉コレステロール)がない方が(??)、喫煙歴がある方が、ブラックカーボンの増加率に対して心筋梗塞リスクが高くなる。

最初の文献において世界のPM2.5の数値と二番目の文献 心筋梗塞リスクを対比することにより、日本より過酷な環境で多くの人の労働力供給量も減少の負のスパイラルにあることを想像することができる。もちろん心筋梗塞以外の疾病も含まれるであろうことは推察できる。課題はわかった。化学技術者の出番だ。期待している。

植物性タンパク質 増加技術

1日に摂るべきタンパク質は体重の1.2倍。日本人は平均10%不足しているのが現状。シニアになるほど肉を摂るべきとは言うが簡単なことではない。年金生活では限度がある一方で畜産国においても地球温暖化影響で飼育を止めるところも出てきた。

タンパク摂取において需要供給両面で黄色信号が続く中、ノーベル賞相当の研究発表があった。

牛の飼料として利用されているトウモロコシ。 1年間飼育した場合のタンパク質はトータル餌のトウモロコシ1kg換算で5g。 それに対してトウモロコシを麹菌で発酵させると124g。発酵時間処理は4日と非常に驚くべき報告があった。お米も同様とあって、昨今の飼料米(古古古米)問題も貴重なタンパク源となるのではないか。

文献を紹介しよう。「日本の伝統食品”麹”を応用したタンパク質増産技術の開発 – 穀物を発酵させることで簡便にタンパク質を倍増 – 」2025.08.01 農業・食品産業技術総合研究機構

超要旨を引用する米およびトウモロコシにアンモニアや尿素等の安価な窒素化合物、その他の無機塩類、麹菌の胞子を混合して30°Cで静置し、4日後に培養物に含まれるタンパク質の量を評価しました。その結果、発酵前の米およびトウモロコシに比べ、タンパク質の量がそれぞれ2.3倍、1.6倍に増加しました。また、米やトウモロコシのタンパク質は、構成するアミノ酸のうち、必須アミノ酸であるリジンの比率が低いことが知られていますが、麹菌の発酵によってリジンの比率が高まり、タンパク質の質が向上することも明らかになりました。」

メカニズム及び効果は下図の通り

 

 

スケールアップが待ち遠しい。 日本のみならず、米国、中南米などの穀倉・牧畜産業に寄与することで人口ネックの地球を救う役目を麹菌が働く実の有益なことではなかろうか。

ところで、麹菌は日本酒(ついでお酢作り)、漬物などに古くから利用されている。筆者は毎朝の味噌汁には酒粕を配合。これにワカメや豆腐その他を入れている。酒粕に含まれるタンパク質の量は100gあたり15g前後とタンパク源サポート役としては十分に活用している。炊飯の白米の6倍に相当で良質な植物性タンパク質である。酒粕にはレジスタントプロティンという体内で消化されにくいタンパク質も含まれており、腸内を通過する際に余分なコレステロールを吸着する作用があると知られている。 この生活を少なくとも5年は継続している。久々にお会いする人からはお腹の出っ張りがやや小さくなったと言われることもある。“やや”にはお世辞のニュアンスも窺われるが、当の本人は気に入っている。酒粕には美肌効果があるようだが、そもそも荒れ果てた元が悪いので効果は不明(笑)。