なにげにTVを点けたら葛飾立石商店街の再開発を採り上げていた。老朽化建物が狭い地域にひしめいているが人情味あふれる味のある風情。ただ風情などと部外者だから言えるが、住民の再開発を望む割合が高いとか。災害が発生したら財産を失うことを意識されていると推測される。東京には三軒茶屋などが、横浜には野毛地区など戦後名残りの地区があり同様な事情がある。
地域はそれなりに危険性を感じて予防意識があるだろうが、雑居ビルからの発災が多いのは消防署からの注意喚起があってもテナント同士の連結が薄く浸透しないからであろう。インスタ映えする店内風景を信用して知らないお店をネット予約すると危険性を見落とすことになる
大正の関東大震災では地震の後の火災が多くの人命を奪った。僅かに延焼を免れたのは神田地区だけ。最先端のご専門家(瀬尾東工大名誉教授:地震学)でも何故か分からないとのこと。インバウンドで外国旅行者は安全が確保されているホテルだけでなく、少々安全意識希薄な宿泊設備も利用する。訴訟社会からの客人では厄介なことも懸念されるだけに、地域全体で安全を確保することも考えられる。先の神田地区の謎も含め都市全体の再設計にはスパコンの長時間稼働が必要。理化研和光の「北斎」、神戸の「京」に続くインフラが必要ではなかろうか
火災で怖いのは燃焼ガス。一酸化炭素、塩化水素、シアン化合物など。パソコン、モバイルなど家電や自動車、車両、建築材、カーテン類内装材などは難燃基準に従って難燃処方がなされている。木造の家は燃えやすいというのは昔の話であり、今は製材後に巨大なオートクレーブに入れてホウ素化合物を高圧注入することで難燃性が確保されている。トーチで燃焼試験しても表面が炭化するだけで着火しない。この場合はホウ素が熱により相互ネットワークを形成するメカニズムである
プラスチックスで難燃剤を配合しなくても難燃である材料は塩ビ、PPS(ポリフェニレンサルファイド)や芳香族ポリイミド、フェノール樹脂などである。分子内にハロゲン元素か芳香族環(ベンゼン環)濃度の高いプラスチックスは基本的に難燃性がある。他のプラスチックスは必要により難燃剤を処方するが、難燃機構は幾つかある。
① 炎でプラスチックスの温度が高くなると難燃剤が分解して表面に不燃ガスで被覆するメカニズム。ハロゲン(塩素、臭素など)系難燃剤であり、ポリスチレン、ABS樹脂、PBTなどの家電及び部品など広範囲商品に適用されている。
② 炎で加熱されると難燃剤が分解して表面を被覆する機構は同じだがアンモニアを主成分とするガスでインツメッセント難燃剤と呼称されている。ポリプロピレン、ポリエチレンに採用されている。
③ 炎で加熱されると分子内にOHを多く含む無機化合物(アルミ、マグネシウムなど)から分解して結晶水を分離。これが冷却に働くことで燃焼を抑える。ポリエチレンの電線ケーブルは世田谷の火災事故から学習して、この無機化合物をケーブルに相当量配合してある。
① ~③まではプラスチックスが熱分解して発火温度に達する前に難燃剤がタイミング良く分離することがポイントで、ずれては効果がない。ここが技術者の腕のみせどころ
④ これらとは別のメカニズムがある。燐を分子内に有するフォスフェート化合物である。これは加熱されるとプラスチックスから水素原子を引き抜き、引き抜かれた同士が結合することで、炭化ネットワーク(チャー)を形成し表面を被覆し、内部からの可燃性ガスをストップする。モバイル、パソコン、TV、プリンターなど家電の筐体や内部のシャーシー類に多く採用されている。少量で効果がありプラスチックスの物性への影響が小さいことも歓迎されている。プラスチックスの種類ではポリカーボネート、ポリカーボネート/ABSアロイ、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル類などである。ここで言うポリエステルはカツラ向けの人工毛である。(繊維のポリエステルは精練後に難燃剤を表面に塗布している
プラスチックスの工業用途の多くはガラス繊維、無機フィラーとの複合材料である。強度、寸法精度、耐熱、耐荷重長期変形防止などメリットが多い。だが一方、可燃性ガスがガラス繊維とプラスチックスの界面を伝って表面に出てくると燃焼し易くなる短所もある。所謂「ローソク効果」と称する。 当ブログ者の研究によると高含量ガラス繊維複合材料の難燃化に成功している。今後注目される技術であろう
難燃の評価も試験片の厚み、接炎時間、接炎回数、燃焼時間、燃え垂れの有無、発煙状態など製品別に詳細決められ実力に見合ったランク別にグレードを認可する仕組みで国際基準となっている。家電製品や航空機などは別の地域別の規格もあり、材料別、製品別にそれぞれの認定機関での承認を必要とする。また立ち入り検査もあるので品質管理は極めて重要。製造と管理を別組織にして相互監視をしている。電気自動車など新用途が出現すると、適性材料、適性難燃剤の競争が繰り広げられる。また原料の臭素など資源国政治事情も反映するだけに気が抜けない。
無事であれば注目されない地味な研究ではある。難燃剤の選択、難燃剤と樹脂のコンパウンド、その分散、燃え垂れ防止剤、難燃評価サンプル成形、難燃評価、燃え残渣の形態・化学分析。。。気が遠くなる仕事。添加剤メーカー、材料メーカー、電線メーカーなどには入社以来難燃一筋の研究者が多く存在している。
難燃のプロでも手に負えないのは「♪あなたへの燃える火を断ち切れない、消せはしない」(大塚搏堂:めぐり逢い紡いで)