東京モーターショウが開幕したので早速見学。往年の大混雑と様変わりでゆっくり見ることができた。中高年と小中学生の団体が多く、中間層のクルマ離れ対策として小中学生にクルマへの関心を持たせる意図も工業会にはあるのだろう。展示はEV(電気自動車)に注目が集まるだろうとの予想は良い意味で裏切られた。EV化は折り込み済みで関心はEV代替パワートレインとコネクト技術であった。
EV化が現実的な当面のパワートレインであることは間違いがない。
理由の一つは米国カリフォリニア州のZEV規制(ゼロエミッションヴィークル:排気ガスゼロ)合格車の割合が決められており、合格しない場合にはクレジットを先行メーカーから購入する必要がある。ハイブリッドは対象外扱いになったのでトヨタは巨額のクレジットをテスラモーターから購入したとの情報があり、一方、三菱、日産は購入必要性が少ないとのこと。両社はEV車を製造しているからである。
理由の2つ目はフランス、英国、中国もエンジン車廃止の政策を打ち出していることも影響は大きい。
しかしながら、自動車に関して目の肥えた日本ユーザーはクルマのパワートレインがエンジン廃止→即EVになると単純には考えていない。技術立国だけに種々の選択肢があり究極のパワートレインはEVではなさそうだと見ているからである。
今回の展示で最も注目されていたのがマツダのHCCIエンジンである。黒山の人だかり。
通常のガソリンエンジンが点火プラグでガソリンを着火爆発させてピストンを押すのに対してディーゼルエンジンは軽油を高圧圧縮して軽油の着火温度に達した時に爆発してピストンを押し下げる。この両方のプロセスしかないとの常識に対して、ガソリンを燃料としてディーゼルエンジンのように高圧圧縮点火させる離れ業をやってのけた。従来のガソリンの半分の濃度で駆動する。
一般に発電所で燃料を燃焼させ電気を取り出す効率は55%である。それに対して通常のエンジンでは30~40%。トヨタのル・マンレーシング用ハイブリッドエンジンでは50%まで改良されマツダの今回エンジンは恐らく発電所並の効率で走行することになろう。送電ロスが約6%なので、EVよりはマツダ新エンジン、トヨタハイブリッド用エンジンがトータルでは適していることになる。
一方、トヨタとメルセデスベンツは究極のエコカーはFCV(水素燃料電池車)であると考えている。両社はコンセプトカーを展示している。EVは発電所で発電して蓄電池に電気を溜めるのでEV増加につれて発電所増設が必要であるが、FCVはミニ発電所を装備しているようなものなので社会インフラ負担は少ない。FCVも蓄電池は必要であるが、トヨタでは全固体電池の開発をしている。水分や空気に触れると爆発燃焼するジエチルカーボネート電解液利用のリチウム電池を代替する計画はリチウム電池廃棄処理を考えると固体電池が好ましい。その一方でリチウムに代わるマグネシウム利用二次電池の基礎研究も進んでいる(東京理化大)
今回の展示から話題はそれるが水素の原料問題に触れてみよう。
以前はメタノール、LPGからクルマ搭載の分解装置で水素をとる考えがあったが、現在はオーストラリアの褐炭中にある水素を-283℃で液化して輸送する方法を川崎重工がプロジェクトを推進しており、岩谷は化学コンビナートでの副生成ガス利用プロジェクトを推進している。アンモニアからプラズマ処理で水素と窒素に分解する手法を中小企業が開発しているなど頼もしい。最近、水に光を照射して水素を得る研究が大阪大学から発表された。真嶋教授グループが黒リン、金ナノ粒子、チタン酸ランタンの3つの材料からなる可視光・近赤外光応答型光触媒を開発、水から水素の高効率生成に成功するなど水素社会に向けて着々と前進していることは期待をもって注目される。
パワードライブEVで決まりか? その答えはガソリン、水素は侮れない。