ガソリンスタンドで久々の遠出のため満タンお願いしたところ、途中でスタンド店員が怪訝そうな顔で「このクルマ大丈夫ですか?漏れていませんか?」と聞いてくる。メーターは60リッターを超えている。そう言えば何十年前のドッキリTVで軽自動車のタンクを大型に改造してスタンド店員を驚かす番組があったことを瞬間思い出した。
最近のクルマはエンジンのダウンサイジングに伴う燃費向上やハイブリッド車の浸透もありCクラス車ではタンク容量は45リッター前後になっている。それでも普通はガソリン継ぎ足しなので、60リッター給油はこの店員からみると異常に映ったのであろう。
40年前まではタンクは金属製で給油の度にタンク内防錆剤はいかがですか?と迫られていたものである。今は樹脂製であるがその理由はもちろん防錆剤不要が原因ではない。クルマ内でのタンクの設置場所が金属製に比べて自由度があり、居住空間やラゲッジルームが広く取られるデザインメリットが大きい。その上、安全性も高いと書くと金属に比べて樹脂が安全??とそれこそ納得しない人がいてもおかしくはない。40数年前はその{常識}と格闘していたのだ。樹脂製にすると複雑な形状にできるので、座席、ラゲッジ内のスペアタイヤなどの隙間の空間に設置することもできる。ランドクルーザーではフロアに乗せるのではなく、路上からの石跳ねにも耐える強度があるので、フロアの一部としてタンク露出の設計をすることがある。
当初は樹脂製のタンクといえば灯油缶みたいなモノをクルマに搭載するのか?と言われたが、フォードが樹脂製タンクの開発を始めると情勢は徐々に変化して、金属製と樹脂製を冷静に比較し始めた。金属はガソリン透過性が小さいが樹脂は透過し易い、衝撃強度は樹脂製が高いことを樹脂専門家は理解していても、金属の「なんとなく安心感」を消費者がもっているだけに容易には受け入れられない。
そこで樹脂製タンクにするには第一にガソリン透過性を改善すること。第二にタンクとしての衝撃が高いことを証明することであった。米国では高密度ポリエチレン中空成形のタンク内面をフッ素処理やSO3など化学処理する実証試験が進んでいたが、日本勢は燃料透過性が低い材料をサンドイッチすることに注力した。当初はナイロンを検討し、現在はEVOH(エチレンビニルアルコール)に切り替えポリエチレンとの溶着性改良のための接着性材料をも開発し、合計3種5層~7層構造のタンクにした。現在はこれがグローバルスタンダードになっている。次に衝撃強度に対するタンクメーカーや消費者への安心感対策である。ガソリンの代わりにエチレングリコールを満タンにして極寒地の衝突を想定してー30℃に冷却して3階建物の屋上から鉄板を敷いた地表に落下したところ、破壊せず2階付近まで戻ってきたことで充分な強度があることで受け入れられた。昨日のことのように思い出す。そのガソリンタンク。今度はEV化の動向の中でまな板の鯉状態にある。トータルで見たLCA(素原料発掘―精練・精製―輸送―成形―組立ー使用時各工程での発生する炭酸ガストータルの環境負荷アセスメント)ではガソリン利用車は行き残る可能性が高いと考える。小型化かもしくは食品包装のようなフィルム状になってクルマのピラー(柱)内蔵になるかもしれないが商品発想は継承されるであろう。
尚、医療材料・製品についても機能別の多層化があるかもしれないとの期待を持っている。
写真は日本ポリエチレン資料ガソリンタンク(ポリアセタール製燃料ポンプ内蔵)