百薬の長 主役交代と細胞機作に学ぶ

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先の日経記事に「酒は百薬の長 今は昔」とあった。 最近多くの文献によりアルコールは身体に好ましくないとのことを当ブログでも書いた。しかしながら、コロナ明けでプライベートでもビジネスでもアルコールを通じての交流がこれからと言う時になんたる気遣いのない記事であること。

知人から記事の紹介があったので、次のように返事をしたところ なるほどとリプライがあったので紹介する。あくまでも無責任なことにご留意下さい。

*昔は寿命が短く成人病が発症する前に亡くなるので酒が原因とはわからなかった

*毎日のように繰り広げられる戦でのストレス解消には酒は良薬だったのだろう。

*昔の酒(清酒)は濾過しない白濁状態で発酵残渣(今でいう酒粕)を含有しており、それが健康維持に作用したのではないか・・・と。

前の2つは当方のこじつけに過ぎないが、最後の酒粕については可能性ありと思っており実感もしている。そこで最近 注目した文献を紹介する。

最初に紹介するのは、清酒の需要が減少していることから、副産物である酒粕に着目して「清酒製造副産物を用いた新たな食品素材の開発」 食品と包装 2023 vol 64 N04 新潟県醸造試験場専門委員 佐藤博士の投稿。

超要約すると酒粕を①乳酸菌 ②酢酸菌により追加発酵させると①では乳酸菌が290倍に、②ではフェル酸など複数の酸が109倍増加することを確認した。地元食品加工業と新商品の開発を進めている。日本全体で副産物酒粕は5000トン。酒粕漬け魚の切り身などは美味しいが、量的にはカバーし切れないのだろう。スーパーで酒粕は豆腐や漬物コーナーの目立たない片隅に2〜3グレードが陳列してあるだけに、新食品素材が応用されて、今のヨーグルト売り場に伍して陳列することを期待している。

期待する理由は当方2年前から朝食に酒粕を味噌汁にブレンドして摂っているが、概ね1:1の比率で混合、塩分控えめもあり何より美味しい。これが原因かどうかは別の食品の効果と分離できないのでわからないが、凸形状の腹周りが変形しベルトの穴の位置が変った。

素人の感想はさておき、アカデミックなアプローチを調べた。酒粕が腎臓病進行抑制するのではないかの検証が金沢大学で実施されている。慢性腎臓病患者に対する酒粕を用いた食事療法による血中の尿毒症物質の減少効果を明らかとするためのプロトコール作成研究 (日本の研究.com) 慢性腎臓病患者に対する酒粕を用いた食事療法による血中の尿毒症物質の減少効果を明らかとする臨床研究: パイロットランダム化比較試験(日本の研究.com)の連続したテーマで研究が進められている。結果が待ち遠しい。(プロトコールとは治験実施計画の意)

一方、千葉大学では腎臓病進行を抑制する方法が発見され、新薬への手がかりをつかんだ模様。ここで酒粕ワードは出てこないが、金沢大学との結果と結びついたら面白いことになりそう。食品素材から医薬品レベルも価値がアップするから(無責任極まるが)期待する。千葉大学文献タイトルは

腎臓病進行を抑制する方法を発見 糸球体に現れるデンドリンの核移行抑制が腎臓病進行を遅らせる (日本の研究.com 掲載2023.05.09)

超要旨は

「腎臓の糸球体足細胞(ポドサイト)に発現するデンドリンという蛋白質の細胞核への移動を抑制することが、慢性腎臓病の進行を遅らせることを発見し、慢性腎臓病の進行を抑制する治療薬の開発につながることが期待」とある。機作を素人が説明するには困難なので、本文引用する 下線部

腎臓は血液を濾過して体内で産生された老廃物を捨てる臓器。腎臓の中で、糸球体という毛細血管の塊で血液を濾過して尿を作る。その毛細血管を外側から支えている糸球体足細胞は血清蛋白が尿中に漏れ出ないための最終バリアとして機能する細胞。つまり、糸球体足細胞が傷害を受けると蛋白尿となる。以前の研究で、デンドリンという蛋白質が糸球体足細胞にのみ発現していることを発見しており、今回はデンドリンを核内に配達するインポーチンの制御」を確認した。(インポーチンとは特定のアミノ酸配列を持つ蛋白質と結合し、細胞の核へその蛋白を運ぶ役割を担っている)。

インポーチンの核への移動を阻害する物質(イベルメクチン)は、デンドリンの核への移動も抑制することが分かりました。(図)

ここでインポーチンと聞き慣れないワードがあったので、PDBj で調べた。それによると細胞内において、タンパク質合成の過程は2つの区画に分かれて行われている。前半はDNAがRNAに転写される部分で、この仕事は核で行われる。後半はRNAが翻訳されてタンパク質が構築される部分で、この仕事は核の外、細胞質にあるリボソームで行われる。次にインポーチンは何千種類ものタンパク質を核内に輸送し、ゲノムの貯蔵、読み取り、修復などの様々な仕事を行っている。しかし、分子種ごとに特有のインポーチンを設計するのは手間がかかりすぎる。そこで、多くの核タンパク質はそれが分かるように特有の札(タグ)をつけている。これは核局在化信号(nuclear localization signal)と呼ばれる短い配列で、輸送機械にそのタンパク質を核内へ輸送するよう伝える。インポーチンはこの信号を認識してそのタンパク質に結合し、核孔を通って核内へと輸送するとある。

面白い。なんだかSLA(光液曹重合3Dプリンター)の操作と似ているなぁとの印象を持った。形状スキャン、CAD内設計、タグ付き重合液体ボトルのプリンターへのエクスポート。3Dプリンターの将来はこのような生物細胞の機作・仕組みを学習してさらに進歩するかも知れない。将来の結論は百薬の長どころではなく、それに着目させた効果は億万倍の長になるだろう。

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