雲水マイクロプラスチック存在

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早稲田大学が8月23日にプレスリリースした記事。目に飛び込んできたのは「雲水の野外観測で初めてマイクロプラスチックの存在を実証」のタイトル。エッ!雲水? お寺から托鉢を持って檀家や山岳修行に出かける野外活動をする雲水だけに、最近では環境観測まですることになったのか? 因があるから果がある環境お経を唱えながら? これに雲水が協力しなければ・・・。と冗談半分早合点。

マイクロプラスチックが大気中に存在するのは想像できるにしても、発生させる地域での経済・教育レベル・国民性・廃棄物処理インフラ不足が「因」なのでそれに言及した論文なのか? それともプラスチックがマイクロにならないような機能付与を提案しているのか? タイトルからではわからないが印象だった。

結論は富士山などでサンプリングしマイクロサイズのプラスチックスをFTIR(フーリエ変換赤外線分光分析)で材質を分析した論文。フィールドワーク論文としては価値があることを認めた上で、上記の問いに対する答えがないのは少々物足りなさを感じた。大学の仕事ではないと反論はされるだろうが。

それはともかく、当方の驚き1番目「雲水」は皆さんもご同意されるだろう。国語辞典でチェックしたが一般常識の雲水以外のワードはない。文献にするには用語解説をつけて定義すべき。それがない。特定範囲の人は分かるのだろうが。

本文を読み始めると雲水とは雲や雲の中の水分を指すことはわかる。大気中と言い換えた方がわかりやすいが、著者の意図とは乖離しているので、雲水と記載したのであろう。

富士山、丹沢の高地から山麓までの雲水からサンプリングしたマイクロプラスチックはポリエステル、ナイロン、ウレタン、ポリカーボネート、アクリルで親水性の官能基を分子内に有しているのに対してポリエチレンやポリプロピレンは炭素―水素からなる高分子であって元々は親水性ではない。がそれらも紫外線が長時間(+熱)があたれば、ポリエチレンでは僅かに存在する二重結合の部分がカルボニル官能化されることや、ポリプロピレンでは3級炭素が脱離して同様に官能化親水性を帯びる。そこで雲の中で運ばれて、いずれ大気中に漂うことになるとのシナリオだろう。ありうる。否定はしない。雨乞いにヨウ化銀粒子を航空機で散布することがある。水滴になる手前の水分に核剤として作用することで雨水となるメカニズムと類似して雲の中に浮遊するマイクロプラスチックも同様な作用をすると思われる。

文献に書かれてはいないが、繊維屑はポリエステル(PET)が発生源だろう。ナイロンは漁網か釣り糸など、ウレタンは冷蔵庫などの熱材・建築材料・自動車など解体から。ウレタンのリサイクルは厄介だ。初期のモノマーから変更する必要があるので浸透していない。福井大学橋本教授が提案されて25年。時間がかかるようだ。ポリカーボネートは単独で利用されることがあるが、近年最も多いのはABS樹脂とのアロイとして電気電子製品特に筐体として量が伸びている。衝撃に強く、かつ寸法精度に優れる材料。ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂)でBは二重結合を含むので紫外線劣化の起点になる。材料価格は高くなるがBをE(αオレフィンエラストマー)にすることで劣化抑制は可能。

ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)のマイクロプラスチック発生する製品は包装材料だろう。ポリオレフィンは自動車の内外装(バンバー、インパネ)などに利用されているが、耐候性改良添加剤か、紫外線をカットするカーボンなどが配合されているのでマイクロになり難い。その前にバンパーなどは有価物だけにリサイクルに回収される。ラバーはタイヤの摩耗屑だとしたら、EV化によりクルマの重量増大となり摩耗量も増えることに繋がる。

耐候性改良剤が配合されていない包装材料がポイ捨てされやすのは確か。バイオ分解樹脂にするには置き換わる安価な材料がない。昨日コンビニでサンドイッチを買った。小麦粉など諸材料値上がりでサンドイッチのサイズがグッと小さくなった。だが、包装材料の量は対して減少できないことも知った。やはり解決はポイ捨てしないで焼却燃料へ循環することを促進するしかない。

サンプリングされた材料の割合図を見ての印象は マイクロプラスチックといえば海の意識が強かったが、海水より比重の軽いポリプロピレンより比重の重い材料が多いことは何を意味するか?だ。 海や河川が少ない地域=陸上での廃棄を意味していると考えることができる。フーリエ変換赤外線分光分析ではできないが、C13など同位体組成分析などを加えて、より深い解析ができそう。

もう一つの副題は「雲水中のマイクロプラスチックが想定以上に環境および健康リスクを高めていることが明らかに」とある。続けて本文中に「プラスチックの雨」が地上に降り注ぐことになります。すなわち、AMPsを空気から直接、肺に取り込むだけではなく、雨水として地上に降りそそぐことにより水源を汚染し、陸水を利用する農業や畜産業を通じて体内摂取量を増大させ、健康リスクを高める可能性があります。(下線部引用)

ここで環境及び健康被害をもたらす濃度とはなんぞや、マイクロプラスチックの形状はどうなのか、それに対して得られた健康リスクのエビデンスを知りたい。それって環境に対して重篤であるのだとしたら、せっかく今回初めて測定結果を得られたのであるならば、日本及び国際機関に訴えて対策をする必要がある。

空気中のPM2.5や粉塵質量は観測衛生から知ることができる。(例:2023/8/25データ)。

この衛星観察のようにマイクロプラスチック全体及び種別分布が見られることを期待したい。

大気中マイクロプラスチック問題が深刻であれば、誕生から墓場までマスクで過ごすのだろうか。せっかくの研究はこのようなことにならぬと警告を発するべきであろう。それが学者の使命。それで人の幸福を祈り修行に励む雲水と命名した理由なのかも知れないが。

石油化学にしろ、バイオ原料にしろ気が遠くなる時間をへて製品になる。フィルム然り、自動車然り。廃棄するときに、「ありがとう おかげさまで 便利だった」と声掛けをすれば、まかり間違ってもポイ捨てはしない。それが人としての所作だが。

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