多くの会社で5Sの標語を目にする。 整理・整頓・清掃・清潔・躾。大凡この順番である。シアワセのSを追加した会社もある。製造・物流への立ち入りは制限されていることが多い。その場合、応対者の躾を見て、残りの4Sを推測する。躾が良ければその会社に良い印象をもつ。なので5Sのマニュアルは完備していて、型から入る方式で充実を図る。これはこれで良い。型が徹底している見本はファーストフード店。でもローテーションできない立ち場の人が長時間勤務すると徐々に作り笑顔のメッキが剥がれる光景をみるときがある。型をキープするにも体力が必要だ。幼いときからの躾が身についていれば体力云々は関係なく自然にできるものだろう。幼少の頃からの躾に何かをプラスした事例を挙げる
事例① アラ古希の人が店頭販売で若い店員さんよりお客に人気があって売り上げトップの店がある。買うか買わないで迷っている人に「如何ですか?ご覧なって下さい!」のようなマニュアルの型だけでは対応しない。つかず離れず適当な距離をおき、客の心理の揺れの絶妙のタイミングで商品アドバイスをする。次の瞬間レジの流れ。巧である。若い店員さんにも当然良い影響を与えており、なんとか会得しようとしているのは気持ちが良いものだ。アラ古希の人数が100万人を越えたとのこと。なまじ会社で肩書きを背負ってきた人のプライドはマイナスに作用するので注意が必要だろう
事例② ある会社の社長になられた若い女性にお会いしたのは数年前。その時「そのおじぎの仕方はどこで習ったのか?」と思わず聞いてしまった。よい角度は60度とマニュアルには書いてある。彼女は直角のおじぎと笑顔。それだけで人を魅了するには十分だった。幼少のころから身についているからこそ自然と出来る所作であろう
事例③ 大平正芳という総理大臣がいた。あ~、う~、あ~で主語を言って一息、助動詞は再びあ~う~を必要とする。こんな調子の口調であったが、聞いていると、正直に話をしたいとのオーラが伝わってきたものだ。記者は記事を起こす時もっと驚く。話言葉がそのまま原稿になっていると驚いた逸話は多い。国税横浜中税務署長をされていた時に利用していた庶民派飲食店の経営者から税務署の人だが憎めないオーラがあったと聞いた。若いときから躾が身についておられ、それに教養がプラスされたオーラだと思う。 若い代議士に多いが頭が良いだろうと早口でため口も入れ舌鋒鋭いつもりの声高には、躾けがなっていないなぁと感ずると同時に底の浅い質疑に終始していると大丈夫か?と思う。少し躾や相手の心理を読み取る勉強をすべきかも知れない。 論理的攻め方にプラスして躾が滲みでると訴求に迫力を増すことをモリ問題で証人喚問をした葉梨議員が良い見本であろう
さて、偉そうなことを言いながら小生は整理・整頓が苦手である。 だが、劣等生でも五分の魂があるとして言い訳を少々。
ポリオレフィンの重合はスラリー法が長年採用されていたZiegler-Natta 触媒(チタン/アミン系)を溶剤に分散させてエチレンやプロピレンのガスを反応槽に供給すると、触媒中のチタンから対触媒のアミンに向かってエチレンやプロピレンが重合しながら成長する。極めて規則正しく分子が並んで重合が進むので結晶性が高くなる。その反面、重合鎖の末端に残っているチタンを除去する必要があり、触媒を除去するための洗浄後工程が必要であった。 その後、残存触媒が圧倒的に少ない(触媒活性が高く、触媒あたりの重合収率が高い)プロセスにより洗浄・後工程を省略することを狙って開発が進んでいた。ある金属塩に担持させた触媒は活性が高く洗浄工程を省略しても良いとの結論を得てスケールアップ試作で最終製品試験までこぎ着けた。 但し、製品を長期使用してみると製品がやや黄ばみを呈する問題が浮上してきた。 原因は樹脂が酸化劣化しないように酸化防止剤が極少量配合されているが、これが残存活性チタンの光増感反応により変化することが分かってきた
さあ、どうしたものか、各種の抑制作用のある添加剤を組み合わせする実験をしたが全滅状態。隣の研究室の倉庫には国内外の添加剤メーカーからの試供品や購入品が整理整頓とはほど遠い状態のギッシリ。今なら、棚卸しや5S活動で長期使用しない添加物は廃棄するが、小生と同類の人が廃棄しないで倉庫の奥にしまってあるのを見つけた。古色蒼然の瓶の蓋を空けると黄色から褐色に変色したペースト。黄変を改良するのに黄色・褐色の添加剤を加えることは基本しない。常識人であれば保存期限を10年もオーバーして変色していたら捨てる。
だが、ここで面白いことが起こった。これが黄変防止に有効と判明したのである。後は消えかけているラベルのメーカー名を尋ねて供給能力増加を依頼。ポリエチレンの製造はスラリー法から気相法に移行し脱触媒洗浄工程はない。合理的価格で製造できるとあって、あっという間に世界に広がった。その時の添加剤配合は10年ぶりに陽の目をみたこの黄変防止添加剤配合が世界標準となった。格好良く言えば廃棄整理の前に研究者の「サブでベンチにいれておくか」の勘が働いたのであろう
現在の日本の研究能力は20%低下していると言われている。短期間の成果主義も一因であろうが、研究現場、研究室、図書室などは多少整理整頓清潔感に問題があっても、昔の研究者は少ない情報や劣悪な環境の中で成果を出したのは何故だろうと考えることは意味があると思うが如何であろうか。各人が整理整頓とは言い難い糊しろ(その時には役立たないが考え続けることで醸成される拡張部分)を持っていて、相互の糊しろとリンケージすることで新技術を開発することがあった。シニア層が蓄積した財産は在庫が無くなってきている。若い研究者はネットなどで糊しろがなく、誰でも入手できる情報で対応しがちである。それでは骨太のソリューションは出ない。研究者を責めるのではなく、抜本的な制度組織を見直すべきだろう。