化粧品メーカーのポーラが美肌県グランプリ2020を発表した。それによると総合1位は石川県、2位秋田県、3位山梨県が入ったとある。部門別にもトップの県が紹介されている。それによると
石川(水分量、コラーゲン) 鳥取(皮脂毛穴レス、エイジング毛穴レス、ホルモンバランス、透明感)島根(肌ポテンシャル) 新潟県(しみレス) 青森県(キメ) 宮城(黄ぐすみレス) 広島(ニキビレス) 沖縄県(ストレス耐性) 宮崎(タフ肌) 島根(肌ポテンシャル) 北海道(皮膚バランス)
情報の真偽はここでは問わないが、石川県に縁のある知人にこの話をすると理由を詳しく教えて頂いた。申し訳ないが大幅に端折ると。①湿度が年中高い。②紫外線量が少ない。③発酵食品(かぶら寿司、大根寿司、フグの糠漬け、魚汁醤油、日本酒等々)④加賀百万石の伝統文化に培われた生活習慣も関係(お茶やお花などの稽古事)らしい。愛妻家ぶりが覗えます。サイエンス面から興味ありヒントになる。
さて、冒頭のポーラの調査について、統計処理するに十分なサンプリング数は?どうやって調べたのか?、判断指標は何をつかったのか? そこが知りたい。 人口流動の激しい都会を抱える都道府県の名前がないのは先天的な要因と後天的なものの区別がつきにくいのは確かなので除外しているのか。
化粧品の業界では定性的・感性的な表現が使われる。美肌調査にある多くは皮膚表面の形態で判断するのが多いようだが、門外漢にはサッパリ分からない項目もある。講演会で質問があったのは「もっさり感」をどのように評価したらいいですか?というもの。業界内では通じる言語が沢山あるようだ。今まで科学的アプローチをしてこなかった訳ではないだろう。多分に競争相手に手の内を開示しないことが絶対だとの会社方針もあるだろう。
日本の化粧品はインバウンド商品として競争力がある。知財が重要視される今後に「もっさり感」では特許要件(新規、進歩、実用)を満たさない。そこに化粧品を科学の目を通して理解することを助ける支援組織が作られた。東京都産業技術センターにSUSCAREを発足させたのだ。(ゆりかもめテレコムセンター駅前)。4月オープン予定がコロナ渦で11月11、12日に開設記念講演と設備見学会があったので参加した。 三密対策もあり応募者数が限定されていたが、ラッキーなことに参加が許可された。大手化粧品メーカーには装置など整備済みであろうが、SUSCAREの設備をざっと紹介すると、培養、分光分析、レオロジー(粘弾性)測定、エマルジョン分析、粒子分布、小角X線回折による結晶や層の配向などが観察できる。研究員も充実している。
数値化することでAIデーター蓄積が可能である。中小企業が新規材料をベースに化粧品業界に進出するには便利な設備である。東京都は中小企業には利用料金が(装置にもよるが)半額であることも嬉しい。幾つか事例紹介をする。
*水分 皮膚の含水率深度分布 (in vivo 共焦点ラマン分光 レーザー波長671nm)により測定。皮膚深層の水分測定で角質の層厚み結果を報告。この事例では15~18ミクロンと評価できる。
これを共焦点レーザー顕微鏡1.5ミクロンの層毎に角質層にあるメラミン濃度を測定して、この結果、角質層厚みは18.4ミクロンと判明した。
この共焦点レーザーラマン分光や形態観察は化粧品の組成物が皮膚のどこまで浸透しているのかを調べることも実施している。
*化粧品の塗りごこち
冒頭の「もっさり感」に通ずるのか、乳液の塗り心地を評価する方法として動的粘弾性測定装置を使って評価している。2枚の円盤状の中に乳液を夾み、一方のディスクを固定して反対のディスクをゆっくり回転させると、乳液の粘度は回転速度につれて低くなり、一方乳液のプリンプリン性とでも言うべき弾性は2枚のディスクの中で反発する力として検出できる。手の上に乳液を落としたときは動かないので剪断速度がゼロだが、乳液の(ジェル)弾性はある程度高い、それを手で延ばしていく速度で乳液のは粘度は低下して、弾性も変化する。ある乳液の事例(図が示されている)。塗り心地の外に化粧品の流れやすさなども同測定装置で評価できる。
筆者はコロナ対策のアルコール消毒に手が荒れたので皮膚科を受診。保湿クリームと軟膏を処方してもらった。ところが、薬剤師から、クリームを先に塗り、後で軟膏をと言われた。クリームは保湿の為だけでなく、軟膏の粘度調整(浸透助剤)としての作用で併用しているのだと理解した。面白い。この併用の場合の粘弾性は気になる。配合比率によっては単なる加重平均ではなさそうだが?レオロジーオタクと言われそうなのでこの辺で。
SUSCAREでは30にものぼる事例を紹介している。東京都産業技術センターのHPをチェックされたい。
経験値がサイエンスの言葉に翻訳されることで新規材料開発している異業種からの化粧品へ参入もありうる。素人の発想だから許されるならば、アトピーと深い関係のあるランゲルハンス細胞層の形状や組成変化を共焦点レーザーラマン&その他の装置で観察され、免疫を阻害しない相乗化粧品が可能ならば医薬・化粧の境界が交流促進され発展するのではないかと思うが如何であろうか。