欧州がエンジン開発をやめてEVへと旗振りの原因となったディーゼルゲート(ディーゼルエンジンの燃費測定方法を誤魔化してあたかも合格するように見せかけた)。モノつくり最先端と自負し、人々も実直な性格のドイツを代表するフォルクスワーゲンが米国から嘘を曝露された。当時筆者は同社のクルマを乗っていたが即刻売却した。問題となったディーゼル車ではないが信用がおけない会社の性格が治るまで待つことにした。即刻売却までは極端だと思われる人が多いと思う。
ただ、この事件発覚の直前の出来事も原因の一つだった。日本のディーラー店を監査に来た同社監査メンバー(カナダ、ドイツ人ら数人)とたまたま居合わせた。当時の日本フォルクスワーゲンの販売網はトヨタ系列もあり、セールスや店舗運営もトヨタ式を踏襲しており信頼感はあった。監査メンバーに信頼感をもっていることを話した。
ところが、しばらくして事件が発覚。監査官が信頼でモノが売れているから裏切ることないようにと社内監査報告をしていれば最悪事態にはならなかったはず。その反作用が筆者の行動であった。
モノつくりの一方の雄である日本も威張れない。今回、東洋紡と京セラが材料・製品の難燃性を長期に亘って誤魔化していたことが発覚した。京セラは難燃に疑問をもっていた社員が社内で話題にしたことから、遡って調査した結果、その通りと認めた。
東洋紡は事業を譲渡された会社(DIC)が不正をしていたのを担当ベースでは知りながら受け入れ是正しなかった。今回、自動車の部品に多く利用されている同社のエンジニアリングプラスチックは譲渡を受けた以外に不正があると分かった。難燃資格UL(後述)は取り消された。UL対象外の用途に今販売出来る商品はない。社内はテンテコマイ状態だろう。ISO9001取り消しまで影響すると会社のダメージは大きい。
材料の難燃性については筆者も研究開発し、難燃材料を市場に展開した経験があるので、本件には外ならぬ関心がある。材料の難燃資格は民間企業同士で取り決めた方法により評価される。米国の第三者安全科学機関 であるUL(Underwriters Laboratories LLC)規格について超簡単に紹介する。
材料には不燃と難燃、その他一般に分類され、今回発覚したのは難燃材料。製品により要求される難燃レベルが異なる。評価法の一つが燃焼着火しての燃焼程度で区別している。成形品であれば試験片サンプルに10秒間着火して燃焼する時間、燃え方(ドリップの有無)を評価し、消えたら2回目の10秒着火をしてトータルの燃焼時間を評価する。HB,V2,V1、VOに分類される。VOが最も難燃性が高い。
製品の肉厚や着色別にも評価され登録されるので、難燃処方は複雑でコスト負担も大きい。UL試験に合格すると認定材としてイエローカードが与えられる。認定された配合で生産販売をしないといけない。配合変更や製造場所・ライン変更には届出が必要である。これを怠ると抜き打ち検査で発覚する。今回の案件で重症から軽微まで指摘されてはいるが、最も卑劣だと指摘されたのは検査用サンプルを事前に用意していたこと。難燃剤の配合量が生産品より高濃度なので“合格”はする。
東洋紡を擁護する気はないが、当該製品の生産量が少ないと、素原料樹脂の製造コストは高い。これに高い難燃剤を高濃度配合すると、尚更高価格となる。UL費用もある。概ね分母が小さいと負担は大きい。その負担を市場において優れた機能を買って頂いて高価格での取引なら問題がない。機能が正しく伝わり適性な価格で取引がない場合は従来材料の価格につられて価格が決定することもある。厳しい採算に繋がる。
つい難燃剤の配合に手心を加えた人を責めるのではなく、素原料の製造コストを低下させて難燃剤を適性配合しても余裕があるようにする必要がある。そしてテストピースだけでなく、製品としての実用評価をして優れた機能を訴えることが有効だとのシステムの問題と捉えるのが正しい。
以下は筆者の経験に基づいている。海外の代表的エンジニアリングプラスチックス製造会社は巨大だった。素原料コストが低く、かつ難燃剤など副資材の購買力が強いことから安価に難燃剤を仕入れることができる。我々もベンチマークとしてこれらの材料の難燃性を評価した範囲では不正はなかったと記憶している。
当時、日本ではそれに比較すると企業規模が小さく、高機能性を付与し実用評価をすることで高い価格で市場に受け入れられたいた。しかし基本的には価格競争力は海外巨大メーカーからみれば量的に多い汎用品コンシューマー分野では見劣りするものであった。少なくとも売り上げが600億円以上でないと太刀打ちできないとの結論から、M系3社のエンプラ事業部が合体して新社を設立した。3社技術者責任者の顔合わせの初仕事は各社持ち寄り製品の難燃剤のレベル確認だった。嘘はついていないかの相互チェックだ。新社設立だから本当は仲良くと行きたいところだが、こればかりは性悪性に基づいて相手の材料の難燃性をチェックした。東洋紡がDICから事業譲渡された製品がUL資格を嘘だと見抜いていたものの、放置しておいたのと対象的。難燃性に限らず営業も含め会社全体の信頼性が第一。M系3社の販売量は現在では当時の4倍以上になった。
東洋紡は長い繊維時代の技術を土台に高機能材料・製品を開発してきた。ポテンシャルは高い会社である。一部の事業部のマネジメントはダメだったことが露呈したが、今後、苦難を乗り越え復活することを期待している。日本のものづくりの観点から存在して欲しい会社であることは間違いがない。応援している。