粘着剤

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コスモサインはHPのご案内にあるように川崎から品川にオフィスを移動。引越の準備中の忙しい時に事務所に行けば、受発注をしながら梱包作業を始めていた。引越は大変な非定常作業。それにも関わらず笑顔でサッサと実に小気味が良い。何か手伝うことありませんか?と聞けば、気遣いのできる人なので、入り口や郵便受けに貼ってあるパネルを剥がして欲しいと小さなお仕事をくれる。見れば頑丈に付いていて、粘着剤も3年経時劣化しており素直には剥がれそうにない。日頃ブログではサイエンスにいかにも見識があるように執筆している小生にとっては容易でないはずがない。と大見得を切りたいところだが、さて、どうしたモノかと思案。

 一般的に粘着は接着と違い、基材と反応はしないで、単にお互いの凸凹をアンカー(錨)としてファンデルワールス力(分子間力で水素結合や極性基同士の凝集力)で付着しているので、この極性基間の凝集力を外部から弱めるようにドライヤーで加熱するか親和性のある化合物を添加すれば粘着力は低下するはず。 外気温が35℃を示す条件でドライヤーで加熱しても、それほど効果は期待できないので、ここは化合物の添加でトライした。

 粘着剤も多種多様あるので、エイヤッと見当をつけるとポリイソブチレンに炭素数5~9の石油樹脂やプロセスオイルを配合しているだろうとして、イソブチレンやC5-C9石油樹脂に相溶性のある溶剤を利用した。 パネルはガラスに貼ってあるものと、金属に貼り合わせたモノがあるので、過激なものは使えない。 用いたのはリモネン。シール剥離剤、食器洗い洗剤などに入っているミカンの皮成分。 TVCMでソニーが発砲ポリスチレンをリモネンの液に浸漬するとたちまち溶解するシーンをみたことがあろうかと思いますが、ポリスチレンの溶解性パラメーターとリモネンのそれが近似していることから溶解。C5-C9 石油樹脂とも近いことから多分親和性があり粘度が低下して剥離するはずとして、作業に取りかかる。僅かな隙間から噴霧して5分おき、炭素繊維複合材料製のへらを差し込み、ゼムクリップや硬貨で隙間を徐々に広げ、3回噴霧したところ剥離に成功。やっていることは大した作業ではないが、何でも成功するとほっとする。

 接着と粘着は違う機構と上述したが、強度は接着が圧倒的に高いので自動車にも構造接着剤は利用されている。窓ガラスを枠に取り付ける場合など多く利用されている。塗装も金属ボディの上への塗料を接着させている。 塗膜の固さ、光沢、防錆は長期的使用に耐えチッピングも最少にする柔軟性も合わせもつ。問題は基材との反応だけに、高温処理や硬化するまでの誘導時間が長い。

それに対して粘着は誘導時間がほぼゼロ。貼り合わせた瞬間からある程度の強度を有する。デコレーション電車などは塗装しないで粘着シートの貼り合わせで期間限定さえ持てばよく、長寿を要望されないなら、塗装をしないで済ますのは合理的である。

40年程前の輸出車にはワックスがボディーに塗布されていたが、米国で陸揚げするとワックスを除去するための(たしかヘキサン)溶剤洗浄噴霧が公害問題と指摘されてから、薄いポリエチレンに粘着剤を塗布したものをボディに添付するようになった。これも剥離後の外観に影響しないよう工夫されていた。

粘着剤は身近なもので、ポストイット、包装用粘着テープ(OPP、紙、布)、医療用テープ(不織布)などあるが、ビルの防水剤も粘着剤の一種と非常に幅広い。それ故、原料の種類、原料の組成、分子量、固体粘弾性、非常に多くの要因がからみ、物性も濡れ、硬度(針針入度)、押込み強さ、針を侵入したあとで戻る時間パターン、粘度の温度プロファイル。。。。実際、粘着剤に少しでも取り組んだ研究者は蟻地獄に引きずり込まれそうになるのを踏ん張る強く粘り強い意識を要求される。実験結果を表現するにはXYZの3軸では足らない。こちらを立てればあちらが立たず的なことが多い。非常に複雑で簡単に技能が伝承できないのが実情だ。 半導体のウエハーをカットして次の工程に移動する際い使用するテープも生産できる会社は限定される。そう簡単には解明できない。特許では分からない秘密のパッケージのようだと思われる。

 一方で天然には粘着させない植物がある。蓮である。横浜三渓園の早朝に蓮を見に行った。蓮の表面にはナノオーダーの凸があり蓮の表面の水分が接触角が小さく丸まっている。 ご夫婦で来園された方が、ほら、これがプリンが付かない理由なんだよと奥様に教えておられた。もっと早く気がつけば俺も金持ちになれたかなぁ?と笑いながら冗談を。そう、東洋アルミがヨーグルト容器の蓋にこれを採用して以来、慶応義塾の白鳥教授がさらに拡大されていますねと相づち。お互い撥水性ならぬ撥金性ですねと大笑い。

話を戻して粘着と剥離の両面を生かすシートを作るヒントがあるように感じた。

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