電通ビルが売却のニュースは流石に驚いた。売り上げ1兆円を軽く超える企業がまさかの損失補填に自社ビル売却。オリンピックの当てが外れた、斜陽マスコミの影響など原因は専門家にお任せして、テレワークで仕事は可能なので3割程度のフロアを賃貸するとのこと。
これを聞いて、本当にテレワークで可能なのか? 不思議に思った。自分の専門スキルの売買で会社と契約している分には可能だが、日本の会社の多くは専門職での採用は限定的であり、多くは総合職としての採用が多い。出身は技術者であっても短くて3年、長くても20年するとジェネラリストとして事業企画などの職に就く。例え20年が研究職で入社しても基礎分析、材料開発、成形開発、テクニカルサービス、品質管理及び製造現場など多岐の経験を積む人が多いのが日本企業の特徴。技術職で採用が営業に転ずる人の割合いが多いと言うか普通。海外支店勤務で技術営業兼マネージャーも経験する。
では、次から次へと受け持ちする仕事が変わっても円滑に組織として活動できるかと言えば、境界が重なりあっており、例えば材料開発を推進しようと思ってもその他関係業務との連携・相互の理解がないと進まないから、相手の仕事も知らず知らずに代替しうるレベルまでになっている。
外資系企業の場合は個人―企業の契約で成立しており、個人のスキルが必要とするところにジグソーパズルのように当てはまる人材が採用され、使命が終われば雇用は解除される。オフィスの風景も個室が与えられているか、隔絶パネルで区切られた空間で仕事をしているのを良くみる。実に格好が良いように見える。日本の企業の多くは大部屋。今は大部屋でもパソコンのキイタッチの音しか聞こえないが、以前であれば電話で話す内容が聞こえてくると、“あの案件だったら,情報を持っているので教えてあげよう”としたものだ。人には情報は教えない頑なな人は陽が当たるところから距離を置くようになった。
いつでも仕事が変われる状態はコストセンターからみれば「遊んでいる=余裕=無駄」とみられることもあり、不況になると目を付けられる危険もある。だが、今流行の“デジタルトランスフォーメーションDX”となるとどうか。デジタルは単なるツールだが、問題はトランスフォーメーションDXに便利なのは大部屋的相互業務一部浸透型組織ではないかと考えている。材料屋の表現ではIPN構造(Inter Penetrate Network Morphology)。超簡単にいえば融通無碍の組み替え。マルチタレントでないとDX時代は円滑に進まないと思われる。会社も社員をマルチタレント養成し、個人においてもマルチ分野に専門家顔負けに通用するような技量と見識をもつ必要があるのだろう。
その意味で、専門一本足打法で会社内で生活できても、転職は厳しく、定年後に通用するには時代が求めていない限り厳しい。会社訪問して事務所風景が大部屋になっていて、電話の声が聞こえていると“この会社は変化にも強いだろう”と判断する。大部屋でもパソコンの音だけでシーンとしている会社は“チョット心配な会社”と思う。皆様の会社は如何でしょうか?
筆者が経験してきたことを記述した“経験則”であるが、理論的な取り扱いをした記事が日経に掲載されている。慶応・菊澤教授の“危ない「働き方改革」、実は変革に向いた日本の組織”を参考にして下さい。
日本、ドイツ、米国の企業組織形態の特徴を論じています。ダイナミック・ケイパビリティ(感知、捕捉、変容する変革能力)が変革競争力に重要であると説いておられる。全く同感だ。
続きは(日経ビジネス2021年1月22日)をお読み下さい。
図表を引用(筆者作成)