顧問のお手本

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人事異動のシーズン。めでたく役員を卒業してあがりポストの顧問に就任される人。お疲れ様でした。俯瞰的な立場からのアドバイスを適宜する、でも出しゃばらないようにと。一方で現役時代より実力バージョンアップして本当に頼りにされている顧問がおられる。今回はこの人にスポットライトを当てる。皆さんの周りにもきっとおられるはずだ。

筆者が出入りしている企業の一つに中規模製造会社がある。国内外に複数事業所を持って手広く事業をされている。社長の懐刀で働いている方は80歳の顧問。背筋がスッと伸びた姿勢と張りのある顔に加え人当たりも良く若い社員からも慕われている。今般、ある案件で某都市に事業所を設置し事業展開をすることになった。その手続はこの顧問。補助金申請にあたって約50ページに及ぶ書類をパソコン駆使して3日で仕上げたのもこの顧問。いやはや若輩の筆者には到底できない仕上がりに驚いた。本来は次期社運を担う若手中堅がすべきだ。しかし日本の企業はおおよそどこもリーマンショック、グローバル化による海外拠点、そこに来てコロナショック、社員には手厚いベースアップもしないといけないとあって要員についてはギリギリのところで踏ん張っているのが実情。そこで非定常の飛び込み案件は時間が勝負のところがあるだけに、即行性のある顧問が代行して対応する。有能な顧問であれば、“非定常な瞬間”が次々と来るたびに対応することから定年を遙かに超えて「終身顧問」のようになっている。

さすがにプロジェクトが重なると特定顧問に集中するのはまずいとあって社員募集をかけているが、タスキに帯だという。そうかも知れない。有名企業で役職経験者であってもスキルの幅は非常に狭い。貫禄はあるが腰が重い。あれこれ異業種に対応するには一からの勉強とあって速攻戦力にはならない。むしろ役員にはならなかったが、地上の星として何でもござれ的にアイテムをこなしてきた人材はどこでも、いつまでも活躍できる。でもこのような人材は目立たないし、たまたま見つけた企業は離さない。

長年の経験はこの企業に新規案件を持ち込む人の人物査定を通じて怪しい案件を排除することにも活かされている。決して守りに入ってはいない。理由を聞いた。元々は金融商品営業マンだとのこと。世間の多種多様の人と交流してきて得た何かが基本にあると納得した。持ち込まれる案件も元を正せば取り扱う会社及び人だから過去の営業で得たセンスでフレキシブルに対応できるのだと。てっきり製造現場から叩き上げた人だと勘違いをしていたのを心地よく裏切られた。そして改めて凄い人だと感心。だが、時折筆者にあるべき顧問はどうなんだろうかと相談をされる。自戒・反省・そして向上したいとの気持ちを持ち続けるには年齢は関係がない。

ある日、当方が無理難題をこの会社にお願いすることになった。社長と顧問はその場で了解し、即あれこれ指示を出された。そのスピード感に驚いた。一般にはこちらが稟議書を作成しプレゼンをし、採算面を厳しく問われ、そしてご判断を頂くのが普通。

ビジネスであれば当然の見返りを計算し社業にどれだけのメリット、デメリットかを判断するのが通常だが、この案件については伸びる、伸びないは別の尺度で見ていることに気がついた。この案件に乗るのなら応援しようではないか、例え見返りが小さくても、それでいいではないか。今まで経験しなかったことが会得できる。社員にとっても良い機会だろうとの判断をされたと推察した。 社長も顧問も正に「粋」「鯔背;いなせ」な男の見本のようだ。今の日本に忘れかけている言葉を思い出させて頂いた。短期株主還元ありきのグローバル化で抜本的基本技術に取り組まなくなった日本。「粋でいなせな男気」を見せてほしい。今は女性に見ることが多いようだが、それも大いによし。突き上げるエネルギーがあれば。

 

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