文献・像献 

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専門外の文献を理解するのには難儀する。専門領域で認められるには厳しい査読を受けることから難解は当然である。専門用語を調べた上で繰り返し読む。そして挫折することもある。発明や技術の進歩は他業界の専門の組み合わせからなるケースが99%だと実感していることから、現実化が民間企業であるならば、より分かりやすく発表することが重要になってくる。文献を辞書では「文は書籍、献は賢人の意」とある。本当に賢い人は優しく説き、そうでない人ほど難しくいうことが多い。書籍より映像が分かりやすいだけに、今後は文書・書籍と並列で映像アーカイブが有効になると思う。

JST(国立研究法人科学技術振興機構)では主に大学・高専・公的機関における成果報告と成果を実現するための企業とのコンタクトの場を設けている。場として座学・WEB ミーティングが用意されておりアーカイブでも期間限定ではあるがプレゼン映像をみることができる。これは実に嬉しいシステムである。

成果内容は文献や特許にされている。プレゼンでは異業種に属する人であっても遥かに理解しやすいように工夫している。映像の力に加え学生や民間に理解させるための工夫を常日頃若い教官であるほど実施されていると思う。“わかっているつもり”の学生は大学や企業では使い物にならない。身近な事例で“分かった!”にする。 そのような発表が先日の東京工業大学のいくつかに見ることができた。

事例1 三浦准教授 「分子折りたたみ型 ナノMRI造影剤」

MRIの名前は何度も聞いて“知っているつもり” 病院でよく見る。でもプレゼンの冒頭で丁寧な説明をする。「磁場中に体を入れFM周波数帯(電磁波)をあてると、体内の水(H2 O)の水素原子核が相互作用する核磁気共鳴現象を使って、生体の構造や機能を画像化する方法」と文章はあるが、わかりやすいように鏡餅(2段重ねの餅の上にミカン)をMRI測定して説明。

なるほど、餅の水分は澱粉の巨大分子に結合水となって運動制約があるが、ミカンの水は束縛がないことがわかる。ここに病変が明確にわかる造影剤を投入する訳だが、的確な箇所に届くこと、すぐに体外流出せずに何回も撮影できることなどの条件を満たす造影剤を開発。キャリアーする櫛型多官能ポリマーを合成し造影剤を包み込むことを設計。その流れは具体的で分かりやすい。

事例2 山本教授 「乳酸菌表層タンパク質結合によるリポソーム の安定化と特異的デリバリー」の1枚目スライドには驚いたのは勿論、このような図を見たことがない。「腸まで届く〇〇」のCMに途中の胃酸で死滅することがないのだろうとは思う。だが、腸に行けば胆汁酸が待っている。さてそのような環境の中でまして経口デリバリーが可能なのか、その工夫は何か? どんどんプレゼンに飲み込まれた。

詳しくは11月28日アーカイブを参照されたい。

以上の2例だけでも、当方の開発アイテムにあるヒントが閃いた。多分、成文化された文書には削除されてアカデミックな表現で記載されるだろうが、当方の賢くない頭脳に共鳴するのは映像プレゼンの方。

今、明治〜昭和初期の小説を読みこなすことができない人が増加しているとか。まして源氏物語を原文で読むことはない。従来の文献スタイルのほかにサブ資料として映像アーカイブの方が重要性をましているのではないだろうか。 その当時の実験装置が貧弱であったとして先人がいかに工夫をしていたかを思い知るだけで、その後にドライブがかかるのではなかろうか。筆者が学生の頃はMRI (当時はNMRと称して核磁気共鳴と表示してあり)個別の部屋に鎮座していた。それが今や小さなテーブルサイズもある。価格も身近になった。隔世の感ある。映像は記憶容量を食う。今後はコンピュータが量子化されることで圧倒的に余裕が出ること、そして活用することが期待される。

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