EUの自動車をめぐる非関税障壁戦略

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トランプ大統領のMake American Great Again戦略の一つに関税がある。一方 EUはカウンター関税で対抗するが、重厚な非関税障害で自国(特に)自動車産業を防衛しようとしている。

既に発行している環境基準はEuro7 ,これから適用されるのがELV、そして俎上に上がっているのが炭素繊維の三本柱。

米国よりも日本および日本車叩き的な要素があるのは確かにある。 次世代環境対策としてのクリーンディーゼル推しが痛恨エラーで頓挫し、ハイブリッドでは日本に勝負にならないと判断しEVに舵を切ったものの、中国車に席巻されそうになると、出てきたのがEVを含めたEuro7

さらに長距離走行可能のEVにはより大型(重量)バッテリー搭載が必要で、車両の重量削減には高強度・低比重の炭素繊維複合材料が出てくると考えて、そこを抑えようとする戦術。炭素繊維では日本3社(東レ、帝人、三菱ケミカル)が50%超のシェアを有していることから、これらを排除したいと考えたのだろう。

まずはEuro7の内容を紹介(2024年5月発行)小型新車は2027年11月適用

1)規制対象物質の拡大: ブレーキダストやタイヤ摩耗による微粒子、バッテリーの耐久性なども規制対象。

2)粒子径の小さい粒子 (SPN10) の規制導入

3)すべての燃料・パワートレインへの適用: ガソリン車、ディーゼル車だけでなく、電気自動車 (EV) を含むすべての車両に対して統一的な基準が適用。

4)その他、耐久性基準の強化、リアル・ドライビング・エミッション (RDE) 試験の拡充、オンボードモニタリング(OBM) の義務化: 車両に搭載されたセンサーで排出ガスの状況を常時監視し、超過が検知された場合にドライバーに警告するシステムが義務化。 ブレーキダストやタイヤ摩耗微粒子については継続審議のようだが、巨大タイヤメーカーや巨大機器メーカーがYesとは言い難いだろう。海洋マイクロプラスチックスが理由。

日本ではトヨタなどは正式にクリヤーしたとの公表はしていない。

次にELV(End-of-Life Vehicles:使用済み自動車)指令というものが存在し、リサイクルに関する目標値が定められている。

現在有効なELV指令における主なリサイクルに関する目標は以下の通り。

1)再利用・リサイクル率: 車両重量の85%以上 再利用・リカバリー率: 車両重量の95%以上 (リカバリーには、マテリアルリサイクルに加えてエネルギー回収も含まれる)これらの目標は、2015年1月1日以降に適用されている。

2)2023年7月には欧州委員会からELV指令を改定する規則案が発表されており、今後さらにリサイクルに関する要求が強化される可能性があり、この規則案では、特に以下の点が注目されている。

新車への再生プラスチックの使用義務: 新車に使用されるプラスチックの25%以上を再生プラスチックとし、そのうち25%は廃車由来+その他由来のものとする。

この規制案は現在欧州議会と理事会で審議されており、今後の動向が注目されている。現在、日本では戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つのテーマとして産官学が協力して推進している。最近YouTubeで活動の一端を紹介されているので参照されたい。

25%配合と簡単に言うが、廃車の材料は数年前当時の技術が適用され、その後の使用により劣化が進行した材料である。これを現在の要求される強度、外観、そしてこれからの寿命を担保させるには、単なるバージン材料との混合ではできない。

そのための新技術開発が必要になる。 法案を作るのは良いが、それを受ける技術面において、本当の当該国の底力が試されるのである。ここでも日本のこれまでの底力が維持されていれば安心できるが、技術の継承、発展するための投資などが課題になるだろう。

次に炭素繊維

EUは炭素繊維を「有害物質」とみなし、使用を制限または禁止する動きがあるその理由として

「リサイクルの困難性: 炭素繊維複合材は、リサイクルが非常に難しいとされています。一般的な熱硬化性樹脂を用いた炭素繊維複合材は、一度硬化すると再溶解が困難であり、リサイクル技術もまだ確立されていません。

環境への懸念: 廃棄された炭素繊維は、自然環境中で分解されにくく、長期間残留する可能性があります。また、焼却処理を行うと、有害な物質が排出される懸念も指摘されています。

健康への潜在的リスク: 炭素繊維の微細な繊維が空気中に飛散した場合、人体に吸入されると呼吸器系の疾患を引き起こす可能性が指摘されています。皮膚に付着した場合も、刺激となる場合があります。」

これらの理由から、欧州連合(EU)を中心に、炭素繊維を「有害物質」とみなし、使用を制限または禁止する動きが出ています。特に自動車産業においては、軽量化のために炭素繊維の使用が広がっていますが、廃車時のリサイクルの問題から規制の対象となる可能性が議論されている。

以上のように視野の狭い審議メンバーならではの理由が述べられているが、日本の炭素繊維複合材およびリサイクルの現状を知らないか、知っていても知らないふりをしているかのどちらかであろう。

反論すると 炭素繊維複合製品は例えば熱硬化材料であるエポキシを炭素繊維に含浸し熱硬化させる。よって硬化後は加熱しても溶融はしない。それは正しい。だが、日本では元の繊維状態でリサイクル技術が完成しており、現在は航空機からの再生繊維として民需用途に利用されている。

さらにナイロン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂と炭素繊維を複合化する技術も福井、石川などの工業技術センターを拠点に実用化されており、リサイクルも可能となっている。

リサイクルの破棄するとき粉砕しか方法がない場合において繊維屑は発生するが、それが人体への影響については想像の範囲であって実態を反映していない。根拠が薄い。

理由としての環境は大事であることは筆者も共感している。がしかし、航空機は炭素繊維による軽量化が燃料排気ガス面でもアルミより優れていること。風力発電のブレード、C/Cコンポジットの工業製品も環境面で必要性がある。身近なところではドローンも炭素繊維による軽量化は懸架物積載量にも関係する。宇宙産業には高熱にさらされても伸縮しない材料が要求されるが、ピッチ系炭素繊維はそれに利用されている。など多面的でバランスの取れた視点で材料をどうするかを考える必要がある。

もし、そうでないなら、全体的に地盤沈下を待つことになる。規制にはカウンターソリューションが必要なのは言うまでもない。マルチパーパスを唱えて成功している事例を見るまでもなく。

ただ炭素繊維問題は俎上段階であり、トレースできるものは対象外との情報もあるので、今後の動向をウオッチしてゆきたい。

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