クルマの信頼性

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急成長してトヨタより資産価値が高いと評価を得たテスラにリコール問題。18年初頭までに製造した、高級セダン「Model S」の12~18年モデルと高級SUV(多目的スポーツ車)「Model X」の16~18年モデルである。合計で約15万8000万台のリコールだに突き当たった。EVはクルマのボディに電池とモーターを搭載すれば出来ると考えたのではあるまいが、それに近い発想であったことはかもしれない。

リコールの原因を米運輸省高速道路交通安全局から指摘されたのは、「IVI(車載情報通信システム)機能を提供する「MCU(Media Control Unit)」内にあるeMMC対応のNANDフラッシュメモリー。タブレットで使用されている部品を利用したとある。」(日経引用)

自動車と家電とは信頼性のケタが違うよ! と教える技術者がいなかったのか、多分既存自動車メーカーに納入しているTier 1,2の部品メーカーからの供給が拒否されたので、タブレットに目を向けたのであろう。価格も安価で大量に出回っている。EVでde fact standardを獲るためには急いだ背景が想像できる。

タブレットNANDメモリーでは書換回数が3000回で限界だそうだ。タブレットでは5年程度。クルマの買い換えが2~3年では持ちそうだが、中古車価格はどうなのか?普通は車検1~2回はする。10年以上も珍しくない(筆者も過去12年乗ったことがある。それでも故障0だった)。テスラの技術者はおそらくハラハラドキドキしたであろう。指摘されたクルマと今は違い改善されているだろうが、自動車は厳しいことを経営陣は認識したであろう。初期失敗は誰でもあるので失地回復して欲しいものだ。

筆者は入社時は雑貨(灯油缶、シャンプー、化粧品ボトルなど)向けの高分子材料の開発をしており、その後クルマ向け材料を担当することになった。材料から成形メーカーに手渡す技術資料は雑貨の場合は1~5枚程度。受け取る方も物性表と加工技術資料の一部を参考にともかく試作しましょうと速い。

一方、クルマ向けとなると成形メーカーの前に自動車メーカーとの摺り合わせが極めて重要で、ここに開発のキモがある。自動車メーカーとは何が必要で、どのレベルが必要なのか、、、、、、幾重にも要求項目がリストアップされる。材料データーの信頼性とクルマ部品の信頼性データーが最も重要で、多角的な方面から試験する。

熱(極寒の土地、砂漠熱帯)、冷熱サイクル、紫外線の強弱、湿度の影響、塩害の影響などを1年以上、試験装置または大型試験チャンバーの中で評価し、統計処理をする。

材料の機械的強度特性は引張り強度・伸び、座屈、衝撃、振動疲労特性、音響特性、摩擦摩耗、耐薬品性、クルマ洗浄液などの耐性なども評価される。衝撃は隣のクルマのドアがあたった軽微なものから正面衝突した時の変形速度まで広範囲にわたり実験され、それをテストピースで評価できる装置を開発し数多くの試験を重ねる。最終的に自動車メーカーに納める資料は我々の世界では“巻物”と言っていた程である。巻物は1巻ではなくピラミッドのように幾重にも重ねられており、まるで源氏物語ぐらいの巻物を神棚に奉納する台に載せている様ほどの資料を作成したものだ。それに納得したら漸く試作することになり、実用試験となる。ここでも自動車メーカーと材料メーカー、部品メーカーの信頼性試験などが繰り返される。材料メーカーの試験棟は大型成形工場で成形、塗装、衝突試験、冷熱サイクルなど自動車メーカーと同規模のインフラで充実している。クルマの信頼性は開発現場にいただけに、そんなに簡単にクルマはできないと今でも染みついている。

ところが、同じクルマでもドイツとは発想とシステムが違う。ドイツは新材料の展開が速い。信頼性の確認の仕方が違うのだ。クルマに搭載してテストコースやアウトバーンでの走行テストで実績を積み、問題がない=採用!の流れである。結果オーライ的なところがある。エンジンルーム内の金属からエンジニアリングプラスチックスへの切り替えの先頭を切ったのはドイツ。日本ではインテークマニホールドやアクセルペダルなど重要保安部品ではドイツでの実績をみてそれを即採用するのではなく、上述の信頼性試験を経て採用に至ったものもある。見送ったものもある。欧州で実績があるから日本でもと売り込みをする部品メーカーや材料メーカーが国内自動車メーカーを説得できず往生しているのが実態だ。なにも障壁を作っている訳ではないが、故障の原因追及にはドイツ方式は時間がかかる。それと最終的なユーザーへの責任からである。ドイツは気を悪くしないで欲しい。筆者はドイツ車を3台乗り継いでいることで免罪符を頂きたい。

ただ、放射線量や加速度、耐熱性など尋常ではないレベルを自動車より圧倒的に多くの部品から構成されるロケットを失敗率限りなくゼロで打ち上げることができる技術及び品質管理ができる技術基盤のあるところが自動車における信頼性を勝ち取ると考える。

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