ポリマーアロイ

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料理ができないのに料理番組を見るのは好きだ。原料の厳選、出汁、下ごしらえ、裁断方法、サイズ、面取り、隠し包丁、粉の篩い、落とし蓋、糖への転移温度と維持時間、蛋白質凝固温度、複数の調味料の添加順番、・・・実に複雑な工程を手際よく、無駄なく仕上げてしまう。プロでなくても家人のプロセスをみると感心する。グルメ評論家のリポーターは聞き飽きた感があるが、「味の宝石箱やぁ!」と言えば、多種多様な味が単にブレンドされていると解釈し、「モチモチながらジューシー」と言えば、複数の素原料がそれぞれの長所を表現していると解釈する。

プラスチックス(樹脂)でも同じようなことが言える。今回は複数の原料の長所が活かされ、短所は目立たないようにする良いところ取りのポリマーアロイについて紹介する。

結晶性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル類、ポリアセタール、ポリアミド(通称ナイロン)、ポリフェニレンサルファイドなどは耐薬品性、成形流動性、機械的強度などが優れている。一方非晶性樹脂(ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル)は寸法精度、クリープ(長期間負荷がかかると変形)、難燃性などが優れている。

結晶性樹脂の苦手が非晶性樹脂の得意技であり、結晶性樹脂の得意技を非晶性樹脂は苦手としている。即ち、全ての品質を満足する単一材料は現在のところ見つかっていないが、得意技だけを有効に活用する方法はある。それがポリマーアロイ技術。現在まで多くの結晶性樹脂と非晶性樹脂の組み合わせからなるポリマーアロイが開発されてきた。ポリマーアロイの製造は反応リアクターと樹脂混練機能を合体した高混練2軸溶融コンパウンド機を利用している。代表的装置を図-1に示す(日本製鋼所TEXα)

この図で原料や副資材は長いシリンダーの任意の点から供給される仕組みになっている。丁度料理のようにシリンダーの根本では原料Aと調味料(多官能化合物)を混合し反応させるゾーンとし、その次に原料Bを添加して温度とスクリュウー回転で溶融混合させるゾーンとし、次のゾーンでは先の反応官能化した原料A‘とBが良く混練できるように設計されたスクリュー設計ゾーンとなり、これが完成した段階で必要により粉体・ガラス繊維・炭素繊維などを配合して複合強化ポリマーアロイ材料とし、最後には系中で発生した水分や臭気を脱気するゾーンで仕上げとする。

“反応リアクター”と称するのは結晶性樹脂と非晶性樹脂を混合しようとしても相互に溶け合わないので、双方の樹脂に部分溶解する成分を混練機内で合成することもあるからである。合成された相溶化剤は界面活性剤のような作用で基本的に相溶しない材料同士を分散することが可能となる。リアクターの事例として2軸混練機の中で官能基を有する分子を一方の材料にグラフトさせて相溶化剤の合成事例を紹介する。グラフトするための不飽和二重結合と相手材料と反応する官能基である水酸基、カルボキシル基、アミノ基など(二重結合と官能基を有する)化合物が選択される。無水マレイン酸やリンゴ酸もその一種である。

次に混練工程になるが、2軸(スクリューがシリンダーの中に2本あり、同方向に回転しながら溶融樹脂を混練し相互に出会う界面頻度を高くする効果がある)スクリューの中に特徴のあるニーディングユニットを設えて品質改良する。工程中にサンプリングをして都度分散状態を観察したのが図-2である。(筆者ら 成形加工 第611号 1994)

この図において OA:光学顕微鏡でも見える分散サイズ TEM:透過型電子顕微鏡で観察、最終の平均分散径は2ミクロン、島の中に電子顕微鏡観察時の染色で黒く見えるのはエラストマー(衝撃改良材)。エラストマーがマトリックス中に存在すると柔軟になるが、島の中に存在させることで剛性があり、衝撃強度が高い材料となる仕組みである。工程中の相溶化剤生成、両材料の粘度変化などからポリマーアロイの最終物性まで計算が可能となった。 2軸混練内での流動性・混合がコンピューター支援エンジニアリング(CAE)が利用されアロイ化の研究は進んだ。

筆者らはポリマーアロイ形態3兄弟を世の中に出している。

1)   海/島構造を基本として島の中に湖/湖の中に微細島 形態

2)   ミルフィーユのように多層反転構造 1層目(A海・B島) 2層目(B海・A島)・・n層目

3)   海/島構造であるが、島と島に橋掛けをしている形態

1)   は主として自動車に採用され、2)は電子機器のシャーシーなど寸法精度が特に要求される用途に、3)は線膨張係数が小さく、かつ衝撃の高い用途などに利用されている。面白いポリマーアロイを開発してきたが、着想は何かと問われると冒頭の「料理」。実際、2軸混練機は水産加工食品製造にも利用されている。

話を戻して海島構造のポリマーアロイでは島のサイズを極めて小さく=島の数を増加させることでトータル品質が向上することから、材料メーカーは競って、島の数を小さくすることに執念を燃やした時期があった。自動車の軽量化を狙い、ボディ外板の樹脂化が目標であった。試験片での高速衝撃試験と2軸混練機でのコンパウンド工場と往復しながら多様な人材と一緒に開発を進めた。現在でも当時の材料が搭載された車両をみると当時を思い出す。あのとき、異能な人材がいたからこそ成功したのだと。異能な集団を相溶化しつつ、異能を必要な時に発揮してもらうことがポイントであったのはポリマーアロイと全く同様であると。

歯科材料はアクリルにはじまり、アクリル系ハイブリッドレジンになった。大臼歯向けの改良材料も出現してきた。しかしながら、歯科用途にむけてポリマーアロイ設計は面白いと考えているのは多分小生だけではないと想われる。

 

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