先週のブログではポリカーボネート樹脂の光磁気ディスクのリサイクルを採り上げた。この樹脂は熱可塑性樹脂に分類され、融点を持ちそれ以上の温度では軟化・溶融するので成形時には溶融温度以上で溶融体として射出成形、中空成形、フィルム・延伸成形などで製品化することができる。ポリエチレンやポリスチレン、ポリプロピレン、ABS、PET、ポリアセタール、ポリアミド(ナイロン)から歯科外科材料になりつつあるPEEK、PKK(ポリケトンケトン)などのスーパーエンプラもこの分類に入るので基本的にはリサイクルは可能
一方、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などは熱硬化性樹脂といわれ、加熱による溶融はしない。三次元架橋体である。フェノール樹脂は日本人には黒色の電灯ソケットで松下幸之助が開発したとなっている二股ソケットをフェノールとホルムアルデヒドを縮重合したベークライトで製造したことから馴染みがある。寸法精度がよく、難燃性、耐熱性を兼ね備えていた。現在は光ファイバー接続部品や機械部品のギアを金属をフェノール樹脂が置き換りつつある。前者は寸法精度、後者は厚さが5cm以上のギアであっても内部に空洞がなく、かつ摺動性があり軽量であることが理由である。
メラミンは食器や浴室介護部品として、エポキシ樹脂はガラエポ(ガラスエポキシ積層体)として電子回路基板にはなくてはならない樹脂。不飽和ポリエステルはガラス繊維複合によりプラスチック漁船、遊具、浴槽など広範囲に利用されている。SMCもこの範疇に入る。
ウレタン樹脂は低温衝撃に優れ、水による発泡成形も可能であるところから、自動車、家具の緩衝シート、冷蔵庫の断熱材として使用量は多い。最近は熱可塑性ウレタン樹脂も相当浸透しているが、架橋の熱硬化性樹脂の割合が高い
熱硬化性樹脂は再溶融できない。従って①サーマルリサイクル(燃料)②モノマーまで化学分解 ③熱可塑性樹脂の中に充填物として配合する。3通りが「リサイクル」がある。
②のモノマーまで分解すると、素原料として利用できる。手法としては超臨界状態、亜臨界状態での分解が知られており、多くの企業が研究開発を進め、パイロットプラントを建設して検証作業を進めている。
超臨界状態は固体・液体・気体ではなく、特定の圧力・温度条件下では液体でも気体でもなく気体の活発な分子運動と液体の溶解性の両方を有する媒体となる。(図-1http://www2.scej.org/scfdiv/scf.html) 水は374℃、圧力218気圧で、炭酸ガスは31℃、73気圧で超臨界状態になる。超臨界状態で処理することで結合が切断されなど反応の場として利用することがある。分解には触媒としてKOHなどを併用することもある。
超臨界は多くの分野で利用されているが、初期のころは超臨界反応槽の材質も劣化させることから金属材質の適性化研究がなされた。もしくは若干マイルドな亜臨界条件での開発が進んでいる。だがしかしながら、製品量と処理量のバランス(コスト面を含め)がとれていないのも現実であり、サーマルリサイクルか埋め立てがメインとなっている。
ウレタンは特に冷蔵庫の断熱材として抜群である。理由は発泡性に加え、複雑形状に合わせて賦型できることにある。このウレタンをスマートにリサイクルできないか研究者が福井大学の橋本教授が2007年に提案している。ウレタンも200℃以上・高圧超臨界条件でケミカル分解すれば不純物濃度が高いモノマーを得ることは可能である。但し、橋本教授はポリオールにアセチル基を導入しウレタンを合成した場合、常温で希薄塩酸処理により純度の良好なポリオールが回収できること見いだした。
③の熱可塑性樹脂への配合
一般的に普及してはいない。理由は熱硬化性樹脂は異物であって、衝撃強度を低下させる。そのため、熱可塑性樹脂には例えばガラス長繊維で十分な衝撃強度を確保でき、その中に増量剤として配合できる製品に限定される。当方が25年ほど前にポリプロピレンのパウダーを水中に分散させ、同時にガラス長繊維を共存させて混合、乳白色に混合したころを見計らって抄紙方式で脱水・乾燥・加熱プレスをして頑丈なボードを製造したことがある。ある日不飽和ポリエステル製のヘルメットを粉砕して、この系に配合したところ、機械的強度は寧ろ向上し衝撃強度も満足することが判明した。コンクリートパネル適性も合格した
これは異種材料への配合であるが、同種材料系への配合が最も品質的にも安心できる。
具体的には歯科技工模型で利用されているウレタンディスクを微粉砕し、ウレタン原料に混合し重合したところ、収縮、外観、衝撃、強度いずれもバージン原料で製造したものと同等の品質を得ることができた。ウレタンディスクは欧州を中心に歯科技工では利用されているが、国内では高価であることから普及レベルは高くないが、切削残り分はディスクの全体からすると結構な量であることから、リサイクルによるコスト低減の可能性はある。