空気清浄機としてのガソリン車

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タイトル間違っていないか?と疑問を持たれる方、最後までお読み頂けると、さもありなんと思われるでしょう。

EVは排気ガスゼロ FCV(水素燃料)排気ガスはH2Oのみでトドの詰まり大気を汚染しないので歓迎されている。それに対してガソリン車は二酸化炭素、(ディーゼルの場合)窒素酸化物、PMを排出する。ガソリン車ゼロ宣言をする国が相次いでいる。日本でも2030年代にはガソリン車ゼロを目指すと政府が発表したとあって大騒ぎ。あまりにも自動車業界の反発が強いので「役所で使用するクルマは」。。。とやや後退気味に訂正したと聞く。自動車工業会はガソリン車の燃費向上を継続しており、EV、FCVの推進も実施と多岐に亘っての選択枝を広げて格闘中の時だけに、技術音痴の政府が勝手な方向に誘導するのは堪らんとのことだと思う。レジ袋廃止と同じ無智な空気感でやられてはならないと思ったのであろう。

そうは言っても、ガソリン車を将来製造するのは厳しいだろうと多くの人が見ているなかで、エッ!? と驚くべきことが粛々と進んでいることを知った。それは

「大気を清浄化するエンジン車」の開発である。 将来のガソリン車は空気清浄機?とでも表現するのか?

EV,FCVは大気汚染はしない。今回の開発目標は吸気の空気よりクリーンな空気にして排気するというもの。指摘されて目が覚めたのは「確かに大気汚染がなければの条件を満たせば、あとはwell to wheel 問題(クルマ製造LCAを含む総合環境負荷)に焦点が絞られる。このような発想は全くしていなかった。驚いた。

でも、驚くのは早い。2017年 幼稚園児の描いた「空気をきれいにする車」を取り上げて当時考えられる技術を集合するとして東工大村上准教授(当時)が提案していたのだ。

 

2015 年度「機械の日・機械週間」絵画コンテスト受賞作品「空気をきれいにする車」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原油・シェールガスはまだまだ潤沢にある。直接ガソリンを燃焼するエンジンはトータル熱効率では優れている。熱効率50%を越えるクルマも発売されるようになった。

では「大気を清浄化するエンジン車」のキモは何かと言えばリーバーンエンジン構造、セラミック被覆点火プラグなどエンジン本体の開発に加え、最も重要な働きをしていているのは排気ガス処理触媒である。一酸化炭素、低分子量炭化水素、窒素酸化物、PM(微粒子)を還元トラップする触媒(TWC&4WC)である。

欧米では極寒時スタートでも触媒能力が発揮できるよう触媒を予めヒーターで加熱するなど細かい配慮の後処理を組込んでいる。このシステムは自動車用内燃機関技術研究組合で自動車メーカーと官学一体となって開発を進めている。図はイタリアフィアットの試作車である。

(2021.2月号日経Automotiveより)

究極は大気を元の大気より綺麗にするが、当面の目標は2030炭酸ガス70%カットとのこと。多分、落ち着く先はFCVとエンジンとのハイブリッドなのかもしれない。水素社会はクルマ以外でも次期インフラとして充実されることもあり、水素とエンジンが持つそれぞれ特徴を相互補完したクルマになるものと予想される。愉しみだが、早くして欲しい。

触媒は小中学校で習ったのは自ら変化することなく化学反応を推進するというもの。確かに1世紀前の化学産業では分子を結合させるために高圧・高温の条件が必要だった。高圧法低密度ポリエチレンの名前がついているように圧力は2000~3000気圧を必要とした。それが精々5~20気圧、常温~60℃で規則正しく結晶となる定圧法低密度ポリエチレンができている。肥料で欠かせない原料のアンモニアはハーバーボッシュ法(温度600℃、圧力200~1000気圧)が長く適用されてきたが、最近では定圧法が開発されている。これが可能としているのは触媒にある。今、欧州を中心に合成ガソリンの研究がなされている。原油ではなく水素と一酸化炭素をコバルト・鉄触媒で合成ガソリンを製造するにはフィッシャー・トロプシュ法を利用している。さて、この研究と通常のガソリンを利用するにはトータルLCAではどうななのか、両方のレースが見物である。

触媒の開発は途方もない探索が必要であるが、量子コンピューターと計算機化学の進展により従来より効率よく最適触媒の種類及びその形態が指定されるのではないだろうか。それにより環境改善と豊かな生活の両立ができるとしたら化学者としては非常に嬉しいことだ。

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