経糸・緯糸

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中島みゆきの糸は結婚式披露宴での定番曲である。「♪なぜ めぐり逢うのかを私たちは なにも知らない。いつめぐり逢うのかを 私たちは いつも知らない。縦の糸はあなた 横の糸は私。織りなす布は いつか誰かを 暖めうるのかも知れない。」

意味するところは深く誰でもその通りだなぁと共感する。但し、ただ一つを除いて。それは「縦の糸、横の糸」である。技術屋としては「経の糸、緯の糸」と書いて欲しかった。シンガーソングライターは理解される言葉を使わざるを得ないことは分かっていても、歌がこのクダリになると違和感を感ずる。経緯の発音は同じ「たて、よこ」で地球儀の経線、緯度だと言えば分かる人が多かろう。

一番簡単な織りは平織りで経糸と緯糸が直交する形でシッカリした生地ができる。多少緩みが欲しいときは綾織りなど数十種類の織りパターンがある。日本のお家芸であった織物は特殊な事例を除いて中国を始め開発国にシフトしている。その結果 生地の多くはポリエステル製となった。

その理由は経糸にどの繊維を選択するかによって生産性が高く安価にできるかにある。経糸は原糸に撚りを掛けて繊維を束(撚糸)にして強度を高め、撚糸の束を捌いて(整経)必要なら糊付けを施す。これを織機の筬(おさ)に一本一本はめ込む、3~5本纏めて通すこともある。経糸の本数は織物サイズによるが何千本・何万本もある。この作業は半日から1日掛かりであることから、織機稼働中に一本でも切れたら生地はお釈迦で最初からやり直しとなる。そこで選択される経糸は切断し難い合成繊維で汎用ポリエステルが最も利用されている。ナイロンもあるが、湿度によって経糸の張力でクリープするので敬遠される。ナイロンのもっている特性はポリエステルファイバーの断面形状を工夫することで対応しているのが実態である。

合成繊維なれば糊付けが不要。緯糸はどのような糸でも適用することが出来る。コットン、麻(ラミー)で肌触り対応商品など。緯糸の送り速度は1秒間に10~20本と超高速(ウオータージェット方式)なので、現場の織機を見学してもサッパリ分からない。原糸・撚糸・整経 糊付けなど経て糸の自動装置は関東であれば東京都立産業技術センター多摩(西立川)で見学することができる。その他福井・愛知三河の工業技術センターでも各種織機を見学でき、一部研修することが可能なのでお試し下さい

さて、冬には暖かな肌着が定着している。どんな仕組みだろうか。メーカーは開示していないが生地に肌からの水分を吸着するときに発生する凝集熱(気体が液体に変化する際の運動エネルギーの差)によるものと推定されている。高い吸湿性材料繊維にはレーヨンや高い吸湿性を付与されたアクリレート系繊維が利用されている。吸湿した水分を肌着の外に追い出し、熱が長時間持続できるための織りパターンや他繊維との混紡など工夫がなされているのではと推測される。夏の肌着は肌と接触する層は高い吸汗性、中間層に汗を周囲に移動させる拡散層、外側に汗を速く蒸発させる蒸散層の多層構造など素材・織りパターンを組み合わせた商品が開発されている。

この多層構造をみていると人工歯の構造を多層構造にするとどのようなことになるのであろうか、コア層(歯床接触層)は噛合い圧力センサーとして神経への伝達層となり、その外側が弾性変形ループ復元性層、そして最外層が適度な硬度と摩擦摩耗特性のある材料になるのか。歯科医、技工の方々のご専門の立ち場から想像してみるのも面白い。実用化するには3Dプリンターだろう。何年か後の論文に「要旨、経緯、緒言、本文、纏め」として掲載されるかも。その時の経緯の意味は「いきさつ」。

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