国立科学技術振興機構(JST)は大学・高専及び公的研究機関でのシーズ研究を企業のニーズ創出に連結するための技術説明会が殆ど毎週のように東京・市ヶ谷JST別館にて開催されている。医学、生化学、薬学、化学、生物、環境、IOTなどのテーマが高い頻度で報告されている。昨日(7月3日)は歯科領域のトピックス6テーマについて発表がなされた。この中から、筆者の驚きと興味本意で選んだ3テーマを紹介する。尚、発表資料は1ヶ月以内にJSTホームページにアップされるので、詳細はそちらを参照願いたい。
(1) iPS細胞を利用した骨誘導性骨補填材の作成技術(東北大 江草教授)
記憶が定かではないが3年ほど以前のJST説明会では日大からハイドロアパタイト、βリン酸三カルシウムを発泡させて埋設すると骨細胞が吸着成長すると聞いて、なるほどと感心したことがある。
今回の発表はそれでは骨誘導性に欠ける問題点があるとしてiPS細胞をバイオエンジニアリングで人口骨を作成し、凍結乾燥して埋設する技術を開発。経過時間見合いではハイドロアパタイトの周辺に繊維質は観察されるが、iPS細胞凍結乾燥品では骨が成長していることが明確になった。
但し、この実験はマウスであって、人間に応用するには培養期間の短縮が課題であるとのこと。実現できれば歯溝骨の回復、インプラント、整形外科など応用は広い。特筆すべきはPMDAの見解では医療機器に該当するとのことで、非臨床POCに繋げる可能性がある。
いよいよ本命登場と言った感がある。江草教授にエールを送りたい。
(2) 唾液メタボロミクスによる歯周組織と前身の健康測定法の開発 (大阪大学 久保庭准教授)
WHO勧告によれば全数の歯について歯周ポケットを測定することになっている。一本の歯の周囲6点測定し総合計をPISAとしているが、これは時間も手間も何より患者が4mm深さまでプロービングされるのは悲痛過ぎる。
これを久保庭准教授は唾液の成分の中に歯周病細菌が存在する筈としてバイオマーカーの策定を試みている。歯肉縁上の食品由来のメタボロミクス(代謝産物)をプラーク処理で除去して、重度歯周病の物質とPISAを比較すると良い相関が得られている。プラーク無しでも特定物質(カタベリン、5-オキソプロリン、ヒスチジン)の組み合わせをマーカーとすることで判定はできるとの由。
この技術は一般検診項目に採用されると、潜在患者の発見、しいては重篤な病気発見が可能になると期待される。是非WHOへの逆輸出をして欲しいものだ。
(3) 歯科矯正治療時間を短縮させる薬剤の探索 (新潟大 柿原助教)
ご専門の方にはご存知でしょうが、素人の筆者は「言われてみればそうだ」と納得の発表。歯列矯正には歯を動かそうにも今存在している歯溝を構成している骨を動く方には破骨細胞を活性化させ、動いた空間は骨芽細胞で埋める必要がある。
歯の移動を促進するための化合物378、既存抗がん剤、標的分子が明白な阻害剤の中からスクリーニングして分化促進化合物8種類を抽出。新潟大ではROCK(Rh0-associated coiled-coil kinase)を用いて破骨細胞分化や骨芽細胞分化促進を確認している。物理的歯列矯正と併用することで短期間治療が期待できる。マテリアルを一応専門としている筆者としては、矯正材料面での組み合わせができれば実用化がさらに近くなるかもしれないと考えながら聴講した。非常に今回の新技術発表は刺激になった。