PM2.5関連2つの文献から

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PM2.5に関する文献を見たので紹介する。

1つは「PM2.5が日本の労働供給量を低下させていることを統計・観測データから実証 ~大気汚染削減が経済的便益をもたらす可能性~ 2025.07.28 広島大学、東京大学」

要旨は次のとおり

  • 微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染が、日本において労働供給量や出勤日数を低下させていることを統計データ分析することにより実証。
  • 仮に月間平均PM2.5濃度が1μg(マイクログラム)/m3上昇すれば、月間労働時間が一人当たり0.5時間減少(研究対象期間の日本の平均は13.5μg/m3)、これは全国年間あたりで7,600億円の損失に相当。
  • 先進国における比較的低水準の大気汚染であっても顕著な経済的損失が発生しており、さらなる大気汚染削減によって顕著な経済的便益が発生しうることを示唆。

なるほど経済面からのアプローチは斬新に映った。

だが、具体的な健康被害の内容を知りたくなった。一般的には長期、短期による曝露により疾病は変わるようだ。

・長期曝露による影響: 死亡率、特に呼吸器系や循環器系の疾患による死亡率が増加

・短期曝露による影響: PM2.5濃度の急激な上昇が、喘息の発作、心臓発作、脳卒中のリスクを高めることも確認されている。

労働者及びこれらの疾病をもつ介護は労働時間を短縮せざるを得ない。それが労働供給量として評価される時、PM2.5濃度と統計的実証されたとのこと。

  • WHOの2021年のガイドライン: 年平均5µg/m³、24時間平均15µg/m³。 閾値はなく低ければ低いほど良いとのこと。
  • 各国のPM2.5実績。カナダ: 約6 日本: 約9 アメリカ: 約7 イギリス: 約9 フランス: 約10 ドイツ: 約10 イタリア: 約14 G7でもWHOガイドラインを超えている。BRICS諸国は、中国: 約38(近年大幅に改善) インド: 約50 ロシア: 約9 南アフリカ: 約20 ブラジル: 約11である。
  • 最近便利な衛星観測では次の通り。

これらの数値は平均であり、工業地域、都市部、農村などにより異なり、かつ都市部匂いても自動車走行量の多い道路に面した居住では高いだろうと推察できる。因みに自室を測定したところ1〜2μg/m3  でAQI(大気質指数)では良好なので安心していた。

ところが、PM2.5の数値だけでは健康被害は整理されないとの文献が出た。この文献は最初の文献を見た時から具体的に何が作用しているのか知りたかった内容でもある。

PM2.5の構成成分であるブラックカーボンが 急性心筋梗塞のリスクを高める可能性 ~全国7都道府県・4万件超を対象とした疫学研究の成果~ 2025.09.05 東邦大学、国立環境研究所、熊本大学

PM2.5を構成するブラックカーボン、水溶性有機化合物、硫酸イオン、硝酸イオンの濃度を 7 都道府県(北海道、新潟、東京、愛知、大阪、兵庫、福岡)を対象とし、2017 年 4 月から 2019年 12 月までに急性心筋梗塞と診断された 44,232 例 を解析。(構成成分ごとの平均濃度と全体に占める割合は、ブラックカーボン 0.2μg/m³(3.1%)、水溶性有機化合物 0.7μg/m³(6.6%)、硝酸イオン 1.0μg/m³(8.9%)、硫酸イオン2.9μg/m³(23.7%)

  その結果

総 PM2.5 濃度の上昇に伴い急性心筋梗塞による入院件数が有意に増加することを明らかにしました。さらに、PM2.5 の主要構成成分の一つであるブラックカーボン(黒色炭素)(※1)についても同様の関連が認められ、心筋梗塞発症の新たな環境リスク因子となる可能性を初めて示しました。

(図 1:総 PM2.5 および構成成分の IQR 濃度上昇と急性心筋梗塞リスクの関連)

 

 

(図 2:ブラックカーボン濃度の IQR 上昇と急性心筋梗塞リスクの関連)

 

 

 

 

 

著者らは

「ブラックカーボンが心筋梗塞に関与する可能性のある仕組みとして、肺での炎症や酸化ストレスの誘発、血液中への微粒子移行の促進、腸内細菌叢(さいきんそう:細菌の集合体)の乱れ、自律神経や副腎機能の不均衡など、複数の経路が推測されています。」 と述べている。

この図は非常に示唆に富んでいると思う。

 高齢より若い人の方が。 性別では男子が、体格指数は低い方が、糖尿病を併発しているほど、脂質異常性(中性脂肪や悪玉コレステロール)がない方が(??)、喫煙歴がある方が、ブラックカーボンの増加率に対して心筋梗塞リスクが高くなる。

最初の文献において世界のPM2.5の数値と二番目の文献 心筋梗塞リスクを対比することにより、日本より過酷な環境で多くの人の労働力供給量も減少の負のスパイラルにあることを想像することができる。もちろん心筋梗塞以外の疾病も含まれるであろうことは推察できる。課題はわかった。化学技術者の出番だ。期待している。

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