小豆(あずき)色

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

630日は和菓子の水無月をいただく。これが京都の習慣になっている。商売は1日では成立しないので、年中販売しているが、6月になると店頭ではエース格の場所に並べられる。山崎の合戦で有名な水無瀬という地名もあり(水無瀬川と淀川の合流地点)、水が豊富なのに何故か水無の名前がある。辞書によれば「無」は連体助詞「の」とある。田に水を張る月が水無月の由来との解説もある。宮中で氷を食べるのを庶民が模して和菓子にしたとも記載されている。

かき氷に小豆をトッピングするのは人気。和菓子の水無月も小豆の層がある。魔除けの意味がある小豆を利用しているとも言える。小豆はお祝い事に欠かせない赤飯も単なる着色だけではない意味で利用されているのだろう。(筆者の責任もてない勝手な解釈です)。

 

さて、6月になると紫陽花が一斉に目を潤してくれる。淡い色合いが上品さを醸し出している。薄い青、薄いピンク、白も混じっている。色素は同じだが土地のアルカリ性、酸性で色が変わるのだと。青はアルカリ、ピンクは酸性の土地の上に咲くと子供のころ教わった。今はこの色素はアントシアニンと分かっているが、アサガオ、梅干しの紫蘇の葉、赤ワイン、イチゴ、黒豆などもアントシアニン化合物。このように青から黒まで範囲が広い化合物なので、小豆もアントシアニン化合物であると長年信じられてきた。

 無理もない、有機合成による染料化学が化学先進国ドイツを追いかけていた日本において天然染料を研究する研究者はほとんどいなかった。化学は今や医薬や樹脂への広く利用されいるが、戦前に大きく発展したのは染料化学による。東工大、福井大学などは繊維産業と深く関係していた。今は機能性材料研究へと変身している。

だが、化学の分析技術の向上は染料化学が切っ掛けではあるが、進歩してきた、赤外・ラマン分光分析、高速液体薄層クロマト、GPC(ゲル浸透クロマト)、NMR(核磁気共鳴)、MS(質量分析)、TOF-MS,PETなど多くの分析装置を今の研究者は利用できる。

 ここに天然色素にこだわり研究を続けた研究者がいた。雑誌「化学」7月号に黒田チカ氏が1913年東北大で研究を開始し、お茶の水教授として83歳でお亡くなるまで、かなり追い詰めたがあと一歩であったと記されている。小豆の皮の内側にある色素含有膜が水に難溶で高温煮沸してようやく僅かを採取できるほど頑固で、その後分かったことは作業中の変化した化合物をみていたこともあった。 名古屋大学の後藤らは5kgからスタートし60kgもの小豆を水に浸漬して洗濯板(表面凸凹)に夾んでゴリゴリ摩擦することで表皮を剥離し比重差で分離し高速液体薄層クロマトで正確な化合物を解明した。その結果、小豆に含まれるアントシアニンは黒豆の1万分の1しかなく、全く別の化合物であると報告。因みに、アントシアニンがPHより色が変化するのに対して、判明したカテキノピラノシアニジンはアルカリ、酸性、中性によらず色は変化しないことが記されている。 

小豆色を企業や大学のカラーに採用しているのは、関西に多いような気がする。阪急電車のマルーン塗装は高級感を与え、神戸発祥の楽天、サッカーのヴィッセル神戸、立命館大アメフトも小豆色。 これも小豆に魔除けの効能があるからだろうか。 伊勢の赤福はお土産として人気が高い。傾けないでの持ち運びは面倒だが、それでも待っている家族へ買っていく。購入動機はもちろん食欲であるが、赤福の餡の形状は「けがれのない女性が指で餡を掬って餅に被せる」から由来している。勿論今は(けがれのない)ロボット。

 話を戻して、ほとんどの研究者が取り組まないところに興味をもち、長い期間に亘って情熱を傾けたその姿勢を短期間での成果を上げることが求められ、つい、スケールの小さい結果に終始している現在は見習うべきであろう。 それにしても名古屋大・後藤チームの分離技術を開発しながら追求していく姿勢は好感がもてる。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。