アルミニウムの自己修復

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街は静かな年末商戦模様。買い物をすれば抽選券をもらってガラガラ抽選機を回して賞品をゲットする風景を今年はあまり見ない。その代わりQRコードのシートを手渡される。HPも記載されているのでパソコンを立ち上げ応募しようとしたら反応しない。ウン?とあらためてシートをみるとスマホ限定とかいてあるではないか。パソコンを持っている人よりスマホ所有者が多い現在ではこれが新時代のツール。たかが抽選どうせ当たらないのだから無視しても良さそうだが、スマホの取り扱いを敬遠していると、知らず知らずに時代から置いてきぼりを食う。それが、人との交流や興味を持たなくなる前兆となるだけに怖いので辛うじてついて行っている。

Always 三丁目の夕日時代(東京タワー建設中)にはパソコンすらなかった。街のいたるところでトタン屋さんがあり、オート三輪トラックからトタン(亜鉛めっき鋼板)やブリキ(錫めっき鋼板)シートが降ろされ、翌日になると波板、煙突やシンクなどの製品が出荷されていた。木炭ストーブの煙突では真円度が確保され、エルボや屋外のT字煙突との接合が行われる。平板から器用に円柱形にする職人さんがいないとできない。シートを裁断して、型に合わせてひたすら叩くことで製品化していた。物置小屋の屋根はトタンの波板が利用されていた。バケツは独特の光沢があるブリキだった。おもちゃもブリキ製。

やがて高度成長を迎えて、トタン屋さんは板金屋さんとなり、トタン以外の金属加工業を営むことになった。自動車部品加工、電子部品シャーシなどの企業下請けから独自商品の開発をするまでになった。大企業は全体の企業数の0.2%、残りは中小零細企業からなる日本の製造業。毎日現場で製造に汗水たらしているからこそ見つけることができる知恵の例を友人が紹介してくれた。

アルミ板の冷間加工では翌日になると変形していることがある。あれほど条件を振って加工したにも関わらず再トライを余儀なくされることがあるとのこと。ゴム(架橋)も同様に一晩寝かせないと安定な組織にならないとのこと。樹脂の材料評価の多くはJISで規定されている。プレス加工や射出成形加工後には24時間静置してから物性評価をすると決められている。石膏でも加工後は膨張・収縮、結晶化が動くことからこれも24時間後に測定と厳密なアカデミックなデーターが求めらるときは実施している。樹脂やゴム、アルミや石膏にいたる材料は温度、時間、取り扱い履歴によって寸法や物性は変化する。

そんな時に面白い情報が飛び込んできた。長い引用になるが(出典:脚注)

「オーストラリアのモナシュ大学の研究チームが、アルミニウム合金の疲労を最大25倍向上する手法を考案した。その為には使用される前に予備的な振動応力を与える「トレーニング処理」をすることで疲労亀裂の発生源になる粒界隣接部のむ析出物帯(PFZ)に、応力誘起の微細析出物を生成して強化、疲労亀裂の発生を抑制するもの。粒界隣接部に合金元素の空白地帯が生成する。粒界から離れた粒内マトリックスと比較して低強度となり、実際の使用段階における振動応力の下でひずみが集中し、疲労亀裂発生源になることが知られている。そこで、標準的なピーク時効に達する前の亜時効状態で、数百サイクルの少し強めの予備的振動応力を与える「トレーニング処理」を行うことで、疲労亀裂の発生源になるPFZに応力誘起の微細析出物を生成し、高強度化することで疲労亀裂発生を遅らせようとする」 (時効:エージング 組成安定までの時間)

自動車の外板は鋼板からアルミに変わりつつあるなか、これは有益な研究である。また、自動車内のハーネスは銅からアルミニウムに変わりつつある。軽量化であるがハーネスも曲げ・振動による疲労が考えられるだけに、この大学の試みは広く応用されるだろうと思われる。

この際、どの程度のトレーニングをすれば良いのか、それに取り組んだ研究が日本にある。九州工大の美藤教授は非接触(渦電流)による導電性の変化で時効(硬度や引っ張り強度の飽和までの処理)対応できないか検討している。発表はアルミ/銅(4%)の合金組成で略機械的強度時効と一致している。製品を破壊しては元も子もないが、非接触での測定は製品出荷検査としても有用だ。(12月10日九州工大JST技術説明会WEB発表より抜粋)

つい、この記事やWEB発表を見聞きすると、これって人材育成と共通するものがあるのでは?と呟いた。賢明な読者諸氏も納得されるだろう。ジャイアン/のび太、初恋(片思い)、受験、スポーツ競技、就職、仕事、恋愛などにおいて傷を負わなかった人はいないだろう。小さな傷を多く経験した人は大きな衝撃に遭っても乗り切れる自信がある。苦手な人と空白をもって後になって反省したこともある。

この文献をみて、アルミニウムが目には見えないがトレーニングにより自己修復に励んでいるのだと考えるとアルミニウムに急に親しみを覚えた次第。

(*文献 Monash engineers improve fatigue life of high strength

aluminium alloys by 25 times)

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