地域産業技術研究センター

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「産学官」連携に金融機関が加わり「産学官金」連携になりつつある。日本の産業は中小企業に支えられている。ただし先端技術をフォローするには産学官連携だけでは実用化が困難である。一方、特に地方の金融機関は貸出し利ザヤで利益を出す従来のビジネスでは通用しなくなっており、中小企業を金融面でフォローし育てざるを得なくなっている。

大企業は比較的財力に余裕はあるものの、最先端技術の間口が広すぎることもあり各方面で開発できる力量のある研究者に枯渇している状態にある。

このような諸事情の中、地域産業技術研究センターはもっと知られて良い存在であり、活用されることをお勧めする。ある産業技術研究センターでは大学・高専・隣接県の技術センターをプールした運用をするところもあり、大学から博士過程の学生を産業技術センターに派遣して実用技術を習得させることで、地に足がついた人材育成も実行されている。

各県の産業技術研究センターの発足は概ね明治時代の中期から後期に掛けて発足している。多くは繊維産業、窯業産業から出発している。繊維産業が発展して近年では炭素繊維複合材料となりロケット、自動車、ロボットに展開。織機が工作機械に展開し、現在では3Dプリンターにまでつながっている。

各県の技術研究センターの特徴は明治初期の産業を反映している。事例を挙げると山形県は蔵王・出羽三山からの美味しい水を利用した酒醸造へと展開、福井県は繊維から炭素繊維及びデザインセンターへ、鳥取県ではカニからキチン・キトサンバイオナノファイバーへと発展している。岩手県は南部鉄の歴史を踏まえ、鋳造材料を東北各県と協力しながら鋳造でありながら鍛造品レベルへの材料開発を実施するなど地域ならではの活動を見ることができる。

 それでは、大企業が集中している都会はどうか。産業技術研究センターが不要な大企業が多く存在している。さらに地域の特徴が取り立てて無い、と思われ勝ちである。しかしながら、中小企業は東京でも存在する。太田地区、多摩地区、葛飾墨田の城東地区などは、機械加工、繊維産業、江戸文化の新時代へのバージョン転換など工夫を凝らした技術で生き残りをかけている。太田区の城南支所は精密三次元寸法測定、CAD/CAMシステム、3D プリンター、最新電子顕微鏡SEM,TEMを揃え、金属、セラミック、樹脂の解析には相当のチカラを有している。多摩支所では繊維を中心としているが、コンピューターシミュレーションの開発にはレベルの高い人材を配している。城東地区はやや雰囲気が異なるが、例えば漆の原木を粉砕したパウダーに漆の液を混合し熱プレス成形すると一気に漆食器ができる。見事な仕上がりである。指導されたのが城東支所。お台場・青海に全体コーディネート機能と基礎研究センター機能を有している。

当方が良く利用するのは材料分析、熱力学的物性評価、形態観察などである。依頼する場合もあれば、単独で利用できる場合がある。共同研究も可能である。一番のお勧めは技術専門家との事前相談と結果に対する議論ができることにある。相談員の多くは博士、修士を取得し、大学や企業で専門職を勤められた方もおられる。民間分析センターは存在するが、例えば分析では赤外線でこれを調べて下さい。と要望すると、その通り回答がある。ただ、よく利用している都立産業技術センターでは、本当は何を知りたくて相談しにきたのか?の背景をよく聞いて、それなら、赤外よりも熱分解ガスクロが効果的ですね。とアドバイスがあり、それが的を射ていることもあった。また相談を受けた者や、実験に携わった人からみれば、現在の業界の実態を知る機会ともなり、双方にとって有りがたい存在となる。

 東京都に肩入れする訳ではないが、中小企業で料金が別体系になっており中小企業にとってはありがたい。他府県の企業でも都内企業と同じ条件で利用できる。また被災に遭われた地域に製造・開発センターを所有する東京都本籍の企業の場合は、無料にすることも(アイテム次第ですが)ある。これは石原知事の時から実施しているが、さすが東京だけの財力に預かっているが、でも、その決断には驚いた。 東北地震に続いて現在は熊本地震での被災者起業救済が行われている。

写真はお台場にある都立産業技術センターに展示してある3Dプリンターによる樹脂製バイオリンである。その製造までの工程で関わった技術は次の通り。(パンフより抜粋)

 *XCT 3Dスキャナーを用いたバイオリン構造データーの採取

 *3D-CAD ソフトによるリバースエンジと3Dデーターの構築

 *コンピューターシミュレーションによる構造、振動、音響の解析

 *3Dプリンター 粉末ベッド積層法

 *音色など各種測定

かなり広範囲なインフラと人材が必要であることが分かる。

そこまで対応できないこともあるが、例えば国の産総研やNEDOと組みサテライトを技術研究センターに置くことで迅速にして広い要求に備えるネットワークを構築したところもある(福井)。官ではあるが、なかなか民営のセンスがあると関心している。

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