蒸気機関車とコーヒー

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

やや固い話題が続いたので、今回はコーヒーを飲みながらの息抜きブログです。

皆さんはエスプレッソがお好きですか? 本格的に高圧スチームでコーヒー粉からエキスを抽出する。カップに注いだ後で泡立てたミルクで表面にハートマークやパンダなど模様を描いて提供されるラテも人気がある。熱いこともあるが、せっかくの模様を壊して飲むには速度が遅くなる。

お店と略同じ性能の家庭用マシンは18万円前後とあって到底手が届かない。いや6万円であるよと言われても、それも手が届かない。そんなとき3,000円前後で買えるイタリアのビアレッティ(モカ)で大外れではないができる。と書いたが念の為お店を訪れると6,000円。蒸気でコーヒーを抽出する原理とはいえ価格も上昇しなくても・・・と冗談の一つも言いたいところ。

コーヒーの淹れ方の多くは豆を挽き、濾過装置のサーバーにいれてお湯を注ぎ抽出濾過するのに対して、ビアレッティは 下部容器に水またはお湯を入れ、コンロの直火で加熱。下部容器の上部にメッシュと濾紙を設えコーヒー粉を充填して水蒸気を通過させる。装置の頂点で濾液(エスプレッソ)が得られる仕組みである。お湯の沸騰準密閉容器内圧力は高くても+0.2~0.4気圧程度なので、本格装置の10気圧には到底及ばない。それでもエスプレッソもどきは得られる。ハートマークを描くと、それだけでテーブルで待っている家族・友人はわぁ〜と驚く、その様もコーヒーの一つの楽しみ方だ。

気楽にと言いつつ、ミルクの泡立ても化学屋らしい見方をしてしまう。ミルクに砂糖を2%ほど加え55〜60℃に加熱し高速攪拌機で泡立てる。甘味もあるが砂糖の分子によるミルクのタンパク質との相互作用(見かけの擬架橋もどき?が形成されていると想像しているが)起泡性と気泡の安定性に関係するからでもある。さらにカップに注ぐときはカフェオレもラテも最初はカップから高い位置からミルクを落とすが、流動する時の剪断と重量により消泡しコーヒーよりミルクの比重が高いためにカップの底に沈む。ついで、カップの淵からミルクを流し込むと剪断速度が極めて遅いため消泡することなく表面に浮かぶ。計算が得意な人は泡のサイズ=内圧と外からの剪断で消泡現象がどの速度でクリティカルになるか式を作れるはずだ。できたら教えて欲しい。膜厚など必要なパラメーターも加えて。

タイトルの蒸気機関車が一向に出てこない! だが感が鋭い皆様ならお分かりの通り、蒸気で抽出する方法は19世紀の蒸気機関車の実用化に始まり、それまでのコーヒー粉を鍋で煮詰める方法などから変化したことに深く関係しているからである。サイフォン方式もアルコールランプで加熱され内圧が高くなり上の容器にお湯がいき抽出する仕組みで広い範囲で蒸気機関車に触発された抽出とも言える。

ご家庭では圧力釜の1つや2つはあるはずだが、慣れていない男にとっては圧力調整弁からのシュッシューと音が出始めると気が気でない。釜の1/3を超えるほどに内容物があると噴き出すトラブルがあるからだ。友人は吹き出して天井に張り付いて後の掃除が大変だった、その事件以後は圧力釜も普通の鍋として利用しているとのこと。このビアレッティにも過剰加圧防止はあるものの、本当のところはドキドキ物ではある。

コーヒーの淹れ方も、忙しい人向けには自動抽出やサーバーの上部に一度にお湯を注ぐと徐々に点滴注湯できる器具などある。だが、ゆっくりするときは昔ながらのサイフォンが好ましい。茶店でみる機会は少なくなった。学生の頃はサイフォンの前で講座の助手と話をしながら過ごしたあの風景が思い出される。時効だから言えば、その助手にはお気に入りのママさんがおられたことで、当方はそれに利用されていることはわかっていた。マイルスデービスがどうのこうのとか、コルトレーンのあれが好きだとか、知ったかぶりのJAZZ談義するうちにコーヒーが仕上がりいただく。今流行りのドヤスタバはなかった。のんびりしたモノだった。

これからのコーヒーの淹れ方も技術の進歩とともに変化するだろう。筆者が想像するに亞臨界か超臨界抽出、抽出後の濾液のカラム分離によるテイストの調節などが起こるのではなかろうか? いかにも化学実験室のようでは味気ないので、そこは芸術家の人々が活躍してくれるだろう。蒸気機関車が発明してエスプレッソ。今は電磁石で電車が浮く時代ならば、どのようなことになるのか? 淹れたてのコーヒーを電車に持ち込みゆっくり考えてみよう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。