樹脂価格 ナフサリンクとシェールガス

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直近の樹脂関係ビックニュースは東レがトヨタなどに自動車用材料(ナイロン、ポリフェニレンサルファイド)の価格をナフサリンクから外すよう異議申し立てをしたことである。ナフサとは原油を熱分解して採れる成分で石油化学はこれからエチレン、プロピレン、ブタン・・・のアルキル炭化水素類とベンゼン、キシレンなど芳香族類が一定の割合で精製分取している。一定の割合で生成するので芳香族化合物のみ生産することはできず、エチレンやプロピレン由来の樹脂や化成品を生産する関係にある。自動車で最も多く採用されている樹脂はプロピレンを出発原料とするポリプロであり、ほぼ価格はナフサの価格にリンクするだろうとトヨタなど自動車メーカーは世界の原油価格、ナフサ価格から樹脂価格を算出した数値で樹脂メーカーと交渉し値決めがされてきた。ところが2005年前後から米国南部を中心としてメタン・エタンが主成分で芳香族化合物を含有しないシェールガスの採掘が活発化しこれを原料とするポリエチレン、ポリプロピレンの大型プラントが順次立ち上がったこと、及び、ナフサと同成分の燃料用名称ガソリンの需要減退もありナフサ価格は低く抑えられている状態にある

一方、東レが異議申し立てした材料は芳香族化合物(脚注分子式参照)を原料とする樹脂であり、ナフサ原料からしか合成できない。東レにすれば芳香族化合物の量は増えず値上がりし、樹脂の価格は低く設定され26年間の我慢も限界に来たとセンセーショナルな見出しの新聞記事。ナイロンやポリフェニレンサルファイドの製造工程が長いので合理化にも限度があるのだろうと思われる。芳香族化合物由来の樹脂にはポリスチレン、ABS、ポリエステル、エポキシ、熱硬化性樹脂などあり機能性が余程評価されないと採算が合わない部類に入る。逆に余程の機能性向上開発がなされトヨタグループが採用した場合は開発費も考慮した値決めがなされるので二番煎じ技術は考慮対象外、一番で無ければ苦しい

ここで歯科材料として気になるのはアクリル樹脂であるアクリルモノマーの製造法を見てみよう。古典的製造法としてACH法(原料はアセトン、青酸、メタノール)戦前は化学チェーンの中で副生成物を利用して合成。次に登場したのが炭素数4のブタン・ブチレンを直接酸化する合成法(C4法)である。国内アクリルメーカーはACH法と直酸法を採用している。ところが2008年には三菱ケミカルがエチレン、メタノールから合成する方法を開発し大型プラントが稼働させた。シェールガス由来のエチレンでも対応できることからコスト競争力がある。歯科材料は工業用途よりボリュームは小さいが、光重合特性や高強度・高靱性など機能性のあるアクリル誘導体の合成能力がより強く求められる。世界の40%シェアを有する三菱ケミカルに対してクラレ、旭化成、三井化学、住友化学、三菱ガス化学等がどのような展開をするか注目される

(参考)シェールガス(頁岩の層の中に閉じ込められたガス)地上から深さ2000~3000mまで掘削し頁岩に到達すると先端ノズルが水平方向に曲り掘削を3000m続ける。次に界面活性剤を含む水を注入し頁岩層を水圧破砕してガスを回収する。掘削パイプはシームレス管、ドリルの先端は摩耗が激しいのでカーボンナノチューブ複合材が適用されている。また当初は600種類に及ぶ界面活性剤の混合品が利用されていたが、掘削地域の土壌汚染が問題となり、現在は使用後バイオ分解する材料が利用されている。いずれも日本のメーカーが活躍している。

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