便乗・環境ビジネス

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FB仲間から大阪のホテルに宿泊したら,Water Earth Group の国連世界食糧計画(国連WFP)公認のペットボトル飲料水が部屋に置かれていた。「生分解性のPETボトルで10年以内に自然に分解してPET樹脂としてリサイクル可能」とのこと。宿泊者は疑問に思い電話をしたが、確たる返事はなかったとあって、FBに投稿した。

この文章をお読みの方は直ぐにお分かりのように矛盾しています。即ち生分解するのは微生物がPETを食料として食べ、分解して最後にはPETの原料に戻すとあるが、これを人間に置き換えてみると、例えば、ステーキを食べたら、中間品を経て最後にはステーキに戻る。と同じ意味である。どこが「リサイクル可能?」と突っ込みを入れたくなる。国連WFP、生分解と並べ権威があるような似非科学環境ビジネスにこのホテルも乗せられたか乗ったか分からないが、このような非科学的な情報が一人歩きすることは危険である。ストローを紙製にしたら環境改善はまだ可愛い方であるが、これは許されない。

それでは、全くの非科学的な根拠かと言えば、ある限られた条件ではPETは生分解する。この研究者に筆者は論文発表直後にお会いしたことがある。その時の研究者は何故か元気が無かったのが印象的だった。「PETを微生物分解できる!」凄いセンセーショナルな話題で、日本人学者がなしえたことは凄いことだと思っていただけに拍子抜けした。

論文Science, 351, 1196-1199 (2016)に詳細記載してあるが、PET以外の餌がない状態で生分解する菌を発見し、発見場所にちなんでIdeonella sakaiensis 201-F6株と命名された。この細菌のゲノム情報を基盤としてPETを分解する酵素を探索したところ,PETからモノヒドロキシエチルテレフタレートをおもに遊離する活性をもつ酵素が同定された.さらに,遊離のモノヒドロキシエチルテレフタレートをテレフタル酸とエチレングリコールとに加水分解する活性をもつ酵素も同定された。と論文要旨に記載されている。

研究者の業績としては高い評価は勿論あるが、これが実用となると話は別である。即ち、
1)地中に餌はPET以外に多く存在する。
2)途中の分解で微生物がやめた時、それまで生分解した中間化合物は環境で認可されている許容量以下であるのか?
3)最終的分解物を微生物から分離し、精製、重合モノマーとして処理するエネルギー(LCAライフ・サイクル・アセスメント)として合理的であるか?
4)10年も特定コンポストで炭酸ガスと水にまで戻るまでの土地など日本ではありえない。
5)炭酸ガスと水に戻る前に、エチレングリコールとテレフタル酸の段階でストップさせるのか?

などを考えると、実用性とは異次元の世界であると言わざるをえない。2)について、帝人がケミカルリサイクルのパイロットまで建設し、検証実験をしたことがある。ケミカルリサイクルは技術的には可能となったものの、中間化合物の取り扱い問題があること、さらにPET樹脂をケミカルリサイクルするよりはマテリアルリサイクルがLCAにも有利だとして、この検証実験の結論で纏められている。

筆者はホテル側の善意の誤解だろうとして、バイオ由来のPETを生分解PETと勘違いをしたのではないかとの推測に基づいてコメントをしたが、本気でWater Earth Groupが行っているのなら10年間の経過報告をして欲しいものだ。日本の学者が分解菌を発見し発表したのは2016年で世界で初の出機事だったから、現在まで4年しか経過していない。

我々メディカルに関わる人間としては、科学的根拠、フィールド実験検証を通じての証拠を積み重ねる慎重さが求められ、歯科医療に携わる全ての人がその高い意識でいる。それだけに、今回の記事には呆れた。

話は脱線するが、関西では“阿呆”はどことなく憎めない可愛いところがあるが“バカ”と言われると怒る。関東では逆である。バカの語源は仏教の“バーハッ”の当て字“馬鹿”だとか聴いたことがある。その意味は“無知”。相手が無知だとして進めるビジネスはどうかと思う。一方、頑なに過去・現状に固執するのも考え物で、本当に頭の良い人は全方位に興味をもち、愉しく前向きに積極的に勉強するとのこと。なので、この日本人の論文をどのように活用するのが良いのか考えることが本当に環境を考えている人なのだろう。

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