台風19号と河川工事

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台風19号の被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。千曲川といえば穏やかな風景を思いますが、荒れ狂う濁流が堤防を破壊し氾濫するとは予想外のことでした。千葉、福島、宮城におかれては15号による被害の後片付けや修理も適わぬうちのダブルパンチには体力・気力の限界であろうと思います。

その一方で東京では地下神殿と称する巨大貯水構造体が機能したのであろうか水害の報告がなかった。例えば板橋区と和光市の境界を流れる白子川は過去何回も水害を出していたが、成増に3カ所の地下貯水構造体(トータル48万m3)を建設してあるから以前より安心だとの声があった。 東京には地下鉄が階層構造のクロス状態で走行している、最下層のホームから5階~6階で地上にでる駅もある。これらが冠水したら長期の都市機能が麻痺する。石原都政において地下神殿建設した。(トータル200万m3)、田中長野知事はダム無し宣言した。行政は結果責任であるだけに答えは明らかである。

ダムの必要性で議論があった八ッ場ダム(利根川流域)。貯水試験の準備中にたちまち豪雨で設定水位になったとの報道を受け、ダムが有効だったとの歓迎の声が多い。一方、ダムが無くても利根川では僅か17cmしか水位が上がらない筈だから不要だとの声もある。どのような計算か詳細知らないが、下流流域の居住者の精神的圧迫度は圧倒的に違うと思われる。

平成27年の鬼怒川氾濫を思い出す。盛岡を夕刻に出発して東京に戻る予定で東北自動車を走行していると、小雨から強雨に変わり、栃木インターから先は崖崩れで通行止め。高速を降りたものの国道も通行止め。夜間で視界不良の中、消防・地元自警団の方々が辻々で「この道は危ない」と教えてくれた。結局、ナビにない農道を“脳内ジャイロ”で地図を頭に描いて、この方向に行けば館林の筈だ!と複数の農道選びながら走行した。抜けて東京に戻ったとき鬼怒川が氾濫し常総市が浸水したことを知った。多分走行中の河川の水位は越水するほどではなかったが、精神的な圧迫を経験した。ダムは警戒警報、避難勧告に対して余裕をもって対応できることでも重要である。机の上の計算ではなく、住民の声を吸い上げることも必要であろう。ビジネスも同じである。

新横浜の日産スタジアムでは日本―スコットランドのラグビーの試合開催が台風で懸念された。試合が行われないと引き分けで自動的にスコットランドは敗退するとあって、スコットランドとして日程や場所を変更してでも開催を要望した。要望すること自体がルール違反ではあるが、スコットランドの関係者も経験をしたことのない豪雨となれば、試合開催は無理と判断したのにも同情する。自動で予選通過できる日本ですら喜んではいなかった。実際は見事に会場が整備され、ラグビーを楽しむことができた。

筆者は正直なところ心配半分・半分できるだろうと思っていた。心配というのは日産スタジアムのある新横浜・小机地区は暴れ川の鶴見川により水害を度々だしていた地域である。 (図:日産スタジアム付近のハザードマップ)

隣を流れる多摩川について今回も氾濫・堤防決壊が放映されている。その鶴見川なので暴れても不思議ではない。が、しかし安心材料として日産スタジアムを含む地区は巨大な遊水池設備ができており、日産スタジアムの地下及び1階は巨大貯水構造になっている。即ち、芝生で覆われたグラウンドは2階の屋上にあたる。ラグビー選手が足下を取られることなくプレーでき、観衆は凄い試合展開に興奮に沸いた。地下に溜まっているであろう水もその観衆の歓喜の声で振動し祝福していたであろう。勿論、グラウンド整備に携わった方々の努力にも感謝。

日本は台風銀座にあたり、急峻な山から海までの距離が短い地形を踏まえるとダムの設置や河川改修工事費が高くなることは仕方がないが、安心・命との引き換えならば納得だ。景観に拘るあまり大迷惑をかけた事例が今回もあった。

堤防の材質としては土砂盛土は容易に崩される。さりとてコンクリートも案外多孔質で長時間の圧力がかかると水は浸透する。もとよりコンクリートを混和するときに界面活性剤を配合することがある。生コンの流動性改良である。このことも水と馴染みが良いので水は浸透し易くなる。なので、コストは高くなるが、撥水性のある樹脂をセメントの親和性のある改質処理をして配合するのもありだと思われる。コンクリート建造物にはポリビニルアルコール繊維やポリプロピレン繊維がコンクリートの靱性を高めるために配合する事例があるが、河川護岸に利用することもあろうかと思う。

また堤防の形状は越水した濁流は恐らく反対側で渦巻き流により堤防の足下から中盤を崩す作用をするので、スーパー堤防が提案されているが裾が長いので適用は容易でない。当然ながら航空機、車両などの航空力学をも参考に計算された形状だろうが、魚・鳥や虫の自然生物の形状にヒントがあるのかも知れない。新幹線の先頭車両をカモノハシを参考にしたが、それも近々引退し、次の形に移行しているように常に見直しがあるように。

治水は文字通り河川をおさめる意であるが、「治」には「先」の意味もあると見たことがある。(素人解釈だが)先憂後楽にも通じるのだろう。

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