理化研(和光)オープンキャンパス

先週土曜日(421日)はRIKEN(理化研)キャンパスオープンとあって和光市駅前から無料バスを待つ市民が長い行列。親子連れ、中高校生の団体などが解放された研究設備やセミナー聴講を楽しむ和光市あげての恒例行事。バスを利用しない場合は和光市駅から徒歩で行くのも楽しみの一つ。舗道にはH、He、Li、Be・・・周期律表の元素プレートが埋め込まれていて、辿って行くと理研に到着する仕掛けができている。ニホニウム道路と称する。途中にニホニウム発見を記念したモニュメントが当方も関係した企業の寄付により建立されてい

産業総合研究所、材料研究所と並んで国立研究所の一つである。平穏なキャンパスも、この日は若い学生・子供の流れが交錯する活気溢れる場に変貌する。木漏れ日の下や池の周辺でお弁当を拡げる風景に学生がサイエンスに興味を持って育ってくれると良いですねと案内役と話す。

最近ブームの脳科学研究棟には長い行列。一番キャンパスの遠い地区にある仁科RIBFに脚を伸ばす人も多かった。日本で初めて発見・確認された元素番号113ニホニウムの誕生現場を一目見たいのがその理由。地上2階、地下3階を貫く巨大な装置に驚く(写真注90度回転して下さい)。

自分の知っている周期律は精々4行目までであとは飛び跳び状態。自然界での発見はフランス、ドイツなど当時の化学先進国がリード。ウラン以後の超重元素は合成によるので大規模な加速器(サイクロトロン)・検出器を所有する国が占めている。米国、旧ソビエト、ドイツが競っている。日本は所有していた加速器が占領政策で東京湾に投げ捨てられるなど基礎研究するにも装置も予算もない状態からのスタート。よくぞここまでと感慨にふけるが説明員も力が入っていた。さぞ関係者全員が多くの苦労したのであろう。異なる元素の一方の原子核を1秒間に10兆個を片方の元素に当てて融合させようとしても、なかなか当たらない。100日、200日昼夜連続しても結果がでないこともあると説明されいたことが印象的。万々一の何乗かの確率で当たって融合し中性子を順次放出し崩壊して既知の元素に到達したことを確認することを数回実績をつまないと認められない気の遠くなる仕事である。

非常に高度なサイエンスを分かり易くするための工夫、簡単な模型などが容易されており、説明員の語り方も平易な言葉を使うなどキャンパスオープンに慣れている。市民からはニホニウムの発見で医療・新材料への展開はどうなりますか?と素直で直球質問があったが「分かりません」と。面白かったのは原子核を強く当ててはどうですか?との質問には、いやソフトに優しく当てるのがコツです。強いと相手が融合しないで弾き飛ばされるのでダメと。なにやら人間関係と似ていますねと笑い。成果の結論がでるのはきっと100年後。楽しみにしましょう。今後は119番に狙いを定め仁科RIBFの予算を集中させるとか期待しましょう

当方がかねてから興味をもっているのは中性子発生装置の小型化。橋梁、ビル、トンネルなど経年劣化を現在は超音波やX線の非破壊試験装置で実施しているものの、測定可能の厚みに限界がある。一方、中性子はコンクリート30cm奥の鉄筋の状態、水たまりの状態を鮮明に撮影することができる。問題は中性子発生装置と中性子を受け止める装置の小型化。2013年に大竹教授を中心とするチームは長さがおよそ10mまで小型化することに成功している。水から水素イオンを発生させ7MeVまで加速させBeに衝突させて中性子を発生させる。発生した中性子を受け止めるには鉛、炭素、高密度ポリエチレンの塊が採用されているが、それだけで20トンもある。なのでトラックに搭載して実用化するには更なる小型化と軽量化が求められる。5年経過した現在の状況は非開示研究棟で組立てをしているとのこと。建造物60年寿命問題までには間に合うことを期待している。 

理研は形式上縦割りの組織ではあるが、垣根がなく水平展開し易いダイナミック性を持っている。先端アカデミック、サイエンスの成果を民営化するDNAを昔の理研コンツエルンにみるように潜在的に持っている。この動きは今後大いに注目される。

 

 

 

人工知能と知的財産生産性

AI (人工知能)やロボットが発達すると製造現場やスーパーのレジ打ちに限らず、会社の意思決定者も合理化の対象になることが言われている。 第一の意思決定者はGMであるが、名前の通り事業に関連したゼネラル的事案に精通し、拡大・縮小の決定を経営者に上申する立ち場である。経験や部下の集めてきた情報を基に判断することだけでは不安。そこで上司が納得するネームバリューのある調査会社を活用することがある。横文字の認知されている会社がよく採用されている。調査会社が万能かといえば、調査できる対象者・ネットワークは限定されている。ある調査会社から教えて欲しいと依頼があり、雑談的に対応したことがある。後日、ある企業を訪問したとき「〇〇調査報告によると、あなたと同じような意見がありました。なるほどと納得しました。」と。顔は平然のフリをしたが、腹筋は笑いを抑えるのに震えていた。この会社を笑えないなぁ。当方の会社も横文字というフィルターに弱いと

AI時代ではこのような管理職、役員は失職する。ネットでは抽出できない生の声を自分で集め、信用できるか否かを判断できる能力があり、初めてユーザーの心を反映した方針を立てられるのではないだろうか。偉そうに言っても小生の検索入り口の一つはネット。先日セルロースナノファイバーのある機能をネットで検索した。アウトプット順番4位にあったのがコスモサイン合同会社の自分のブログ(笑)。 

さて、物づくりに重要なのは知的財産である。「だよね~」の商標登録などはAIを使えば、天文学的組み合わせで商標候補がアウトプットされ出願はできるだろうが、生産とはほど遠い位置に有る。防衛か嫌がらせである。AIは補助者であっても主役に決してなれないのが発明。ディープラーニングが進んで過去の整理は得意でも新規技術開発はできない。過去の特許・技術から「容易に類推できる発明もどき」はできても、それは発明特許の要件を満たしていないので直ちに特許庁から拒絶される。

工業的価値のある材料・成形法などは発明出願日から実用新案10年、特許20年と長く保護されている。特許に抵触した場合は損害賠償責任を負わされる。出願にあたり先行技術との差別・新規性、有用性など明確に記載し審査を受け合格すれば登録となる。出願はPCT(国際特許協力条項)を利用するケースが増加してきた。一旦PCTに出願し、状況見合いで各国移行する手順である。予備調査は日本特許庁が担当するので日本語出願できるのも有りがたい。アジア地区の各国特許機関は日本の特許調査・審査を高く信用しているので登録できる確度が高い。問題は欧州である。EU統合に伴い特許制度も変わるものと思いきや、「会議は踊る本場」だけに一向に決まらず、各国個別出願を余儀なくされる。これでは出願費用が問題で、次第に敬遠しつつある。EUにとっての物づくり・発明拠点が今後、色あせていくことであろう。米国がTPP参加した場合の知的財産の有効性は強くなると予想されるだけにEUも変わらざるを得ないと予想する。

では知的財産の生産性はどうかと問われると、これに対する答えがない

    研究開発者の側に特許明細書専門家が常駐して、実験結果が出たら出願準備

    研究開発者が先行文献調査、明細書も自分で作成し、仕上げを専門家に委任する

    弁理士事務所にA4一枚程度で要旨を説明し、作成~出願まで委託する

生産数では①が多い。実験の途中で明細書担当から比較例を増やして下さいなど注文がはいり完成度が高くなる。一方、技術の真意が伝えられず隔靴掻痒的文書になることもある。

    は研究開発者の負担が大きいことと、明細書作成になれていないので出願よりノウハウにしておこうなどの心理が働く。 しかし研究開発者の実力は確実に付く

③は資金に余裕があるか、社内に適任者いないので逼迫しているのかどちらか。

トータルで考えると研究開発者が明細書を書くことが好ましい。実験計画を立案するときから効率的である。但し、出願15件程度までは巧拙や成立成績を問わないことがポイント。徐々に特許出願のコツがつかめてくる。この時の上司は育成サポーターとして面倒をみることが重要である。いずれ世界のフィールドで大活躍することを期待して。

経糸・緯糸

中島みゆきの糸は結婚式披露宴での定番曲である。「♪なぜ めぐり逢うのかを私たちは なにも知らない。いつめぐり逢うのかを 私たちは いつも知らない。縦の糸はあなた 横の糸は私。織りなす布は いつか誰かを 暖めうるのかも知れない。」

意味するところは深く誰でもその通りだなぁと共感する。但し、ただ一つを除いて。それは「縦の糸、横の糸」である。技術屋としては「経の糸、緯の糸」と書いて欲しかった。シンガーソングライターは理解される言葉を使わざるを得ないことは分かっていても、歌がこのクダリになると違和感を感ずる。経緯の発音は同じ「たて、よこ」で地球儀の経線、緯度だと言えば分かる人が多かろう。

一番簡単な織りは平織りで経糸と緯糸が直交する形でシッカリした生地ができる。多少緩みが欲しいときは綾織りなど数十種類の織りパターンがある。日本のお家芸であった織物は特殊な事例を除いて中国を始め開発国にシフトしている。その結果 生地の多くはポリエステル製となった。

その理由は経糸にどの繊維を選択するかによって生産性が高く安価にできるかにある。経糸は原糸に撚りを掛けて繊維を束(撚糸)にして強度を高め、撚糸の束を捌いて(整経)必要なら糊付けを施す。これを織機の筬(おさ)に一本一本はめ込む、3~5本纏めて通すこともある。経糸の本数は織物サイズによるが何千本・何万本もある。この作業は半日から1日掛かりであることから、織機稼働中に一本でも切れたら生地はお釈迦で最初からやり直しとなる。そこで選択される経糸は切断し難い合成繊維で汎用ポリエステルが最も利用されている。ナイロンもあるが、湿度によって経糸の張力でクリープするので敬遠される。ナイロンのもっている特性はポリエステルファイバーの断面形状を工夫することで対応しているのが実態である。

合成繊維なれば糊付けが不要。緯糸はどのような糸でも適用することが出来る。コットン、麻(ラミー)で肌触り対応商品など。緯糸の送り速度は1秒間に10~20本と超高速(ウオータージェット方式)なので、現場の織機を見学してもサッパリ分からない。原糸・撚糸・整経 糊付けなど経て糸の自動装置は関東であれば東京都立産業技術センター多摩(西立川)で見学することができる。その他福井・愛知三河の工業技術センターでも各種織機を見学でき、一部研修することが可能なのでお試し下さい

さて、冬には暖かな肌着が定着している。どんな仕組みだろうか。メーカーは開示していないが生地に肌からの水分を吸着するときに発生する凝集熱(気体が液体に変化する際の運動エネルギーの差)によるものと推定されている。高い吸湿性材料繊維にはレーヨンや高い吸湿性を付与されたアクリレート系繊維が利用されている。吸湿した水分を肌着の外に追い出し、熱が長時間持続できるための織りパターンや他繊維との混紡など工夫がなされているのではと推測される。夏の肌着は肌と接触する層は高い吸汗性、中間層に汗を周囲に移動させる拡散層、外側に汗を速く蒸発させる蒸散層の多層構造など素材・織りパターンを組み合わせた商品が開発されている。

この多層構造をみていると人工歯の構造を多層構造にするとどのようなことになるのであろうか、コア層(歯床接触層)は噛合い圧力センサーとして神経への伝達層となり、その外側が弾性変形ループ復元性層、そして最外層が適度な硬度と摩擦摩耗特性のある材料になるのか。歯科医、技工の方々のご専門の立ち場から想像してみるのも面白い。実用化するには3Dプリンターだろう。何年か後の論文に「要旨、経緯、緒言、本文、纏め」として掲載されるかも。その時の経緯の意味は「いきさつ」。

熱硬化樹脂リサイクル

先週のブログではポリカーボネート樹脂の光磁気ディスクのリサイクルを採り上げた。この樹脂は熱可塑性樹脂に分類され、融点を持ちそれ以上の温度では軟化・溶融するので成形時には溶融温度以上で溶融体として射出成形、中空成形、フィルム・延伸成形などで製品化することができる。ポリエチレンやポリスチレン、ポリプロピレン、ABS、PET、ポリアセタール、ポリアミド(ナイロン)から歯科外科材料になりつつあるPEEK、PKK(ポリケトンケトン)などのスーパーエンプラもこの分類に入るので基本的にはリサイクルは可能

一方、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などは熱硬化性樹脂といわれ、加熱による溶融はしない。三次元架橋体である。フェノール樹脂は日本人には黒色の電灯ソケットで松下幸之助が開発したとなっている二股ソケットをフェノールとホルムアルデヒドを縮重合したベークライトで製造したことから馴染みがある。寸法精度がよく、難燃性、耐熱性を兼ね備えていた。現在は光ファイバー接続部品や機械部品のギアを金属をフェノール樹脂が置き換りつつある。前者は寸法精度、後者は厚さが5cm以上のギアであっても内部に空洞がなく、かつ摺動性があり軽量であることが理由である。

メラミンは食器や浴室介護部品として、エポキシ樹脂はガラエポ(ガラスエポキシ積層体)として電子回路基板にはなくてはならない樹脂。不飽和ポリエステルはガラス繊維複合によりプラスチック漁船、遊具、浴槽など広範囲に利用されている。SMCもこの範疇に入る。

ウレタン樹脂は低温衝撃に優れ、水による発泡成形も可能であるところから、自動車、家具の緩衝シート、冷蔵庫の断熱材として使用量は多い。最近は熱可塑性ウレタン樹脂も相当浸透しているが、架橋の熱硬化性樹脂の割合が高い

熱硬化性樹脂は再溶融できない。従って①サーマルリサイクル(燃料)②モノマーまで化学分解 ③熱可塑性樹脂の中に充填物として配合する。3通りが「リサイクル」がある。

②のモノマーまで分解すると、素原料として利用できる。手法としては超臨界状態、亜臨界状態での分解が知られており、多くの企業が研究開発を進め、パイロットプラントを建設して検証作業を進めている。

超臨界状態は固体・液体・気体ではなく、特定の圧力・温度条件下では液体でも気体でもなく気体の活発な分子運動と液体の溶解性の両方を有する媒体となる。(図-1http://www2.scej.org/scfdiv/scf.html) 水は374℃、圧力218気圧で、炭酸ガスは31℃、73気圧で超臨界状態になる。超臨界状態で処理することで結合が切断されなど反応の場として利用することがある。分解には触媒としてKOHなどを併用することもある。

超臨界は多くの分野で利用されているが、初期のころは超臨界反応槽の材質も劣化させることから金属材質の適性化研究がなされた。もしくは若干マイルドな亜臨界条件での開発が進んでいる。だがしかしながら、製品量と処理量のバランス(コスト面を含め)がとれていないのも現実であり、サーマルリサイクルか埋め立てがメインとなっている。

 

 

ウレタンは特に冷蔵庫の断熱材として抜群である。理由は発泡性に加え、複雑形状に合わせて賦型できることにある。このウレタンをスマートにリサイクルできないか研究者が福井大学の橋本教授が2007年に提案している。ウレタンも200℃以上・高圧超臨界条件でケミカル分解すれば不純物濃度が高いモノマーを得ることは可能である。但し、橋本教授はポリオールにアセチル基を導入しウレタンを合成した場合、常温で希薄塩酸処理により純度の良好なポリオールが回収できること見いだした。

 

③の熱可塑性樹脂への配合 

一般的に普及してはいない。理由は熱硬化性樹脂は異物であって、衝撃強度を低下させる。そのため、熱可塑性樹脂には例えばガラス長繊維で十分な衝撃強度を確保でき、その中に増量剤として配合できる製品に限定される。当方が25年ほど前にポリプロピレンのパウダーを水中に分散させ、同時にガラス長繊維を共存させて混合、乳白色に混合したころを見計らって抄紙方式で脱水・乾燥・加熱プレスをして頑丈なボードを製造したことがある。ある日不飽和ポリエステル製のヘルメットを粉砕して、この系に配合したところ、機械的強度は寧ろ向上し衝撃強度も満足することが判明した。コンクリートパネル適性も合格した

これは異種材料への配合であるが、同種材料系への配合が最も品質的にも安心できる。

具体的には歯科技工模型で利用されているウレタンディスクを微粉砕し、ウレタン原料に混合し重合したところ、収縮、外観、衝撃、強度いずれもバージン原料で製造したものと同等の品質を得ることができた。ウレタンディスクは欧州を中心に歯科技工では利用されているが、国内では高価であることから普及レベルは高くないが、切削残り分はディスクの全体からすると結構な量であることから、リサイクルによるコスト低減の可能性はある。

CD・DVDリサイクル

何年ぶりだろうか、CDショップを訪れた。30数年前に流行った曲が再燃しているとあって、当時のCDもしくはカバーCDがあるだろうかと。横浜でも最大のショップ。昔はビルの中心部を占めていたが、今は地下の一角に、日曜日だというのに訪れる人も疎らで中高年が目立つ。イマドキCDを買うのは時代遅れなのか、デジタル配信が中心になり、わざわざ出かけることもなく安価に手に入れることができる。モバイルに保存して通勤時に愉しんでいる。イヤホンコードがやがて無くなりBluetoothになるのも時間の問題かと思われる。著作権に疑問はあるが、You TubeからMP3に無料ソフトでダウンロードできる。DVDにも転送することができる。これら一連の操作を苦も無く若い人はサッサとできる。中高年はそうは行かないのが現実だ。

話は脱線するが最近のクルマ「コネクテッドカー」電話はBluetooth,ナビの行く先は音声入力、センターとのガイダンスを受けることも可能、Google機能搭載・・・・。昔のクルマ運転の腕のみせどころは坂道発進、スマートなコーナリング。なめらかな縦列駐車だったが、今はこれらの電子機器をスマートに使いこなせないとダサいと評価される。確実に時代は変わった。

話を戻す。CDは透明なポリカーボネートを基板として、その上に色素記録層や金属反射層、保護層、下塗層、塗膜層、ハードコート層、反射防止層などが設けられている。ご存知の方が多いと思うが、CD、DVD、ブルーレイは主としてケミカル会社が製造販売している。アルミなど金属反射材料以外は化学品であることと関係している。特に色素記録とは有機化合物に光が照射されると分子の形が変化する/変化しないをデジタル信号1,0,1,0.・・・として記録するもので機能性色素を開発した。

20年前はCD、DVDの生産量が増産につぐ増産状態で、製造に伴う工程内不合格品をどうするかが問題であった。「リサイクルをしよう!」かけ声はいいが、色素、金属反射、ハードコート層などを除去する必要がある。これらが少しでも異物として残留すると光を乱反射させ正確に10101を刻むことができない。ポリカーボネートをプラント製造する場合に最も気を遣うのは微粒のゴミである。製造プラントからローリーで輸送する場合も窒素ガスを封入して圧力を大気圧より高くして、外部からの混入を回避している。

そのCDからゴミのないポリカーボネートを回収することは1000%無理と判断する人が多いなか、社長からトライしてはどうかと背中を押されて検討し始めた。その頃、写真フィルムや偏光フィルムをリサイクルしている会社が南足柄にあることを知り、写真の感光剤が残留しない技術に驚き共同研究を開始。プラントも同社内に建設し営業生産を開始した。再生ポリカーボネートをDVDや自動車部品へ利用することができた。CDと自動車部品では要求品質が異なるので、再生品を原料とするコンパウンドでは分子設計に工夫をこらした。ご興味有る方は特許・特開2006-89509を参照願いたい。

この研究が切っ掛けでNEDOの3R諮問委員として活動した。30年後の3R政策にアドバイスするものであるが、めったにない良い経験をした。背中を押した社長のもう一つの思いを知ったのは後だった。

 

赤ワイン

前週ブログ俗説(1)でアルコール分解酵素について紹介したが、アルコールに強い人からは、それだけの蘊蓄?と次を催促する声がありましたので、化学材料屋的な蘊蓄をご紹介します。特に赤ワインを好きな人にお贈りします。ワインにはテイストが付きもの。ワイングラスをゆらせて香り成分を嗅ぎ、次に少量を舌の上にして味を分析する。その瞬間名人なら何処の農場で育成された葡萄で、熟成何年モノ・・・を見定めてゲストに愛飲を進める手順である。ここで、人間は実に化学的に大変なことをしていることに驚く

まず、(1)香り成分の分析であるが、通常の化学分析では熱分解ガスクロマトグラフを利用するが、これでは香り分析はできない。サンプルを加熱し、揮発する成分の分子量・構造を特定する装置であるが、成分が多い化合物を香りと勘違いすることがある。成分がガスクロマトクラムでは検出量が微量でも香り成分だと特定する必要がある。ここは従来の装置では無理。前職の研究所では「鼻ガスクロマトグラフ」を発明した男がいた。初めは「鼻」と嗤っていた社内も業界もやがてその効用を認めるに至った。それは熱分解ガスを装置に接続すると同時に途中で鼻でも検知する簡単な組み合わせからなっていて、チャートに記録されるピークに鼻で感ずる時にマーキングをする手法。これで装置での検知濃度は少なくても人間の鼻では強く検知していることが分かり、後は化学成分を特定する作業に入る。適用は安全性が確認されているサンプルに限定されるが、人間の鼻さえガスクロ以上の分析機能がある。犬ならその100万倍以上の能力がある

(2)赤ワインの味を人間はどうして検知しているのか? 

赤ワインを舌にのせた瞬間に葡萄外皮の多糖類を腸内細菌が加水分解して13種類の糖類を生成していることが判明している。味が異なるのは13種類の化合物の比率が違うからである。

味気ないかもしれないが、品種、農場、天候などが比率を変化させるのであるから、外皮の分析から特定糖類をブレンドすることで平準化することは可能。勿論マーケットの特徴を反映して特定糖類を強化したグレードを発売することは可能だろう。将来の蘊蓄としては「この赤ワインはL―アセリン酸が強いね。D―キシロースを増量したら更に美味しくなり、肉なら神戸牛に合うね・・・」なんて格好良くサラリと言うには紳士・淑女風格が必要であることは言うまでもない。それとも野暮?

以下、その化学的根拠についてポイントを記載する(詳細は現代化学3月号・竹中・坪井氏論文を参照願いたい。)

*赤葡萄の果実はセルロースと蛋白質で構成された硬い外皮で保護されている

*その内側に柔軟性のあるペクチン(複合多糖類)のネットワークがあり

*ペクチンにはラムノガラクツロナン(RGⅡ)のゲル状分岐糖類が弱く結合している

RGⅡには腸内細菌の一種(Bacteroides thetaiotaomicron)が反応し自己ゲノムに含まれる酵素群で単糖に分解する。

竹中・坪井氏はハイテクワインが製造できるかもと記述している。一方で脚を棒にして折角客人のために探し求めたビンテージ。簡単にブレンドで「もどき」ができてたまるか!ご馳走の意味を分かっているか!と主張するご仁にも理解はできる。でも腸内細菌が元気でいることがワインを愉しむ条件であれば、健康体で明るくワインを愉しみましょう

最後に、ワイングラスの形は胴部より上部の径が小さい曲面形状。ワイン中のアルコールは手の温度で蒸発し、上部で冷却されて元に戻る。このとき、ツツーッと液滴が落ちる列の間隔は等間隔。通常「ワインの涙」と言うが、131日付けブログで非平衡系の自己組織化・散逸構造の一例である(慶応義塾 朝倉教授)。蘊蓄の一つに加えては如何でしょうか

(図13種類の糖分子と4種類の修飾糖基)

俗説への挑戦 新技術の芽

俗説の代表格「酒は飲む訓練をすれば飲めるようになる」であるが、東大医学部の中川氏が「赤ら顔となる深酒は食道がん、咽頭がん、肝臓がん、乳がん、大腸がんなど、多くのがんの発症リスクを高める」と警鐘。27日付日経夕刊)。 現在では俗説は間違いとようやく浸透してきた。ノンアルコールでも会食時の違和感は薄れてきた感がある。エタノールが脱水素酵素と酸化酵素の作用によりアルデヒドに変化し、アセトアルデヒド分解酸化酵素で酢酸・炭酸ガス・水へと変化する工程で、アルデヒドはDNAの二重螺旋構造を傷付け修復不可能になることが判明している。分解酵素をつくる遺伝子にはD型が元々あり、中国南部でD型がN型に転換。日本では縄文時代ではD型、弥生時代はN型。その後は両親の遺伝子組み合わせからDD50% DN45% NN5%となっている。DD型は九州・四国・関東・東北・北海道に多く、中部・近畿はDN型、NN型が比較的多い。N型からみると何故Dから中国南部で転換したのか知りたいところである。

俗説(2)食物アレルギー発症回避のため、高アレルゲン性食品を妊娠中や授乳中に母親が食べないようにしたり、離乳食を始めるのを遅らせてきた。しかしながら、この予防法が却って食物アレルギーを増加させていることが判明している。2006M.Karamerらがメタ解析により解明しており専門家は熟知、でも母親の心理面からは受け入れられていないのが実態であろう。離乳食を早め体内での免疫寛容を形成させ、その後の皮膚を通じてのアレルゲン経皮感作を抑制する方が好ましいのではないかとの仮説を動物実験で検証している。 (現代化学20182月号)

俗説(3)ポリカーボネート製ほ乳瓶は危険。重合成分であるビスフェノールAが超微量存在するとオスの魚がメスに変化する。カナダの小説家が「失われし未来」として出版。超微量とは当時の分析機器でも検出限界程度であり、それより高い濃度であれば影響がない。・・・まか不思議な理屈? 企業は言い訳を後回しにして即刻当該用途・類似用途への販売は中止した。今も販売はしていない。問題はここからが肝心なところで、サイエンス的解明を確実に実行して根拠のない妙な小説と区別することである。

ビスフェノールAはエストロゲンの一種であるが、人類・動物が排泄する量が圧倒的に多いと言いつつも口に出さずに、グローバル企業が相互協力して莫大な資金で研究解明を地道に積み上げ「完全シロ」を得た。もう一つ得たものがある。それは超微量成分分析技術。小生も本件に係わったが、欧米巨大化学メーカーのトップのサイエンスへの真摯でサイエンスに対する姿勢を見たことは有益だった。

俗説(4)特異性質を有する高分子ABを混合して両方の高分子の長所のみ有する材料とする技術はポリマーアロイとして発展してきた。マトリックスをA、ドメインをBとする海/島構造の場合Bのドメインサイズを微細化する程、長所を引き出すことができるとあって、技術者は10ミクロン→5ミクロン→3ミクロンと平均ドメインサイズを微細化することを競っていた。一体どこまで微細化すると良いのか分からずにである。理論的理想値を発表する大学教授が東京地区におられた。業界では著名人だけに有りがたく信用した。1ミクロン以下になると性能は発揮できないと言うモノ。1ミクロン以下のドメインを製造することは困難なので、多分1ミクロン以下は価値がない、工業用途には2~5ミクロンで十分だとして微細化競争は終了。小職も別の形態へ挑戦し2種類のアロイ形態を開発し特許化した。企業として微細化技術開発に突進していては新規形態開発を出来なかったが、あの時の某教授の話に少し疑問が残った。この教授も当方もミクロン単位での制御技術しかなかったのが本音である。恥かしながら小生も俗説化していた。

<新技術への挑戦と芽とは>

今はナノを通り越して分子レベルでの制御が可能となっている。京都大学の中條教授(高分子学会長)は原子ブロックハイブリッド高分子の分子設計と製造法を開発した。また同じく京都大学の植村准教授は多孔性金属錯体(MOF)内に高分子の素であるモノマーを孔に閉じ込めて重合させることで、従来のポリマーアロイでは得られない異種組み合わせからなる新規高分子アロイを開発した。ハイブリッド高分子は工業用途のみならず創薬・医療向けに発展が期待できる。次世代歯科材料の有力候補になると予想できる。MOF利用ポリマーアロイは光学用途・人工DNA・蛋白質など新分野開拓するのではと小生は予想する。何れも俗説を見事に払拭して高分子の新時代を開いて頂いたと高分子に長年携わってきた小生は感謝している。

植村准教授(京大テック発表資料からMOFとは)

5Why

自動車完成検査問題に端を発して続々の首脳記者会見。日本のもの作りは大丈夫か?と疑問を多くの人は持ったことは確かだろう。でも極論を言えば完成自動車検査問題は罪が軽い。大凡10万ものパーツからなる自動車を最終的に人が検査できない。法律が現実に置いてきぼりされているようでもあるがソクラテスが言う法は法。

もの作りは上流の素材・加工・組立て・モジュール・組み込みなどの工程を経ている。例えば樹脂素材を例に挙げれば、ナフサ中の硫黄など不純物含有量チェック、ポリオレフィン製造の場合はエチレン、プロピレン中の異性分の分析、触媒組成チェック、触媒保管チェック、重合反応装置材質変化、不活性化ガス成分チェック、重合条件モニタリング、溶融樹脂粘度・発熱状態のチェック、押出機内の圧力・温度モニタリング、ペレット粒サイズ別分級、髭・粉分析、分子量、分子量分布、添加剤配合量チェックの上流工程で製造されて最終の出荷検定項目で合否を判定される。出荷検定数より遙かに多くの工程分析からフィードバックされてスペック幅に入れる製造能力があれば、自動的と言っても良いほどスペックに合格する。自動車部品の多くはこれと類似した工程で製造されている。 

罪が深いのはデーター改ざん。上流からの工程管理精度を向上する努力・投資をせずに競争力が高いと装うことは信頼が基本の仕事の流儀から逸脱している

新幹線N700台座問題。記者会見では設計が粗く、他パーツを取り付ける際に肉厚8mmを1mm研削して肉厚7mmとするまでは許容するとの品質基準があるものの、実際は現場に委任されていて最大3.9mmまで研削した事例もあるとのこと。強度は厚みの3乗に比例するので、この箇所は設計の1/8.7しか強度がないことになる。この会社は新幹線300系の時代から代々担っただけにエッ?と思ったのも事実。当時の現場には設計者と対等に渡り合う叩き上げの熟練技能者が存在し、設計と実際の成形上の不具合調整を議論したであろうが、今はいないのであろうか?と考えてはいけない

「トラブル原因を人のセイにするとトラブルは再現する」前職時代トヨタとの付き合いで学んだポイントである。最終的に研削して寸法合わせしたのは現場。でも合わせざるを得なかったのは何故か?超高張力鋼鈑をコの字形状にプレスし溶接により中空体を製造。その上にパーツを接合する。その間隙調整に研削や肉盛りをしたことが直接原因。しかしその前に、設計者は鋼鈑が超高張力になればなるほどプレス後にバネのように戻るスプリングバックして最終寸法にならないことを計算に入れていただろうか?プレス現場で学習したのであろうか、現場研修させるシステムがあったのだろうか。それをCADの中でどのように設計基準に入れ、肉盛残留応力問題をどのように処理したのか。。。。。組織の問題に置き換えて深く掘り下げる必要があろう。苦しい作業になるがこれを乗り越えると脱皮した企業体になることが期待される。是非トライして欲しい。川崎重工の世の中での役目は誰もが認識している。無くてはならない企業である

15年ほど前、東京で明日のプレゼンの用意をしていた19時頃にトヨタ関連企業から電話。「今から逢えませんか?何時になっても良いから待っている。」 公用に自家用車使用は認められていないが、東名を疾駆し駆けつけた。この企業とは某用途で開発を企画したが、最初の段階で想定クレームとそれに対する5Whyを整理するところから入った。まだ販売していない段階、それも開発をこれから着手する段階にて。これには正直驚いた。一次原因は***で、この更なる原因は****で・・・・の何故?何故を5回繰り返すことでコア部の問題点を明らかにする5Why。噂には聞いていたが、実際は大変な作業である。このとき感心したのは

「トラブル原因を人的要因もあるとした対策案はことごとく拒絶された」ことである。

トラブルを起こさざるを得なかった人的背景要因に組織はどう関係しているのか?を深掘りしない限り5Whyまでは到達しなかった。5Whyまでに到達するまでに何度も脚を運び都度勉強することが続いた。先の東名疾駆は何回目だったか忘れたが、先方との信頼感が5Whyを通じて強化されていくことを実感した。帰路の裾野付近から箱根越えのダラダラ登り坂はアクセル踏む脚力には厳しいなかにも、5Whyの効用を味わえたのは貴重な経験だった

現在の働き方改革云々では威張れる話ではないが、どこかでは必要なんだろうと思う。

CNF(セルロースナノファイバー)

数年前の統計だが国内年間使用材料の数量と容積比データーが手許にある。第1位は石・セメントで15億トン、第2位鉄1.2億トン 第3位が木材・紙の0.45億トンである。因みに4位はプラスチックス0.15億トン、アルミが0.025億トン。重量ではこの順位になるが、例えばプラスチックスの容積比を1とすると鉄は0.9と体積ではプラスチックスが鉄より比率は高い。比重が違うので当然この結果となる。自動車は内外装にはプラスチックス、鉄(鋼鈑)は強度が要求されるホワイトボディに採用され軽量化と車両としての骨格を分担する機能で成立している。今、鋼鈑はより比重の低いアルミから攻勢が掛けられ、鋼鈑・アルミは炭素繊維複合プラスチックスに攻勢を掛けられている。エンジンからEVへのパワートレインが変化すると更に軽量化が要求され、鋼鈑としては強度を表す高張力鋼板は15年前までは780GPa前後だったのが、現在は1700GPaまで改良され、薄肉・少量鋼鈑で対応している。アルミ、プラ、高張力鋼板のせめぎあいは見事である。共に切磋琢磨することで自動車以外の分野にも拡張している。

上記の材料の中で一人沈んでいるのが木材・紙である。重量比、体積比ではおよそプラスチックスの3倍の需要があるものの、人口減少に伴う建築軒数の削減、雑誌・新聞は紙媒体から通信機器に取って代わりつつある。医療関係では電子カルテになり、医療費支精算までラインで繋がり、紙が存在するのは患者番号切符と領収書のみ。さらに手術室等のリアル空間記録も紙では対応できない。そんな影響を直接受けるのが製紙メーカーである。

その製紙メーカーが切り札として開発を進めているのがCNF(セルロースナノファイバー)である。紙の原料であるパルプの繊維1本の太さは10~20ナノ前後で長さは測定できないくらい長い。繊維の長さ/太さ=アスペクト比と表現したとき、プラスチックスと混合した場合、アルペクト比が大きい程、引張り強度、曲げ強度、熱変形温度を改良することができる基本原則がある。炭素繊維複合樹脂材料、ガラス繊維複合樹脂材料、タルクなど無機充填剤複合樹脂材料などはこの原理原則を利用している。

さて、このCNF。アスペクト比はこれらの複合材料に比較すると圧倒して大きい。但し繊維1本、1本を解くことができること(解繊)が前提である。セルロースはご承知のように親水基を分子内に多数あり、相互に水素結合しているので解繊が困難である。そこで化学的修飾して解す(東大磯貝教授プロセス)、または高圧水や機械剪断利用して解す(京都プロセス)など工夫されてCNFとしている。

多くは水溶液として得られる。濃度は1~2%。水溶液の形で利用しているのは化粧品やボールペンのインク滑らかさ改良である。量的に大量消費が見込まれる樹脂に配合するには100%まで濃縮・乾燥する必要があるが、過程中に親水基が再凝集することもあり、かなり厄介である。可能となれば物性は期待できる。

例えば繊維の太さが人間視野波長より細いので透明樹脂に配合しても透明性を維持し、かつ繊維の数が多く、相互に絡みもあることから、樹脂の線膨張係数が小さく、機械的強度が向上する。製紙メーカーとしては樹脂複合材として自動車・航空機の材料になることを期待して中規模プラント建設をした会社がある。原料が針葉樹パルプ以外にも竹由来のCNFもあり、また鳥取県では蟹の殻のキチン・キトサンを原料したもの、愛媛県ではミカンの皮を原料にしたものなど地域特徴をだしたCNFの開発を進めている。蟹由来は医療用にミカン由来はジュース粒の沈降防止などが利用されている。ソフトクリームが夏場でも長時間維持できることを経験した人もあろう。

ここで本命のパルプ由来について果たして目的の自動車・航空機に利用できるか? 言うまでもなく木材は炭酸ガス固定として有為の存在であり、違う目的で再利用できることは大きな意味をもつ、単なる製紙メーカー救済策ではない。17年ほど前、前職時代にナタデココから採取したナノファイバーをアクリルに配合して透明で屈曲できるウエアラブル・ディスプレーを開発した仲間がいた。その途端、ガラスメーカーは薄く屈曲できるガラスを発表した。喰われる方のメーカーは容赦をしない。この時に深追いしなかった理由は価格。この経験から製紙メーカーには現在乾燥CNFが5万円とも言われている価格帯を500円前後まで合理化できることを期待している。是非頑張ってとエールを送る。

CNF説明資料:京都大学生存圏研究所HP http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/labm/cnf

蓄熱・蓄電

政治・経済の評論家は大変だ。数年後に正鵠を得たのは誰かと逆評論されることがある。それに比較すれば技術に関してリスクは低いと言えそうだが、さて本当か。意地悪だが手許に5年前にEV車の欠点として冬場の暖房に電気が消耗されるので、暖房には蓄熱剤搭載が必要だとのペーパーを日経テクノロジーに掲載した人がいる。偶々乗り合わせたタクシーがEV車で運転手からの愚痴をネタに蓄熱剤の利用を説いた。執筆者が文系か理系記者だか不明であるが、5年後の今はそうはならなかった。EVは徐々に浸透しているが、始動前充電させながらエアコンを掛けるか、座席ヒーターのみ通電することで対応しているのが現実である。もし蓄熱剤及び蓄熱タンクや付帯設備を搭載すると車重が重くなり、電気容量を食うことが容易に類推できる筈である。材料・設計・デザイナーは軽量化1g当たり価格を意識してミリミリ詰めているので蓄熱の発想はなかった。

しかしながら蓄熱は全く意味がないかと言えば、国家エネルギー政策上は極めて重要である。

即ちエネルギー供給源として石油、天然ガス、石炭、自然(太陽光・風力、地熱)エネルギー、原子力のトータルエネルギーを100とすると実際は35%しか利用されていない。残りの65%は発電所、大規模コンビナートでの熱エネルギーとして損失している。この65%を有効化するには蓄熱できる装置・材料があればと長年研究されている。しかしながら排熱の温度の82%は250℃以下と低いことが障害となっている。蓄熱材と熱交換する時間が長い場合、さらに温度が低下してしまう。そこで伝熱面を機械的制御により蓄熱を高速熱交換する技術開発を東北大が開発している。原理はシンプルで蓄熱している層(A)と熱を受け取る層(B)の界面の総括伝熱係数をコントロールする。東北大方式は(A)(B)からなる2層パイプとして(B)を回転させて界面の総括伝熱係数をコントロールし高速熱伝導性が確認されている。話を単純にすれば将来は発電所で発生する熱を蓄熱ローリーに充填してビルや工場に熱をデリバリーすることが可能である。実に面白いが、2層パイプの表面粗度・寸法精度など高度の成形加工技術を要する。日本の機械加工技術の底力を見せるケースである。

EV車はクルマ自体エコであるが、発電所の炭酸ガスと熱ロス問題は解決しないと完全にエコとは言えない。この高効率蓄電・熱移送方式が実現すればEVのエコに磨きがかかる

さて、カリフォルニアはEVを推進しているが、電源は自然エネルギーが好ましいとしている。ただし天候に左右され変動する。その補填として発電所及び家庭での蓄電池の設定を法制化した。現段階で蓄電池を選択するとなると、リチウムであるが、家庭設置は燃焼危険性があり、そもそもリチウム資源枯渇問題もある。EV車が全体の10%を占める時のリチウム必要量は約6万トンであるが、2013年当時のチリなど資源発掘量は37千トンでEV車使用分だけでも不足が予想されている。中国の中南米の鉱山資源獲得攻勢を強めているのも背景にあり、

リチウム代替の蓄電池がクローズアップされている。

結論を急ごう。リチウム代替候補はバナジウム(VSSB)である。蓄電池には鉛、ニッケル水素、NAS電池と種々あるが、比較表を添付する。バナジウムは資源量に問題なく、繰り返し充填疲労、高速充填の基本性能が確認されている。病院・歯科医等の無停電電源装置(UPS)としても有用。この研究も東北大でなされている。蓄熱・蓄電の両方を攻める東北大に是非とも頑張って実用化への橋渡しを期待するものである。

 (表出典 20181月東北大JST発表資料)