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蓄熱・蓄電

政治・経済の評論家は大変だ。数年後に正鵠を得たのは誰かと逆評論されることがある。それに比較すれば技術に関してリスクは低いと言えそうだが、さて本当か。意地悪だが手許に5年前にEV車の欠点として冬場の暖房に電気が消耗されるので、暖房には蓄熱剤搭載が必要だとのペーパーを日経テクノロジーに掲載した人がいる。偶々乗り合わせたタクシーがEV車で運転手からの愚痴をネタに蓄熱剤の利用を説いた。執筆者が文系か理系記者だか不明であるが、5年後の今はそうはならなかった。EVは徐々に浸透しているが、始動前充電させながらエアコンを掛けるか、座席ヒーターのみ通電することで対応しているのが現実である。もし蓄熱剤及び蓄熱タンクや付帯設備を搭載すると車重が重くなり、電気容量を食うことが容易に類推できる筈である。材料・設計・デザイナーは軽量化1g当たり価格を意識してミリミリ詰めているので蓄熱の発想はなかった。

しかしながら蓄熱は全く意味がないかと言えば、国家エネルギー政策上は極めて重要である。

即ちエネルギー供給源として石油、天然ガス、石炭、自然(太陽光・風力、地熱)エネルギー、原子力のトータルエネルギーを100とすると実際は35%しか利用されていない。残りの65%は発電所、大規模コンビナートでの熱エネルギーとして損失している。この65%を有効化するには蓄熱できる装置・材料があればと長年研究されている。しかしながら排熱の温度の82%は250℃以下と低いことが障害となっている。蓄熱材と熱交換する時間が長い場合、さらに温度が低下してしまう。そこで伝熱面を機械的制御により蓄熱を高速熱交換する技術開発を東北大が開発している。原理はシンプルで蓄熱している層(A)と熱を受け取る層(B)の界面の総括伝熱係数をコントロールする。東北大方式は(A)(B)からなる2層パイプとして(B)を回転させて界面の総括伝熱係数をコントロールし高速熱伝導性が確認されている。話を単純にすれば将来は発電所で発生する熱を蓄熱ローリーに充填してビルや工場に熱をデリバリーすることが可能である。実に面白いが、2層パイプの表面粗度・寸法精度など高度の成形加工技術を要する。日本の機械加工技術の底力を見せるケースである。

EV車はクルマ自体エコであるが、発電所の炭酸ガスと熱ロス問題は解決しないと完全にエコとは言えない。この高効率蓄電・熱移送方式が実現すればEVのエコに磨きがかかる

さて、カリフォルニアはEVを推進しているが、電源は自然エネルギーが好ましいとしている。ただし天候に左右され変動する。その補填として発電所及び家庭での蓄電池の設定を法制化した。現段階で蓄電池を選択するとなると、リチウムであるが、家庭設置は燃焼危険性があり、そもそもリチウム資源枯渇問題もある。EV車が全体の10%を占める時のリチウム必要量は約6万トンであるが、2013年当時のチリなど資源発掘量は37千トンでEV車使用分だけでも不足が予想されている。中国の中南米の鉱山資源獲得攻勢を強めているのも背景にあり、

リチウム代替の蓄電池がクローズアップされている。

結論を急ごう。リチウム代替候補はバナジウム(VSSB)である。蓄電池には鉛、ニッケル水素、NAS電池と種々あるが、比較表を添付する。バナジウムは資源量に問題なく、繰り返し充填疲労、高速充填の基本性能が確認されている。病院・歯科医等の無停電電源装置(UPS)としても有用。この研究も東北大でなされている。蓄熱・蓄電の両方を攻める東北大に是非とも頑張って実用化への橋渡しを期待するものである。

 (表出典 20181月東北大JST発表資料)

日本の研究・COM

日本の研究・COMは大学・公的研究機関が発表する最新の文献・情報発信のWEBである。

大雑把に我々の税金がどのような研究に投入されているのかリアルでみることもできる。

昨年の研究費及び論文数はピーク時の10%ダウンであり、巷間言われている日本の技術停滞を如実に表わしている。因みに研究費総額6,530億円 論文数81,403件。過去5年間トータルの研究費は3.4兆円。医歯薬関係は8,000億円(内歯関係435億円)となっている。この数字をどうみるか。ご専門の方々のご判断にお任せしたい。

究機関別 推定研究費TOP10

研究機関                                推定研究費          登録課題数

東京大学                                   762.01億円                                                5,231

大阪大学                                   553.24億円                                                3,909

京都大学                                   531.89億円                                                3,889

東北大学                                   303.49億円                                                3,167

慶應義塾大学                             286.92億円                                                1,906

九州大学                                   257.12億円                                                2,701

国立がん研究センター                  236.61億円                                                647

理化学研究所                             214.60億円                                                1,192

東京医科歯科大学                       190.30億円                                                1,710

名古屋大学                                167.00億円                                                2,119

ところで、論文についてアクセスランキングも随時行われており、2週間前までトップを維持していたのはなんと「八つ当たりする魚の発見」である。総合研究大学院大学の院生が同種固体サイズの異なる魚を水槽にいれLサイズがMサイズを攻撃するとMサイズは5秒以内にSサイズに八つ当たりする事例2800を観測、指導教官沓掛講師と共に纏めて発表した。霊長類以外に魚といえども高度な社会的情報処理と意思決定を行っていることを示していると説明している。 なるほど面白い。だが、発見である。社会・心理学分野での貢献が大であろうことを期待はするが、工業会に棲息している我が身としては、折角の科研費を有効に利用して発見から発明への展開できるのか否か興味がある。それともビックデーター、AIを駆使する人物もしくはコンピューターロボットがCDO(Chief Digital Officer)として的確な判断ができるボスとなり、疎い者がイジメの対象になるとでも想像させるのか・・・。

そんなもやもやしていたところ龍谷大と京都大学では舞鶴湾に棲息する15種類の魚について「海に生息する魚種間にはたらく複雑な関係性を捉えることに成功 ~緩い種間関係と種の多様性が生態系を安定化~」を発表。

ポイントとして(原文引用)

  • 非線形力学理論を利用して開発した新しい数理的データ解析手法により、舞鶴湾での過去12年間の生物個体数変動データを分析。
  • 15種の生物の間に働く複雑な関係性(目には見えない力)が刻々と時間変化する様子を捉えることに成功。
  • 生態系の安定化には、出現する生物種が多いことや、種間に及ぼし合う影響が緩やかになることが大きな役割を果たしていることを新たに発見。
  • 生態系観測によって「自然のバランス」の変化を捉える新技術の開発につながると期待

·       

1 本研究の対象となった舞鶴湾の15種の生物と、個体数変動データから明らかになった生物種間の14の関係性(種間相互作用)

·        矢印は影響を与える種から、影響を受ける種に向かって引かれている。色は影響の符号(正負)で、青色()は平均的には相手を増やす作用、赤色()は平均的には相手を減らす作用を表している。

 新い数理論的データ解析により「新技術開発のヒント」になれば発見から発明になる。尚発明の要件とは産業上の利用可能性*新規性*進歩性である。例えば鰻の稚魚がなぜ絶滅するのか、この論文では絶滅しないバランスがある筈だとすれば、何を制御すれば良いのか。この研究によれば絶滅種を回避して共存することが可能であるとして、上記のAI音痴の社員がイジメにあうのではなく、共存への裏方的価値があるとも示唆しており興味深い。

研究の最終ゴールが何を目指して実施しているのか、この「日本の研究.COM」は教えており、オオッと感心するテーマあり、日本も捨てたモノではないと感ずる時もあるが、地方国立大学の1講座予算平均60万円とあっては、この先が思いやられるのも事実。

配水用ポリエチレンパイプ

今年は地球自転速度が低下し赤道が収縮するとの報告がなされている。その結果、プレートの移動変動に伴う地震・噴火などが昨年より頻度が多くなるのではと言われている。そこで今回はライフラインで重要な耐震性水道パイプについて考えてみた

いつのころから水道の蛇口から赤さびが出なくなったのをご存知でしょうか。水道工事予定の回覧板には給水再開時に赤さびがでますとお知らせがあった。今はない。若い人はこんな時代があったなんて知らないだろうが、1970年前は頻繁にあった。水道管が鋳鉄管の表面にエポキシで被覆はされていたとは思うが剥離し、やがて錆が発生した。1970年以後は口径50mm以下の主として家庭用給水用パイプは低密度ポリエチレン性であり錆ないが、時々薄肉円筒状のフィルムが分岐管を閉塞する事故が発生した。パイプの内面が一皮むけしている事故が全国あちこちで発生するに至り、解析と対策が実施された。どうやら殺菌消毒液として僅かに配合されている次亜塩素酸が影響しているようだとして、短時間で結果がでるよう高濃度次亜塩素酸水にポリエチレンのサンプルシートを浸漬するとブリスター(泡)が発生した。ポリエチレンに耐候性改良剤として添加されているカーボンブラックが原因であることが判明した。そこで急遽内面にはカーボンブラックを配合しない内層と外面は耐候性改良のためのカーボンブラックを配合した2層パイプにて切り替えることとした。その後 事故は発生していない。

しかしながら、高濃度次亜塩素酸水に浸漬したポリエチレンシートにブリスター(泡)は発生したが、当初報告されたフィルム状剥離は再現できなかった。急遽の切り替えに勢力が割かれた。筆者は何故発生するのかカーボンブラックが起点だとすると何か理由があるはずだと考えカーボンブラック中の電子スピン濃度と関係することが分かった。この考えは其の他の用途でカーボンブラック配合が必要な樹脂製品に応用することができた。パイプ事故で躓いたがWhy?と考えたことで他に応用できたことは良かった。でも今でも何故剥離フィルムが生成したのか?は考えている。材料屋の直感としてはサイジングダイ通過時の内面剪断問題であろうと想像していた

この事案と前後してカリフォルニア大地震があり、ポリエチレン製のガス管は断層があっても切断事故はなかったことが報告された。ポリエチレンでも中密度リニアーポリエチレンで耐環境応力亀裂性、衝撃強度など優れた材料が選択されていることから国内でも同様材料開発が進み、かつパイプとパイプを接合する装置を開発した。この接合技術は次に大きな役割を果たすことになる。因みに地中埋設のパイプを後で他の土木工事で切断しないように黄色に識別されている

大口径(75~300mm)の配水管については道路埋設されたとき25トントラックの繰り返し荷重に耐えられるように材料は密度の高い高密度ポリエチレンが採用されている。色は青色。高密度化(結晶比率が高い)で剛性など機械的強度は得られる上,ガス管に用いられている中密度ポリエチレンのクリープ強度大きく改善させた.これは,結晶の一部の分子が隣接する結晶に入り込み結晶同士があたかも結合したように分子設計したことと,結晶の大きさ隣接距離のバラツキが無いようにパイプを製造することで欠点が改良されて現在に至っている。高密度ポリエチレンパイプの接続にはガス管接続方式が採用された。実際埋設された地域で東北地方太平洋沖地震があったが、事故率ゼロが報告されている。写真はパイプ敷設場所が垂直方向に断層した場合と水平方向に断層した場合のモデル実験であるが、(震度6程度)の地震では問題がないことが証明されている。現在、100年寿命パイプとして官民学協力して精度アップと標準化を進めている。テストシートの短期評価に加えパイプを敷設して長時間のフィールドテストにより変化をチェックする息の長い検討が山形大学栗山教授を筆頭に配水用ポリエチレンパイプシステム協会が推進している。開発途上国は水道が普及していないが、いずれ普及したときに地震大国で過酷テストに耐えたパイプが推奨されるようにISO標準化作業の中での活躍と企業の支援を期待している

(配水用ポリエチレンパイプシステム協会HPより抜粋;但し、この表7の宮城県・岩手の市町村逆に記載されています)

 

コスメの科学(2)塗る、刺す、そしてセカンド・スキンへ

<クリームなど塗るテクノロジー>

東京にも雪が降った。なかなか融雪しないうちに次の降雪が予報されている。寒いが化粧品業界は熱い戦いが行われている。そこに科学がどう関係しているかみてみよう。

雪の形については有名な北大中谷宇吉郎名誉教授の研究が有名である。不思議に思うのは何故あの多種多様な雪マークになるのだろうか、コップに水を入れると界面張力が作用して丸くなろうとする。それに反してギザギザ分岐の形にはどうしてなるのか長年分からなかった。1977年ノーベル賞を受賞したイリヤ・プリゴジン教授が非平衡系の自己組織化・散逸構造を提唱するまでは。その答えは身近なところにあることを共同研究者の慶応義塾朝倉教授が解き明かし化粧品分野の商品開発に結び付けている。紫外線防止クリームは塗布後と水浴後ではクリームの集合状態が変わる。従来は水浴後に疎らに凝集していたクリームを理論的解析により水泳後でも均一な商品を開発された。(写真はカネボウ・慶応共同研究成果)

この理論が虎やシマウマの縞模様発現と同じだと朝倉教授を話されるが、今でも小生には難解。でも面白い。

 

 

 

 

 

<ヒアルロン酸は塗るからニードルで刺すテクノロジーに>

124日から3日間、幕張メッセで化粧品テクノロジー展が開催された。異分野でのテクノロジー進展に興味がありチェックした。その結果は購買層を反映した、アンチエージング、美肌関連の展示が多く、従来の経験に基づく商品開発(土地特有の植物から抽出成分を配合)から発酵技術を駆使しての新規原料の開発などが目に付いた。特記すべきことは、ヒアルロン酸を皮膚に塗布しても効果がイマイチだとして、皮膚下まで針を差し込みヒアルロン酸やコラーゲンを注入する試みがなされていた。ここで針?とは金属製ではなく、実はヒアルロン酸の結晶体をフィルム面の上に生成させている。ヒアルロン酸の結晶は針になるほどの強度があることに実は知らなかった。この技術はナノインプリントと称する光学フィルムの製造において急成長したテクノロジーであり、液晶テレビ、モバイル、タッチパネルなどでは無反射防止フイルム、指紋が付きにくいフイルムで実用化している。食品ではヨーグルト容器の蓋にはこの技術が応用されている。以前は蓋にヨーグルトが付着していたが、いつの間にか蓋にはつかなくなっている。フイルム、アルミ箔の表面にナノサイズの突起が転写されている。

ナノと今回の化粧品ニードルとは寸法は違うものの、成形法については同類だろうと想像している。写真はコスメディ製薬のパンフから抜粋した。

 

 

<セカンド・スキン>117日の日経によると資生堂は以下の発表を行った。

米オリボ・ラボラトリーズ(マサチューセッツ州)が持つ「セカンド・スキン」と呼ばれる人工皮膚形成技術の特許と関連事業を買収した。買収価格は不明だが数十億円規模とみられる。オリボ社の数人の研究者も資生堂グループに取り込む。セカンド・スキンは肌に特殊な高分子化合物を配合したクリームと専用の乳液を重ねて塗る。すると、人工皮膚が瞬時に形成されて凹凸を補正しシワやたるみを隠せる。 直ぐ外出する用事があるときには便利な「化粧」だと思われる。

コスメの科学

昭和初期の歌手は直立不動。昭和中期では簡単な振り付けとバックダンサー。昭和後期から平成初期ではジャニーズを初めとしてダンスができないと歌手にはなれない。ついに平成30年になると歌手かダンサーのどちらが主役か分からなくなってきた。大阪府立登美丘高校ダンス部のキレッキレッ超ハードバブリーダンスが国内外の話題と高い評判をさらった感がある。あの高校生たちは母親の当時の服を纏い、ケバい化粧でメイクアップしてバブル時代(1986年から約5年間)を彷彿させていた。

でも化粧品は当時の物では無いとTVを観ながら気づいた。メイクアップとメイク落としは当時より大きく変化している。アイシャドウ、口紅、アイライン、ファウンデーションなどメイクアップは汗や飲み物でも落ちない新素材研究が進み、一方メイク落としは何がなんでも落とす機能が要求され研究されている。まるで盾と矛の関係である。最近のメイクアップには汗や水に対して親和性のない(疎水性・撥水性のある)シリコーンやフッ素系材料が配合されている。顔料はメイクアップ中のオイルに分散して光沢などを強化するために顔料表面を疎水性コーティングがなされている。なおさら従来のメイク落としでは取れない

小生はこの分野は素人だが面白いので文献を捜していたら山形大学の野々村美宗教授の分かり易いペーパーが見つかった(化学vol73.No.1 2018)。特にメイク落としの記載がなされている。結論から言えば界面活性剤の種類と形態の進歩で、シリコーンやフッ素系配合がなされていても拭き取ることができる。

身近な界面活性剤として食器洗剤、洗濯洗剤などがあるが、洗剤メーカーのCMでよく観るように界面活性剤が汚れの表面に付着して、やがて汚れを界面活性剤の内部(ミセル)に取り込むメカニズムになっている。(図-1)

 

最近のメイクアップを除去するには。まず界面活性剤成分中のオイル量を高めシリコーンやフッ素系成分が多く取り込まれるように形態にも工夫がなされている。その形態として界面活性剤が液晶のように揃っている(液晶型メイク落とし)か、オイル成分と親水成分の両成分が同時に存在する形態(バイコンティニュアス型メイク落とし)を利用している。そのため、少量の水、泡で拭き落とすことが可能となった。(図-2)

 

界面活性剤の世界に疎い小生にとって液晶型、バイコンティニュアス型があるとは知らなかった。しかしながら、高分子材料の高付加価値化手段としてはポリマーアロイがあり、通常利用される手法である。バイコンティニュアスとは言わずスピノーダル型と表現している。材料設計の考え方としては似ていると思われる――――――――――――――――――――――――――――――――――

(参考)界面活性剤 特徴を超要約すると以下の通り。

アニオン系          石鹸、合成洗剤 →植物由来原料へ転換

カチオン系          生体がマイナス帯電なのでプラス帯電のカチオンは毛髪リンスなどに利用                         抗菌性もあるので院内感染防止にも利用         

両性                  アニオンもカチオンにもなれる 広いpHで利用可能。洗顔、シャンプーなど

ノニオン              どんなタイプとも一緒に利用できる。化粧品、食品など

シリコーン系        サラサラ化粧品を支える

フッ素系              水にも油にも強い→歯の成分ヒドロキシアパタイトの表面に吸着するので

            撥水・撥油性を利用した歯科向けに展開

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                                     (日刊工業新聞 界面活性剤 抜粋)

モーターサイクル2 (ヘルメット)

年末の紅白では「欅坂」、年始の駅伝では「襷」が話題に。木偏に衣偏、右側が書けなくても意味は分かる。 買い物ついでに隣接するオートショップを覗いたところ、モーターツーリングに欠かせないヘルメットがずら~っと並んでいた。工事用ヘルメットと違い、ド派手でキレッキレッデザインは風を切って走行する風景との鮮やかなコントラストを描きだすことで似合うのだろうと想像した。ただ素人にとっては難解なワードVAS-V、XDF・・・オンパレード。日々進化するテクノロジーを表現しているとは思うが具体的に何だろう?と陳列台の前で考えてしまった。WEBで調べるとVASとは「新シールドシステム」だとか。漢字世代の当人は可変シールドシステムなんだろうなぁと解釈したが、それならそうと書いてはどうか?と瞬間思ったが、ヘルメットの日本製品は世界から信頼を得ており、海外需要が多い事情もあるのだろう

さて、ヘルメットにはPSCマーク(業者特定試験自主検査基準)やSGマーク(製品安全協会認定)などが添付されている。前提としてJIS規格に合格する必要がある。ヘルメット特有の規格としてSNELL規格もある。 どの規格が厳しいのかは専門家にお任せするが、小生の自動車部材開発時の苦い経験から言えるのは衝撃モードが違えば歪み速度が異なるので単純な比較はできない。高衝撃装置で高い数字を叩きだした材料が数値の低かった材料に実用テスト評価では逆転したことがあった。検証ではある想定事故での破壊衝撃モードが異なっていたのである。解析を通じた評価法の開発も重要である

ヘルメットの構造についてはYouTubeで新井製作所工場見学が公開されている。これによるとガラス繊維の不織布、ガラス繊維織物、ガラス繊維を特定方向に配列したシート、及び樹脂製ネットなど10~12種類を積層して型に入れ熱硬化性液体(2液混合)を注入する工程が紹介されている。歯科技工の方なら、注型時の泡の問題は?と気になるところだが、そこは公開されていないが脱泡工程があると想像。 人工衛星の太陽光パネルの成形では炭素繊維に熱硬化性樹脂液体を注入するがJAXAでは泡問題を解決するために製品サイズより大きめの樹脂フィルムで包装し真空ポンプで脱泡する工程を設けている。歯科技工における石膏の真空撹拌とバイブレーター処理と類似している。注型後は加熱重合により複合帽体ができあがる。いわゆるFRPFiber Reinforced Plastic)で小型船舶の製造に利用されている

ガラス繊維は種類によりけりで強度に違いはあるが、影響が大きいのは繊維径である。一般工業品での好適に利用するガラス繊維の直径は13~20ミクロンである。ガラス繊維の表面は樹脂との濡れ性を改良するためのカップリング剤処理がなされている。ガラス繊維を平織り、綾織りと衣類用生地と同じように織ることができる。ガラス繊維の径を4~6ミクロンの極細繊維で織ったものが東京ドームの天井に採用されているのは有名である。ドーム内の圧力変動があっても繊維が折れないほどしなやかである。一般工業品への適用を試みたことがあるが、極細ガラス繊維は非常に高いので断念した。

2040には自動車のボディが鋼鈑から熱可塑性炭素繊維複合体(CFRTP)に置き換わると予想されており、これにつれて炭素繊維の低価格化が進めばヘルメット帽体も軽量なCFRTPに置き換わる可能性はあるかも知れない。CFRP製ヘルメットは先のSAMPE(先端複合材料展)で発表があり一部で市販開始されたが、将来メイン材料になる可能性があるか、それとも製紙メーカーが必死で開発を進めているセルロースナノファイバー複合材料になるのか動向が注目される。

(写真はYou tubeより抜粋 各種部品、中間帽体、熱硬化樹脂注入効果後の帽体) 

殺菌剤・二酸化塩素が大化け?

ALWAYS三丁目の映画は東京タワー建設当時を舞台にしている。当時の町医院の待合室にはかすかな塩素臭が漂っていた。子供心にも清潔感・安心感のようなものがあった。あれは殺菌処理のための次亜塩素酸と推察、先生は手もそれで洗っていたように記憶がある。

冬の季節になると10年ほど前からTVのCMで消臭・殺菌剤として二酸化塩素含有ジェルなどの商品をみることがある。当初はインフルエンザ対策を謳っていたが薬事法抵触もありトーンを下げているようだ。二酸化塩素は不安定な化合物で塩素と酸素に分解する。この塩素は酸化剤として強く菌のDNAを破壊するのだろう。臭気も強いので健康に本当に良いの?と特に幼児をもつ家庭で疑問をもたれる方から公的衛生機関への問い合わせが今でもあるようだ。医院や家庭で二酸化塩素に代わりそうな安心な装置については末尾に紹介する

前置きが長くなったが、今回は二酸化塩素が化学合成の歴史に大きな働きをしたことを記載する。つい先日、大阪大学の大久保敬教授らの研究グループは、常温・常圧で空気とメタンからメタノールを作り出すことに世界で初めて成功したと発表。この反応に重要な働きをしたのが二酸化塩素。酸化剤として作用。図-1参照。解説を発表資料から抜粋する

 「メタンは化学的に極めて安定な物質なので、メタンを酸化するためには、非常に強力な酸化剤を必要とします。しかし、メタンに比べ生成物のメタノールの方がより簡単に酸化されるためにメタノールとして取り出すことができず、メタノールが酸化された二酸化炭素や一酸化炭素に速やかに変換されてしまいます。そこで本研究では、具体的には、図1に示すようなフルオラス溶媒と水の二相反応系を考案しました。このフルオラス溶媒は、メタンや酸素などのガスを多く溶かす性質を持っています。反応の手順は、まず、水中では亜塩素酸ソーダと酸が反応して二酸化塩素が発生します。その後、二酸化塩素はフルオラス溶媒に溶け易いのでここでメタンと反応します。生成物のメタノールやギ酸は、フルオラス溶媒に溶けにくく、速やかに水中に移動するので、これらが二酸化炭素などへ酸化されることなく生成物は次々に水中に濃縮される。」

産業界としてはノーベル賞級の発明だと思う。日本周辺の深海にあるメタンハイドレードを合理的方法で取り出すことができると、この反応を利用してエネルギー大国への変換やメタノール原料の燃料電池車の競争力が高くなることが予想される。時あたかも予算編成のタイミング、大型テーマとして予算を付けて欲しいものだ

一方、臭気を素早く分解し、ノロウイルスなどの院内感染源も死滅させる装置の開発がなされている。こちらは光と酸化チタンの組み合わせで、既に建造物の防汚、部屋の臭気対策として活躍しているが、最近になって酸化チタン成分の何が効果をもたらしているのか?の解析を通してより効果のある酸化チタンと最終製品への開発がなされた。効能については富山大学ウイルス学専門白木教授により確認されている。(図-2)

小生の研究仲間がこのプロセス開発に係わったことで関心がある。 歯科医院内のクリーン、技工所でのアクリルシロップ重合なので臭気対策にも有効だと思われる

(補注フルオラスと は、「親フルオロカーボン性」の意味で、高度にフッ素化されているゆえ、水や有機溶媒 とも混和せず、また、低表面エネルギー、耐熱性、光学あるいは電気的特性を有する。ダイキンHPより

秋から始めた自由気ままなブログをご愛読頂き有り難うございます。本年は3Dプリンターが本格実用化の扉を開けたと言えます。歯科技工はその先頭を走っています。コスモサインは皆様とご一緒に2018年も歯科技工IOTツーリングできることを期待しています。

モーターサイクル(その1)

俳句プレバトルで千原ジュニアが昇格した句

750CC(ナナハン)の タンクにしがみつく 寒夜」

ライダーならずとも上手いなぁ~と感心する。ライダースーツ、手袋、フルフェイスヘルメットで身を纏っていても寒い。タンクを介してのエンジンの温もりは冬の季節はありがたいと。でも、単にそれだけではなく、しがみつく姿勢は快調なツーリングを支えてくれた愛車への例えば乗馬に労をねぎらう様をも想像させる

二輪は排気ガス、騒音規制、及び需要の減退もあり中型・小型の生産中止が相次いだが、その一方でヤマハは前方2輪のLMW(コーナリング時にフロント二輪と車体を同調させ、リーンさせる機能)を、ホンダは、ライダーがバランスを保たなくても自立する二輪車「Honda Riding Assist-e」を発表した。渋滞や信号での発進・停止時など、低速走行時でもマシン自体がバランスを保ち、「倒れないバイク」でライダーの負担を軽減するという。いずれも、新規ユーザーが参入し易いことを意図しているのだろう

カワサキは人気のNinjaシリーズを発展させ300馬力モデルを開発しBMWを追い抜いた。カワサキは航空機エンジン技術を有しているが、BMWは自動車・二輪の前身が航空機エンジン生産しておりその共通点が面白い

カワサキ以外の二輪メーカーは自動車併産にシフトしたが、二輪ライフ・スピリッツを四輪に活かしているように感ずるのは小生だけではないだろう。ヤマハは長年エンジンをトヨタグループに供給して四輪は主に特殊作業用に限定していたが、先の東京モーターショーでは二輪ライフテイストタップリのSUVを発表し、二輪とSUVを結合すると新しいカーライフが提供できることを提案。二輪ライダーも共感すると思われる

カワサキの300馬力、時速320キロを必要とするライダーはそう多くはいないが、その技術への憧れを持たせるには充分である。カワサキスーパージャージャー部品のインペラーは13万回/分の超高速で回転する。川崎重工の航空機エンジン開発部隊が設計した遠心式スーパーチャージャーに組み込まれている。またインペラーと形状が類似している船舶のスクリューを設計製造している同社船舶部隊とのコラボもなされたと聞く。外観風貌は従来のNinjaと変わらないので乗ってみて驚くライダーをバイクが見ているように思える。乗りこなすスキルのないジョッキーを馬の方が値踏みするように

尚、インペラーの製造は金属ブロックからの5軸~6軸切削マシンであるが、将来さらに形状が複雑になると3Dプリンターが登場するのではないかと考える。 製品設計は「成形加工可能技術」を前提になされる。「高速で流体を抵抗なく移送する羽根」を前提にして、高度数学を利用したトポロジー学から得られる解は現状の成形加工技術では不可能な形状となることもあり得る。

その場合、3Dプリンターが活躍すると予想する。 

写真  カワサキZ900RS(東京モーターショー)及びインペラー

樹脂価格 ナフサリンクとシェールガス

直近の樹脂関係ビックニュースは東レがトヨタなどに自動車用材料(ナイロン、ポリフェニレンサルファイド)の価格をナフサリンクから外すよう異議申し立てをしたことである。ナフサとは原油を熱分解して採れる成分で石油化学はこれからエチレン、プロピレン、ブタン・・・のアルキル炭化水素類とベンゼン、キシレンなど芳香族類が一定の割合で精製分取している。一定の割合で生成するので芳香族化合物のみ生産することはできず、エチレンやプロピレン由来の樹脂や化成品を生産する関係にある。自動車で最も多く採用されている樹脂はプロピレンを出発原料とするポリプロであり、ほぼ価格はナフサの価格にリンクするだろうとトヨタなど自動車メーカーは世界の原油価格、ナフサ価格から樹脂価格を算出した数値で樹脂メーカーと交渉し値決めがされてきた。ところが2005年前後から米国南部を中心としてメタン・エタンが主成分で芳香族化合物を含有しないシェールガスの採掘が活発化しこれを原料とするポリエチレン、ポリプロピレンの大型プラントが順次立ち上がったこと、及び、ナフサと同成分の燃料用名称ガソリンの需要減退もありナフサ価格は低く抑えられている状態にある

一方、東レが異議申し立てした材料は芳香族化合物(脚注分子式参照)を原料とする樹脂であり、ナフサ原料からしか合成できない。東レにすれば芳香族化合物の量は増えず値上がりし、樹脂の価格は低く設定され26年間の我慢も限界に来たとセンセーショナルな見出しの新聞記事。ナイロンやポリフェニレンサルファイドの製造工程が長いので合理化にも限度があるのだろうと思われる。芳香族化合物由来の樹脂にはポリスチレン、ABS、ポリエステル、エポキシ、熱硬化性樹脂などあり機能性が余程評価されないと採算が合わない部類に入る。逆に余程の機能性向上開発がなされトヨタグループが採用した場合は開発費も考慮した値決めがなされるので二番煎じ技術は考慮対象外、一番で無ければ苦しい

ここで歯科材料として気になるのはアクリル樹脂であるアクリルモノマーの製造法を見てみよう。古典的製造法としてACH法(原料はアセトン、青酸、メタノール)戦前は化学チェーンの中で副生成物を利用して合成。次に登場したのが炭素数4のブタン・ブチレンを直接酸化する合成法(C4法)である。国内アクリルメーカーはACH法と直酸法を採用している。ところが2008年には三菱ケミカルがエチレン、メタノールから合成する方法を開発し大型プラントが稼働させた。シェールガス由来のエチレンでも対応できることからコスト競争力がある。歯科材料は工業用途よりボリュームは小さいが、光重合特性や高強度・高靱性など機能性のあるアクリル誘導体の合成能力がより強く求められる。世界の40%シェアを有する三菱ケミカルに対してクラレ、旭化成、三井化学、住友化学、三菱ガス化学等がどのような展開をするか注目される

(参考)シェールガス(頁岩の層の中に閉じ込められたガス)地上から深さ2000~3000mまで掘削し頁岩に到達すると先端ノズルが水平方向に曲り掘削を3000m続ける。次に界面活性剤を含む水を注入し頁岩層を水圧破砕してガスを回収する。掘削パイプはシームレス管、ドリルの先端は摩耗が激しいのでカーボンナノチューブ複合材が適用されている。また当初は600種類に及ぶ界面活性剤の混合品が利用されていたが、掘削地域の土壌汚染が問題となり、現在は使用後バイオ分解する材料が利用されている。いずれも日本のメーカーが活躍している。

シルクとPETボトル

横浜にはシルクにちなんだ博物館や倉庫があり八王子や関東を中心とする生糸生産地からこの地に運ばれ欧米に出荷されていた歴史的名残がある。シルクは蚕が口から蛋白質のフィブロインを糸状に吐き出し繭となり、それを解いて何本かを束ねた撚糸としている。材料屋として興味があるのは強度、しなやか、光沢及び吸湿性があり肌にも良いのは何故だろうか?である。蛋白質フィブロインは天然高分子だから蛋白質ユニットが幾つか連結した形になっているが、分子量はなんと37万と極めて高いのに驚く。合成高分子で我々お馴染みのあるのはスーパーに置いてある極薄ポリエチレンフィルムであるが、その分子量は50万である(測定法が異なるので一概に比較はできないので、大まかに見て)。とするとシルクが強度を発現するにはもう一つの要因がある。蚕が口から糸を吐き出すときに体を捻って口を振って糸を延伸しながら吐き出していることを見つけた人がいる。合成高分子の繊維製造でも延伸により強度を発現させているが、蚕は「延伸」「強度」などつゆ知らず押出―延伸―繭成形を自然に行っていることに驚く。繭から長さ1300mの糸切れなく連続繊維が取れることも驚きである。

現在は繊維に限らず包装材料の多くはPET、ポリプロピレン、ナイロンなどを延伸して薄肉・強度・透明・ガスバリヤー性能を満足させている。その一つがPETボトル成形にみることができる。原料はポリエチレンテレフタレート(略PET)で主用途は繊維。全体の1割程度がPETボトル。分子量(極限溶液粘度法:相対的にご判断下さい)は、0.550.7の繊維用に対してボトル用は1.2と非常に高い。以前は直接1.2まで重合することができないので0.6粘度品を連結(固相重合)して1.2としていたが、最近になり触媒や工程の改良で直接重合できるようになった。PETボトルの成形のスタートは試験管と類似のプリフォームを成形するところから始まる。

1)原料メーカープリフォーム成形→ボトル成形業者が購入し加熱成形→飲料メーカー

2)ボトル成形業者が内製でプリフォーム成形しボトル成形→飲料メーカー

3)飲料メーカーが一貫成形―殺菌―飲料充填

この工程の中で強度と透明性はプリフォームを延伸することがポイントである。

参考資料はボトル成形機メーカー(青木固研究所)の資料を抜粋した。

乾燥されたPETペレットを射出成形してプリフォームを成形(ボトルの底に射出したときの跡がある)、成形温度が冷えないうちにボトルの内部に延伸棒でプリフォームを垂直方向に延ばし、同時に空気圧力で横方向(円周方向)に延伸すると垂直・横方向の2方向に材料は延伸され強度と透明性が確保できる仕組みである。この装置では2)3)が可能。

PETボトルに高温注意とあるのは、延伸したときの温度以上のモノを詰めると(樹脂は延伸されていた記憶を思い出して)戻ろうとするからである。高温充填向けには耐熱材料との複合化がなされている。

最後に、繭から織物向け繊維を取るときに繭の毛羽をとる必要があるが、これが保湿効果や加齢臭対策になるとして今や引っ張りだこ状態。繭を原料とする用途はこれからも広がるだろうが、肝心の桑畑が課題。デジタルカメラ登場でネガフィルムカメラが完全衰退すると思いきやインスタグラムの急進で増産している現象など面白いこの頃である。